昨今、国際法の重要性が問われています。
世界に起こる紛争や揉め事、それらを円滑にそして皆が納得行く形で解決するために作られたもの――それが国際法です。
ここでは国際法の歴史とその重要性について、簡単に御説明いたします。
そもそも近代における国際法の先駆けは、17世紀のヨーロッパで起こりました。この時代、ドイツでは皇位継承問題などに端を発した三十年戦争が勃発していました。
ドイツ三十年戦争…。
そう呼ばれれば戦争はドイツだけで起こっていたと思いがちですが、実際には違います。この戦争はドイツだけではなく、スウェーデン、フランス、イタリア、オランダ、東欧諸国を巻き込んだ世界大戦でした。

この戦争は悲惨なものでした。
多く街が焼かれ、多くの人が殺されました。殺された人の中には、戦闘とは関係ない無辜の民間人もいました。
「このままではヨーロッパは滅んでしまう…」
そんな声が高まり、どの国でも通じる万国共通の法律、すなわち国際法の制定が求めらるようになりました。
そしてオランダの法学者・政治家のフーゴー・グローティウス(Hugo Grotius)が著書『戦争と平和の法(原題:Droit de la Guerre et de la Paix)』などで国際法の重要性を訴えました。
これは後の国際法成立に多大な影響を与え、そのためグローティウス(Grotius)は「国際法の父」と呼ばれています。
そして、1648年10月24日。
ヨーロッパのほとんどの国の代表が、現在のドイツ・ノルトライン=ヴェストファーレン州(Nordrhein-Westfalen)にある街、ミュンスター(Münster)とオスナブリュック(Osnabrück)に集まり開かれた会議で、三十年戦争の講和条約が締結されました。
この条約は締結された場所の地名を取ってウェストファリア条約(Westfälischer Friede)と呼ばれています。この条約が近代における国際法発展の端緒となりました。
日本が国際法と関わりを持ち始めたのは、江戸末期の嘉永7年(1854年)、アメリカのペリー提督が来航してきて取り交わした日米和親条約を結んでからです。さらにその四年後の安政5年(1858年)、日本とアメリカは日米修好通商条約を締結しました。
これらの条約は関税自主権が無かったり、アメリカに領事裁判権を認めるという不平等条約でしたが、日本はこの条約を固く守り、明治32年(1899年)に改正されるまで守り続けました。
(※ 実は条約改正の動きはそれ以前からあり、1871年には岩倉具視を始めとする使節団が交渉に当たっていました。しかし、実際に改正できたのは、それから28年も後のことだったのです)
しかし、何故、国際法はあるのでしょうか?
それは国際社会の平和を守り、公平なルールの上でお互いが生きていくためです。
これが無ければ小国は大国に踏み荒らされ、それぞれの国は戦争と混乱の渦に巻き込まれてしまうでしょう。だから、国際法というものは必要なのです。
では国際法の種類について述べましょう。
国際法は主に三つの観点から成り立っています。条約法、慣習国際法、法の一般原則の三つです。現在では、これに加え国際司法裁判所規程、裁判所判例などが補助的な法源としてあります。
まず条約とは、一定の国際法主体(国家、国際組織等)がその同意をもとに形成する、加盟当事者間において拘束力を有する規範をいいます。条約そのものを対象とるす国際法については1969年に国連国際法委員会によって法典化された条約法に関するウィーン条約(Vienna Convention on the Law of Treaties)があります。
条約に関するウィーン条約(Vienna Convention on the Law of Treaties)の内容
第一部 - 序
第二部 - 条約の締結及び効力発生
第三部 - 条約の遵守、適用及び解釈
第四部 - 条約の改正及び修正
第五部 - 条約の無効、終了及び運用停止
第六部 - 雑則
第七部 - 寄託者、通告、訂正及び登録
第八部 - 最終規定
そして、慣習国際法とは、法的確信(opinio juris)を伴う一般慣行によって形成されます。かって言われていた「長期にわたる反復」という要素は必ずしも必要なものではありません。むしろ重視されるのは、「広範に見られる」、「統一された」慣行(practice)です。
しかし、「一貫した反対国」や慣習国際法形成の後に誕生した国家に対する同法の拘束力については疑問視されています。これらはともに、「合意」の有無が問題となっており、合意していない規範に拘束されるかどうか、問題となります。
