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【社説】

ソマリア派遣 粗い論議を懸念する

2009年1月23日

 ソマリア沖の海賊対策として現行法での海上自衛隊派遣を与党が了承した。銃撃戦も想定される。慎重な判断が不可欠だが、論議が粗すぎた感は否めない。本来は国会で徹底審議すべき案件だ。

 自民、公明両党は二十二日、自衛隊法に基づく海上警備行動で海自護衛艦をアフリカ東部のソマリア沖へ派遣することにお墨付きを与えた。新法制定までの「当面の応急措置」という。浜田靖一防衛相が近く派遣準備を指示する。

 ソマリア海域は年間二万隻、日本の船も二千隻が通航する海上交通の大動脈だ。この要路を狙ってロケット砲などを備えた海賊が近年急増、昨年は百十一の事件が発生するなど被害が続出した。

 国際社会は国連決議に基づき取り締まりに躍起だ。中国は昨年末駆逐艦を派遣。韓国も派遣を決めた。そんな中で日本が傍観しているわけにはいかないと、海賊対策を急ぐのは理解できる。

 だが海自派遣をとりあえず現行法で、というのは無理がないか。

 海上警備行動は海上保安庁による対処が困難な場合、自衛隊に発令される。過去二件は日本近海だ。地理的概念が定められていないからといって、アフリカ方面まで派遣できるなら、活動範囲は際限がなくなってしまう。

 海保でなぜできないかの検証もそこそこに、ゴーサインを出すのは、海自派遣の結論ありきといわれても仕方がないだろう。人命損傷もあり得る自衛隊派遣は慎重かつ十分な議論が求められる。

 護衛艦は日本籍船、日本人や日本の貨物をのせた外国船などを保護する。武器使用は正当防衛と緊急避難に限るという。

 与党内の議論では、海賊に乗っ取られたタイの漁船をインド海軍が撃沈した事例を「緊急避難」と肯定する雰囲気もあったようだ。乱暴な議論の印象を否めない。

 さらには武器使用の具体的基準を防衛省が作成する。正当防衛や緊急避難で対処できない不測の事態にどう臨むのか、その詰めが生煮えのまま、防衛省に判断を丸投げするのは疑問だ。文民統制上、好ましいことではない。

 日本の貢献は、海自派遣以外にも、周辺国への海賊対策のノウハウや資金提供など幅広くあるはずだ。海賊の実態も分からない部分も多い。あわせて国会で議論するのが先ではないか。

 こうしたチェックを飛び越えての派遣では、自衛隊員にしてもたまったものではないだろう。

 

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