「保険は貯蓄にもなる」という認識は、今もお客様の間で根強いようです。しかし、それは誤解です。「養老保険」という商品を例に、その理由を語ることにします。
「養老保険」は、「保障と貯蓄を兼ねる」と案内されることが多い保険です。例えば、10年満期で500万円の養老保険の場合、加入から10年間、万が一の際に500万円が支払われます。この機能は、一定期間の死亡保障を持つ「定期保険」そのものです。
ところが「養老保険」には、「死亡保障」と「同額の満期金」がついています。10年間、無事に過ごして満期を迎えると、500万円が支払われるのです。「貯蓄を兼ねる」と言われる所以です。しかし、「保障機能」と「貯蓄機能」が一緒になるのは本当にいいことなのでしょうか?
たとえば、35歳男性が大手生保でこの商品に加入した場合、年間保険料は50万円を超えますが、契約から2年後に中途解約すると、払い戻されるのは、それまで払い込んだ額の84%程度です。「貯蓄のつもりで100万円以上払ってきたのに、16万円もお金が減っていた」ことになります。
「預貯金」では考えられないことですが、「保険」では、お客様が支払ったお金の「全額が積み立てに向かうことはあり得ない」ため、こんな現象が見られるのです。保険会社が、契約直後から、万が一の場合、いつでも500万円払うためには、「保障機能」を支えるお金が必要です。当然、そのお金は、お客様から頂く保険料から充当されます。加えて、営業担当者の販売手数料なども、最初の2年間に大部分が支払われる傾向があります。
よって「積み立て」部分に残っているお金は、「死亡保障」と「担当者の報酬」に費消されたお金を引いた額になり、契約から2年後などは「大幅なマイナスからの満期金積立が始まったばかり」という状態なのです。
実際、金利が高かった頃は、満期金が払い込み保険料の総額を大きく上回ることも珍しくなかったものですが、今回の例では、509万円ほど払って500万円になるだけです。低金利の現在では、10年間でマイナス・スタートのハンデを克服するのは無理なのです。
このような原則は、「養老保険」に限りません。「保障」機能が「積立」を邪魔するわけです。逆に「保障」が主目的であるならば、「積立部分」がある保険の利用は非効率的と言えます。わざわざ、2つがセットになった保険を選ぶ必要があるのでしょうか。
というのは、35歳の男性が、10年間、500万円の死亡保障だけを持ちたい場合、会社によっては、年間2万円強で済みます。養老保険の50万円強と比べると段違いです。私なら保障と貯蓄に向けるお金は、最初から分けることにして、年に50万円近く浮くことになる保険料を別途運用したいと思います。
かつて、「保障と貯蓄を兼ねる保険」があったのは事実です。「保険であるが故にかかるコスト」を差し引いてもおつりがくる運用が出来た時代です。「貯金代わりに」という勧め方が合理性に欠けてはいても、「結果オーライ」だったのだ、と考えた方が良さそうです。
後田亨(うしろだ・とおる)
1959年、長崎県生まれ。長崎大学経済学部卒業後、アパレル・メーカー勤務を経て、日本生命に転職。 10年間、歩合制の営業職員として働く。2005年に独立し、(株)メディカル保険サービス取締役に。 07年に刊行した「生命保険の『罠』」(講談社+α新書)で、業界を知る立場から生命保険業界が 抱える問題点をあげて、評判に。近著は「“おすすめ”生命保険には入るな!」(ダイヤモンド社)。
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