あと、法の一般原則とは、「文明国が認めた法の一般原則」(国際司法裁判所規程38条c)をいいます。すなわち、主要法体系に共通の国内法上の法原則をさします。
だから、「この島は我が領土だ!なぜなら我が国の法律ではそうなっているからだ!」という言い分は、法の一般原則にはなりません。なぜなら他国の法律では、そんなこと書かれていないからです。
法の一般原則とは、もっと共通のものが該当します。
そして、戦争中の捕虜や文民の保護などには国際人道法(International humanitarian law)が適用されます。
これはジュネーヴ条約(Geneva Conventions)、ハーグ陸戦条約(Convention respecting the Laws and Customs of War on Land)などが該当します。これらの条約は改定に改定が繰り返されています。

正義の女神テミスとグローティウスの原著
そして、最後になりますが、最近話題になっている国際司法裁判所について説明します。国際司法裁判所とは国連の主要機関です。
よく国際法廷とか呼ぶと「極東軍事裁判」とか「ニュルンベルク裁判」とか想像しがちですが、それとはまた違います。
国際司法裁判所で最も多く扱われる判例は、領土問題などの問題解決に向けた調停行為であり、戦争犯罪者を裁くような刑事裁判ではありません。(※ 現在、これらの刑事裁判は国連安全保障理事会に関する補助機関の設立(国連憲章第29条)によって設置されています)
ちなみに、この国際司法裁判所の規程は、1945年6月26日にサンフランシスコ会議で採択され、同年10月24日発効しました。
そして、この規程には日本も韓国も国連加盟国の一員として従う義務があります。
国連憲章第93条1
「すべて国際連合加盟国は、当然に、国際司法裁判所の当事国となる」
ハーグにある国際司法裁判所本部
現在の裁判官
ロザリン・ヒギンス(Rosalyn Higgins、イギリス、所長)
アウン・シャウカット・アル=ハサウネ(Awn Shawkat Al-Khasawneh、ヨルダン、副所長)
レイモンド・ランジェヴァ(Raymond Ranjeva、マダガスカル)
史久鏞(Shi Jiuyong、中華人民共和国)
アブドゥル・G・コロマ(Abdul G. Koroma、シエラ・レオネ)
ゴンザロ・パラ=アラングレン(Gonzalo Parra-Aranguren、ベネズエラ)
トーマス・バーゲンソール(Thomas Buergenthal、アメリカ合衆国)
小和田恆(Hisashi Owada、日本)
ブルーノ・シンマ(Bruno Simma、ドイツ)
ペーテル・トムカ(Peter Tomka、スロヴァキア)
ロニー・アブラハム(Ronny Abraham、フランス)
ケニス・キース(Kenneth Keith、ニュージーランド)
ベルナルド・セプルベダ・アモール(Bernardo Sepúlveda Amor、メキシコ)
モハメッド・ベヌーナ(Mohamed Bennouna、モロッコ)
レオニド・スコトニコフ(Leonid Skotnikov、ロシア連邦)
国際司法裁判所規程が採択されたサンフランシスコ会議
よく領土問題で「国際司法裁判所の裁判官には大国の人間がいる。だから裁判は小国に不利だ」という方がいます。
でも、それは間違いです。なぜなら裁判で争いの当事国となった場合、その国はジャッジを取ることが出来ないのです。
つまり、国際司法裁判所では小国にも公平な裁判が行われます。
さらによく言われるのが「国際司法裁判所は大国にとって都合のいい判決が出る」という誤解です。
これはとんでもない誤解です。
実際、国際司法裁判所はアメリカやイギリス、フランスなどに不利な判定が出ています。だから不利な判定が出たアメリカは、外国に軍事侵攻するため1985年に選択条項受諾宣言を撤回したり、フランスは核実験を行うためにこれを一時脱退したりしています。(※ もちろん、それは褒められたことではありませんが)
つまり、国際司法裁判所の判断基準とは国の大小ではないのです。
如何でしたでしょうか?
国際法とは世界中の人たちが協調し、平和に暮らしていくための共通のルールと呼んでも過言ではありません。だから、グローバル社会と呼ばれ、経済や情報通信が国境を越える現在では、とても重要なものになってきています。
――国際法の遵守。
それが、国際社会である現在に求められているものなのです。
本文が日韓の皆さんに国際法とは何なのか、理解するための一助になれたら幸いです。
参考資料
国際司法裁判所サイト
ウィキペディア
国際法を学ぼう!サイト
法律学講義シリーズ「国際法」 弘文堂出版・島田征夫/著