「無言を貫き通さなきゃダメ」「残念」
親しい記者との間で最近話題に上るのは、奈良県で06年に起きた母子3人放火殺人事件。逮捕された少年の供述調書を流出させた疑いで精神科医が逮捕されたが、その裁判で調書を自著に引用したフリーライターは「情報源は精神科医」と明らかにした。「医師の無罪に協力したかった」と動機を語るが「情報源の秘匿」という報道の鉄則を逸脱した姿勢は共感できない。
話は少し変わり、1月から毎日新聞の事件記事が変わったことにお気づきだろうか。従来は「調べでは~~した疑い」と記述していた逮捕容疑を「容疑は~~した疑い」などと書いている。同時に「関係者によると」といった大ざっぱな表現を避け、出来るだけ詳細に情報源も明示している。
5月に始まる裁判員制度を見据えた対応で、裁判所が結論を出すまで“容疑”は疑いにすぎず「推定無罪」であることを強調するためだ。裁く市民と裁かれる人への配慮を両立し、なおかつ事実へ迫るには必要な措置と思う。一方で、紙面に表れる違いはわずか数文字だが、取材相手や情報源の迷惑とならない表現に悩む場面が増えそうだ。
秘密漏示罪に問われた精神科医は「(逮捕された)少年は広汎性発達障害で殺意がなかったことを社会に知ってほしい」と調書をライターに見せたという。
報道を支えるそうした勇気に応えられるよう、自問自答が続く。【大谷津統一】
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毎日新聞 2009年1月22日 地方版