【第63回】 2009年01月23日
平野啓一郎
社会を凝視する「三島の再来」
写真 加藤昌人 |
華麗なる修辞、複眼的な人間洞察――。
デビュー作『日蝕』で芥川賞をさらった23歳の筆を、世間は「三島の再来」と称えた。あれから10年。現代にさまよう孤独を、猟奇的殺人をモチーフに長編『決壊』にしたためた。加害者の心の闇が鬱積し、綻び、ついに外部に向かって「決壊」する様、被害者にもその家族にもそれぞれ存在していた心の闇が深まり、絆が「決壊」する様が、抑制された言葉で綴られていく。
なぜ、われわれは孤独なのか。「都市生活ではなおさらだが、他人との接点が断片的になっている。職場で見せる自分と恋人の前の自分が違うといった多様性を、お互いが許容している。それは自由でいいのだが、どんなに愛している人でも知りえない部分が残る、そんな寂しさを抱えている」。
だが、殺人との距離は果てしなく遠いはずだと、あいまいな良心にすがろうとする。
「世界か自分か、どちらかを愛せるならば生きていける。両方を見失ったとき、自殺や自傷に向かうか、無差別殺人といったテロリズムへと陥ってしまうのではないか。我慢の実感のぶんだけ憎悪が滲み出ている」
『決壊』のもう一つのテーマは「赦(ゆる)し」。死刑制度にも絡む。「ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』とは違い、ロシア正教など神のいない時代に生きている者の赦しとは何か。加害者自身がいかんともしがたい環境の偶然性について、情状酌量の余地をどう考えるべきか」。小説は時に社会を鋭く凝視する。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 遠藤典子)
平野啓一郎(Keiichiro Hirano)●作家 1975年生まれ。京都大学法学部卒業。99年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を史上最年少(当時)で受賞。他の著書に『葬送』『あなたが、いなかった、あなた』など。近著は6月末発売の『決壊』(新潮社)。
第63回 | 平野啓一郎 社会を凝視する「三島の再来」 (2009年01月23日) |
---|---|
第62回 | 浅田真央 達成感を味わうために勝ちたい (2009年01月16日) |
第61回 | 野口孝仁 形ではなく気持ちをデザインする (2009年01月09日) |
第60回 | 福里真一 「ニュースと対極のものを作りたい」 (2008年12月29日) |
第59回 | 会田 誠 毒をもって現代アートに風穴を開ける (2008年12月19日) |
第58回 | 柿沼康二 漆黒の線に赤い血がほとばしる (2008年12月12日) |
【異色対談 小飼弾vs勝間和代「一言啓上」】
知的生産術の女王・勝間和代、カリスマαブロガー・小飼弾が、ネット広告から、グーグルの本質、天才論に至るまで持論を徹底的に語り合った。豪華対談を6回にわたって連載する。
PR
- 辻広雅文 プリズム+one
- ワークシェアリング導入論に潜む二つの欺瞞
- 山崎元のマルチスコープ
- 将来に禍根を残す日米の銀行損失処理
- 今週のキーワード 真壁昭夫
- 世の中が期待し始めた「年後半に景気底入れ」説は本当か?
- NEWS MAKER
- 外交ジャーナリスト 手嶋龍一 「オバマ時代に日本は受身になるな」
- 第2次リストラ時代(!?)に贈る 私が「負け組社員」になった理由
- 「正社員になりたい」強い思いが裏目に・・・。 10年間会社と対立を続ける、パート社員の「孤独な闘い」
様々なジャンル、フィールドで活躍する異才にスポットをあてて紹介する。自身の原点となったコト・モノをはじめ、自身が描く夢まで素顔の異才達が登場する。