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あの事件はいま
東京・江東OL殺害事件
2009.01.22 更新

■法廷モニターに映し出された異様な犯行過程――

 東京都江東区のマンションで08年4月、会社員の女性(当時23)が殺害された事件で、殺人や死体損壊などの罪に問われた星島貴徳被告(34)の公判が1月22日、東京地裁でおこなわれた。初公判から毎回、頭を垂れたままいっさい目を上げることのなかった星島被告だったが、5回目の今回もやはり同じような様子で、小さな声でボソボソと質問に答えた。

 事件は08年4月18日にさかのぼる。星島被告は2部屋となりに住んでいた女性を強姦しようとマンションの自室玄関で待ち伏せ、女性が帰宅したところを襲った。星島被告はおびえる女性に包丁を突きつけて脅し、自室に拉致。強姦に及ぼうとするが果たせず、事件発覚を恐れ、その日のうちに女性を殺害した。さらに、証拠隠滅を図るため遺体をバラバラに切り刻み、ゴミ袋につめて捨てたり、トイレに流したりして遺棄した。被害女性と同居していた姉が、部屋の血痕に気づいて警察に通報、事件当日から捜索が開始されたものの、女性の行方が皆目わからず、1カ月以上が経過したことから、事件は「現代の神隠し」などといわれた。

 星島被告は被害者宅の目と鼻の先で犯行に及んでいたが、報道陣の取材を受けた際には平静を装い、「警察は僕を疑ってると思うんですけど」などと笑顔をまじえて語っていた。警視庁は、被害者宅から検出した指紋と一致したとして、5月25日に星島被告を住居侵入容疑で逮捕。自供にもとづき、マンション近くの下水道を調べたところ、被害者の肉片や骨片、遺留品が見つかったため、6月に入って死体損壊や殺人容疑で星島被告を再逮捕した。

 10月に入り、論点をまとめる公判前整理手続きがおこなわれ、星島被告はここで起訴事実をおおむね認めた。さらに、弁護側が星島被告の責任能力を争わなかったため、星島被告の精神鑑定はおこなわれず、公判の争点は量刑に絞られた。

 1月13日におこなわれた初公判の冒頭陳述では、検察側がビデオを映しながら時系列に沿って事件の詳細を説明した。立証内容を示すために、被害者の肉片や骨片の写真がモニターに映し出されると、遺族らのすすり泣きが法廷内に響きわたった。被告人質問で星島被告は、女性を自室に連れ込んだ動機について、「長い時間をかけて性的快楽を与えようと思いました」などと答えた。

■被告人が現実の女性との交際をあきらめた理由とは――

 星島被告は、幼少時に両足に大やけどを負ったという。初公判で、検察側から現実の女性との交際をあきらめた理由を聞かれると、星島被告はにわかに興奮した様子でそのことを話し始めた。「女性に私の両足のやけどが気持ち悪い、キモいと言われるのが絶対いやでした。もしそんなことを言われたら、女性でも男性でも殺してしまうかもしれません」と述べ、被告の犯罪に身体的なコンプレックスが大きく影響していたことを印象づけた。

 またこのとき、星島被告が作ったという同人誌が紹介された。そのタイトルは『外道』。アニメっぽい絵で、女性が乱暴される場面を描いたイラストがつぎつぎとモニターに映し出され、星島被告が倒錯した性癖を持つことをうかがわせた。

 第2回公判(1月14日)では、星島被告が遺体を切り刻んでいく過程が明らかにされた。実況見分でマネキンを使って犯行を再現した写真がモニターに示されると、遺族があまりの残虐さに悲鳴を上げ、裁判所職員にかかえられて退廷するという場面もみられた。そんななか、質問の途中で星島被告がとつぜん、「絶対に(自分は)死刑だと思います」と叫び、検察官に制止される一幕もあった。

 第3回公判(1月19日)では、星島被告の解体行為について質問がつづけられた。しかし、弁護側が、「検察側の被告人質問の方法は、被告の人格を破壊する」と抗議したことから、一部の質問については、調書の読み上げに切りかえられた。このあと、自らの家族について聞かれた星島被告は、「両親は殺すつもりでした」などと答え、以前から親につよい殺意を抱いていたことを認めた。

■被害者の母親が証言「娘と同じ恐怖を味わってほしい」――

 第4回公判では、被害女性の大学時代の友人、元恋人、アルバイト先の上司、母親が証人として法廷に立ち、それぞれ大事な存在を奪われた無念さを語った。いっぽう弁護側からは、星島被告の元上司がただ一人の証人として出廷。星島被告が事件の犯人だという事実を、最初は信じられなかったと語った。逮捕前、星島被告が酒席で、ニュースで伝えられる女性の行方不明について、「あれは女の自作自演だ」などと話していたことも明らかになった。

 この日、法廷内のモニターに、被害女性の生い立ちを追った約30枚の写真が映し出されると、遺族席や傍聴席のあちこちでむせび泣く声が上がった。さらに検察官が涙をぬぐう場面もみられた。被害者の母親は、「星島被告を死刑にしてほしい。娘と同じ恐怖を味わってほしい」と述べ、「本当に目を覆いたく、耳もふさぎたくなる吐き気を催すような場面も多くありましたが、(裁判を傍聴した姉妹や友人ら)20代前半の子たちは誰一人逃げることもなく、殺されていく姿を耐えて見てきました」と裁判長に訴えかけた。

 22日の第5回公判では、被害女性の姉の証人尋問がおこなわれた。姉は、「(被告人が)死んでもゆるせません。お墓ができたらハンマーで壊しに行きます」などと述べ、「どうか殺人などの犯罪を考えている人は思いとどまってほしい。幸せになりたいと思ってる女の子の、夢とか未来とか希望を奪わないでください」と締めくくった。これに対し、最後の被告人質問の中で星島被告は、「死刑が正しいと思います。死んで償いになると思っていません。ゆるしてもらえるとはちっとも思っていません」と発言した。

 次回公判の1月26日に論告求刑と最終弁論がおこなわれ、2月10日に判決が言い渡される。検察側の星島被告に対する死刑求刑は必至とみられている。



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