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社説

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イージス艦事故―勧告を重く受け止めよ

 人はだれでも過ちを犯す。

 それを補いあうために組織の連携やシステムの進化がある。ところが最新鋭の自衛艦の中でそれができていなかった、と厳しく指摘されたということになる。

 海上自衛隊のイージス艦「あたご」と小さな漁船がぶつかり、2人の漁師が命を落としてから間もなく1年。原因の究明と再発の防止をめざした海難審判は、あたご側に衝突の主な原因があったとの判断を示した。

 なかでも注目すべきなのは、海難審判が組織の問題にも切り込み、あたごの所属部隊に対して、安全教育を徹底するように勧告したことだ。海上自衛隊は、きわめて異例の勧告を重く受け止めなくてはならない。

 驚くばかりの不注意が重なった。多くの船が行き交う海の上で、あたごの乗組員たちはまわりを十分に監視していなかった。

 海難審判で繰り返し問われたのはこの点だ。とりわけ事故当時の当直責任者は、漁船の接近をきちんと把握せず、あたご側に衝突を避ける義務があるのに、適切な行動をとらなかったとされた。

 だが、問題はもちろん一人の不注意にとどまるはずがない。背景にある要因も鋭く指摘された。

 たとえば、事故の直前まで任務についていた当直責任者は、衝突の30分近く前に見張り員から漁船群の灯火について報告を受けていた。だが「操業中の船だ」と軽率な判断をし、次の当直責任者に「衝突の危険はない」と引き継いでしまった。

 また、当直責任者を補佐する立場の乗組員は、別の作業をしていて漁船群の動きに注意を払わず、当直責任者が犯した判断ミスを補えなかった。もしこの乗組員が二重チェックをする態勢をとっていたら、ひょっとすると事態は違っていたかもしれない。

 乗り組んだ一人ひとりが連携し、安全に船を動かす。そうした基本動作がおろそかにされていたと言うほかあるまい。カバーしあうはずが、誰も十分なカバーをしなかったということだ。

 あたごの関係者は審判で、事故後に安全対策の見直しを進めていると主張した。しかし組織への勧告が出された以上、それで十分かどうか考え直すべきではないか。海上自衛隊はあらためて事故の反省点を洗い直し、再発防止の手だてをとるべきだ。それが事故を起こした組織の責任である。

 「国民の生命・財産を守るべき自衛隊がこのような事故を起こしてしまい、誠に遺憾」。あたごと漁船の衝突について、防衛白書はこう記した。

 同じような悲劇を二度と起こさないよう自衛隊が変わらなければ、犠牲者の遺族はやりきれないだろうし、国民の信頼が得られるはずもない。

資金繰り支援―日銀は先を読み大胆に

 日本銀行が企業の資金繰り支援へ、さらに一歩踏み込んだ。金融政策決定会合で、社債の買い入れ検討を事務方に指示し、早急に実現させる方向となった。昨年暮れに打ち出したコマーシャルペーパー(CP)の買い入れは、3兆円規模にすると決めた。

 社債やCPを発行する金融市場は、米欧だけでなく、国内でも極端に冷え込んでいる。大企業でさえ発行が困難となり、銀行の借り入れに殺到。それに押し出され、中小企業が借り入れ難に陥る問題が広がっている。

 年度末の3月には、社債の償還の山が来る。新たに社債を発行しての借り換えができないと、償還資金を借りに大企業がまた銀行へ向かう。日銀の社債買い入れは、このような資金繰り難の波及を止めようというものだ。非常時だけに、日銀は先手先手で効果的な対策を打ってほしい。

 CP買い入れの上限も、大方の予想だった2兆円を上回る3兆円にした。CP市場の残高は全体で17兆円程度なので、日本政策投資銀行が買い取る予定の2兆円とあわせ、3割近くが公的に消化されることになる。社債の借り換え難をCP発行でしのごうとする企業も多いため、金融全般の引き締まりを緩和する効果が期待できる。

 日銀はこのほか、金融機関に資金を供給する際の担保として、上場不動産投資信託(Jリート)が発行する債券や債権も認めた。地価の下落傾向が景気の下押しや金融不安に結びつくのを回避する狙いもあるようだ。

 資金繰り問題は本来、金融機関が自己資本を増強して融資余力を高め、克服すべきものだ。改正金融機能強化法による公的資本注入の申請について、札幌北洋ホールディングスや南日本銀行が検討を表明している。ほかの金融機関も続くよう期待する。

 だが申請が広がっても、臨時株主総会の開催など手続きに時間がかかり、年度末のピンチには間に合いそうにない。日銀が一肌脱ぐしかなかろう。

 これらにより、日銀は企業の信用リスクを背負うことになる。異例中の異例の事態だ。それだけ景気が厳しいためであり、日銀が同時に見直した経済見通しは、08年度の成長率をマイナス1.8%、09年度をマイナス2.0%へ大幅に下方修正した。物価も09年度は1.1%の下落となり、デフレ不況へ逆戻りの懸念が強まる。

 国際通貨基金(IMF)も、今年は戦後初めて日米欧が同時にマイナス成長に陥るとの予想を示した。欧米では金融システム不安が再燃中だ。

 日本の金融システムはまだ欧米ほどではないが、日本を代表する企業の赤字転落や人員削減が次々と発表されている。実体経済と企業金融が縮小する悪循環はむしろ深刻だ。当局は果断な対応で危機を抑え込んでほしい。

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