昨年十一月の米大統領選に勝利した民主党のバラク・オバマ氏が、第四十四代の大統領に就任した。人種や世代を超えた支持を集め、自ら掲げた「変革」の具体化に挑む。
八年間のブッシュ時代は、イラク戦争や金融危機などで世界を混迷に導いたとされる。米国は新たな指導者の下で、国際社会からの信頼回復を目指す。
だが、世界規模の金融危機やイラク、アフガニスタン問題など厳しい試練が待ち受ける。オバマ政権誕生の環境を端的に言えば、内外の高い期待と山積する重い課題を同時に背負った緊迫感あふれる船出といえよう。
これほどまでに米国民や世界が新大統領に注目するのは異例のことだろう。オバマ氏は大統領選に彗星(すいせい)のように登場し、劣勢の予想を覆して勝った。閉塞(へいそく)感が漂う歴史の転換点の象徴として、好意を持って迎えられたといえるかもしれない。
就任式には黒人初の大統領が生まれる瞬間を目にしようと、史上最多の二百万人前後が詰め掛け、空前の盛り上がりを見せた。聴衆を引きつける巧みな弁舌にも関心が集まった。
熱く、高揚感のある就任演説を期待した人が多かったものの、オバマ氏は抑制した口調で主張を展開した。歴史に残るような名文句はなかったが、逆にお祭りムードをあおらない、沈着さを感じさせた。
米国の現状について「われわれは危機の真っただ中にいる。果てしない暴力と憎しみに向けて戦争を続け、経済的困難にあえぎ、自信喪失が全土に広がっている」と冷静に分析した。
目立ったのは、ブッシュ路線との決別を強く意識した内容である。市場原理主義を取ったことや、「敵か味方か」という強引な外交姿勢に対し「この(経済)危機は、市場が制御不能になることを再認識させた」「われわれの理想と安全は二者択一ではない」と指摘した。共感を覚える人も多いのではないか。
米国の再生に向けては、「世界で最も繁栄した、強い国家であり続ける」と決意を表明した。金融危機などで米国の威信は低下した。しかし、経済や軍事力などの面で世界一の大国であることに変わりはない。
オバマ氏の演説には、柔軟な感性がうかがえた。ぜひ、さまざまな国と共存共栄を図るバランス感のある大国として歩んでもらいたい。目指す米国再生が独善的になれば、国際社会からの信頼回復は難しいだろう。多様性を踏まえた協調こそ、世界の「変革」につながろう。
内閣府食品安全委員会の専門家作業部会が、体細胞クローン技術でつくられた牛や豚を食品として利用しても「通常の牛や豚と同等に安全」とする報告書をまとめた。
今後、上部組織の調査会での議論を経て、食品安全委が厚生労働省に結論を答申する。国が正式に安全性を認めれば、食品として国内で流通する可能性も出てくる。
しかし、いくら科学的に安全と評価されてもクローン食品に対する消費者の抵抗感は払しょくできないのではないか。簡単に結論を出すべきではないし、食品流通をめぐってはより慎重な対応が求められる。
体細胞クローンは、成長した動物の皮膚や筋肉などの体細胞を、核を取り除いた未受精卵に融合させ、同じ遺伝子を持つ動物をつくる手法だ。
優秀な肉質を誇る牛などのコピーを大量に生産できるとして畜産分野での研究が進められている。農林水産省によると昨年九月末までに、国内各地の畜産試験場などで五百五十七頭の体細胞クローン牛が生まれ、八十二頭が生存している。
クローン牛などについては、死産や早死にする率の高さから、食品としての安全性を疑問視する声がある。作業部会は「約六カ月以降まで成長すれば、通常の牛と同様に健全に発育する」と結論づけたが、生き残った牛が本当に安全と科学的に解明されているのか、十分に説明されているとは言い難い。
クローン食品の国内流通をめぐっては安全面のほか、生産コストや消費者の根強い心理的不安など多くの課題が待ち受ける。流通実現までにはかなりの曲折が予想されよう。国として流通を容認するには、情報開示とともに消費者が納得できる議論を詰める必要がある。
(2009年1月22日掲載)