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扉の向こう 特定失踪者を追う第5部
(5)反論家族の行方捜すのは当然
石川千佳子さんと両親が並ぶ写真。3人一緒の写真が見当たらず、家族が合成した |
「消息だけでも知りたい」
私たちは、これまでに特定失踪(しっそう)者の家族から何度もそう聞いた。だが、悲惨な結末ならば、どうだろうか。
一九七八年に失踪した小学校教諭石川千佳子さん=当時(29)=の弟、憲(けん)さん(57)は、二十六年を経て姉が殺されていたと知った。私たちの問いに、憲さんは迷わず答えた。
「あやふやなまま子どもに残すより、私が生きている間に切りがついてよかった」
石川さんは、北朝鮮による拉致の可能性がある特定失踪者として公表されていた。しかし、拉致ではなかった。
拉致問題を「解決済み」と言い張る北朝鮮は、殺人事件の発覚を受け、自説の正当性を声高に主張した。二〇〇七年の発表では「(日本では)新たな『拉致資料』を絶えず生産できるようになっている」と日本政府などを非難。別の発表では、特定失踪者問題調査会を「悲喜劇を演出して内外の嘲笑(ちょうしょう)と非難の対象となった」と決めつけた。
石川さんを殺害した男(72)は、石川さんが特定失踪者とされていたことを知らなかったという。知っていたら、どう感じただろう。
特定失踪者問題調査会に届けたことは、失踪事件の解決に、直接は役立たなかった。だが、憲さんは「回り道をしたとは思わない」と語る。
時効を迎えた殺人事件の被害者遺族として、犯人にどう対処できるのか、見当もつかなかった。だが、調査会が助言してくれた。調査会常務理事の川人博弁護士らが裁判を支えてくれている。
憲さんは、北朝鮮の非難について「調査会に申し訳ない」とし、逆に北朝鮮を批判する。「失踪者の家族は、生きていてほしいと願う。拉致を起こした北朝鮮にいると思うのは仕方ない」
調査会の代表荒木和博さん(51)は「失踪者をすべて拉致とは言っていない」とした上で「北朝鮮は六年前まで、拉致したことを認めず『でっち上げだ』と、うそをついていた国。反撃を乗り越えなければ、拉致問題の全面解決はできない」と強調する。
憲さんは、拉致問題の解決を訴える集会に今も参加している。姉の遺体が見つかったとき、ほかの特定失踪者の家族に「よかったね」と声をかけられたという。「安否が分からないことは、それだけつらいんです」と憲さん。
別の特定失踪者の家族からは「調査会に届けたけれど、拉致とは違うかも知れず、不安です」と相談された。憲さんは、こう励ましたという。
「可能性がある限り、家族を捜すのは人間として当然じゃないですか」
(2008/05/01)
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