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被害額急増「振り込め詐欺」 /栃木

 ◇「礼儀正しく、冷静に」追い込む犯人

 県内で08年中に被害額が急増した振り込め詐欺。内訳をみると、家族を装う「オレオレ詐欺」と、医療費などを還付すると称する「還付金詐欺」の増加が目立った。なぜ詐欺の被害はやまないのか。昨年12月、還付金詐欺の被害に遭った宇都宮市の女性(64)が毎日新聞の取材に応じ、「礼儀正しく、冷静」な物言いで、被害に追い込む犯人の手口を詳細に証言した。【松崎真理】

 ◇被害女性証言、忠告で動転

 08年12月16日午後1時半ごろ。女性宅の電話が鳴った。出ると30代くらいの男の声で「市役所の福祉課の者です」と名乗った。男は「医療費の払い戻しについて書類を送りましたが、見ましたか」と聞いてきた。「見ていない」と答えると、男は「そういう方多いんですよ。払い戻しは今日までです」と続けた。礼儀正しい言葉遣い。確かに「市職員」だと思い込んだ。

 男はキャッシュカードと携帯電話を持ち、ATM(自動現金受払機)のある近くのスーパーに向かうよう指示。男の求めに応じて携帯の番号を教えると、すぐに確認の電話が入った。

  ◆  ◆  ◆

 約15分後、指示通り左手に携帯、右手にキャッシュカードを持ちATM前に立った。「カードを入れて口座の残高を言ってください」。残高を読み上げた。その際、不審に思った店内の女性客が「振り込め詐欺じゃないの」と忠告してきた。気が動転して「周りが、振り込め詐欺ではないかと言っている」とただしたが、男は冷静そのもの。詐欺ではないと否定し、「落ち着いて、そこを離れてください」と言った。

  ◆  ◆  ◆

 パニック状態が収まらない中、5分後、再び電話してきた男の指示に従い、銀行の番号、口座番号、金額を順番に入力した。「手数料を取るみたいだけど」「気にしないで続けて」。「千葉の銀行のようだけど」「他県の銀行になることもある」。男は冷静な口調を崩さなかった。男と雑談を交わす場面もあった。女性が気付かぬ間に預金を別の口座に移された。男は「5分後に電話をするのでそこを離れないで」と言い残し電話を切った。その後、電話が鳴ることはなかった。

  ◆  ◆  ◆

 電話がないことを不審に思い、すぐに銀行に相談。銀行が女性の口座を照会すると、約100万円が振り込み済みだった。怒りよりも恐怖が女性の体を支配した。「今までどんなセールスの電話も断ってきたくらい用心深かったのに」と女性は振り返る。

 女性は夫を亡くしてから1人暮らし。オレオレ詐欺の被害に遭いそうになった近所の女性の話を聞いたばかりだった。「自分は引っかからない」。そんな油断があった。多忙な用事が済んで、ほっと気がゆるんだ時でもあった。「男の声が耳から離れない。(被害後)なるべく電話に出ないようにしている」

  ×  ×  ×

 宇都宮市では昨年12月、同様の詐欺が10件起きた。被害者はいずれも60歳以上の女性で、家族が不在の昼間に電話がかかってきた。市職員や社会保険事務局の職員を名乗り「還付の期限はきょう」とATMまで誘い出す共通の手口。県警は同一犯の可能性が高いとみて、捜査している。

 県警は▽還付金がATMで受け取れることはない▽不審な電話があった場合、家族や近しい人にすぐに相談する--ことなどを呼び掛けている。

 金融機関も被害防止の取り組みを強化している。足利銀行は、多額の振り込みをする高齢者に使い道を聞くことや、携帯で話しながらATMを操作する客への声かけを励行。不審な取引への監視を強めている。今年からは全国の銀行と連携し、不正口座の開設者の氏名や住所などの情報を共有しており、月数件の詐欺を防止している。

 同行事務企画部では「せっぱ詰まっていて、注意を振り切って振り込んでしまう人も多い」と話す。また「家族間のコミュニケーションを密にするなど、誰かに相談できる土壌を作ることが大事」と訴えている。

毎日新聞 2009年1月22日 地方版

 
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