社会保障の機能強化や財政再建を目的とした税制の抜本改革の実施時期をめぐって、政府は経済状況を好転させることを前提に、11年度までに必要な法制上の措置を講ずることになった。自民党が政府案を受け入れたもので、23日に閣議決定する09年度税制改正関連法案の付則に盛り込む。
この問題では、麻生太郎首相が昨年12月末に閣議決定した持続可能な社会保障構築の「中期プログラム」の内容を付則に入れることに意欲を示していた。
11年度からの消費税率引き上げのため、あらかじめ10年に必要な法制上の措置を講ずるというものだ。与謝野馨経済財政担当相らが支持した。
それに対して、党内では中川秀直元幹事長らを中心に、増税の時期を盛り込むことに反対が強かった。
最終的に、必要な法制上の措置を11年度までに講じ、増税時期は明示しないことで妥協が成立した。具体的実施は、景気回復の状況や国際経済の動向などを見極めて法制化する仕組みとされ、増税の実施には2段階の手続きが必要な方式となっている。
日本の財政が一段と厳しさを増していることは客観的事実だ。税収は08年度に続いて09年度も低迷することは確実だ。10年度もあまり期待はできない。一方で、財政支出は拡大方向にある。景気の悪化を食い止めるための財政出動はしばらく続きそうだ。国民の安心対策としての社会保障や雇用での手当ても必要だ。
先ごろ、内閣府が試算した10年代までの経済財政展望でも、財政健全化の前途は厳しい。歳出の抜本的見直しをした上でのことだが、経済が回復したいずれかの時期の増税は避けられない。これは超楽観的な成長論者や極端な小さな政府論者を除けば、自民党、民主党を問わず共通認識と言っていいだろう。
ところが、与党は消費税を含む国民負担増で国民に信を問うことをしていない。自民党税調の税制改正大綱や政府の「中期プログラム」でその方向を示してはいるが、政策決定過程のあり方からすれば、何らかの形で負担増を法律に盛り込む際には、あらかじめ有権者の意思を確認すべきである。それを抜きにして、増税に向けた法律が策定されることを国民はどう受け取るだろうか。
この法案が成立すれば、政府は11年度に向けて消費増税を含む抜本税制改革法案の準備に入る。さらに、景気の本格回復を確認した上で、具体的な実施時期や増減税の内容を改めて法制化する。
これまで、政治の世界では選挙で増税を取り上げることはタブーとされてきた。しかし、公共サービスを過不足なく実施するためにも、もはや逃げるわけにはいかない。国民の意思を問わずに、増税の準備を行うことは問題が大きい。
毎日新聞 2009年1月23日 東京朝刊