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Chikirinの日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2009-01-21 アドバイスの正しいもらい方 このエントリーを含むブックマーク

時節柄いろいろお悩みの方も多いのではないでしょうか。そして自分の悩み、決断できない何かについて、誰か他の人のアドバイスを貰おうと思われる方もあるでしょう。

そーゆー時、どうすればより有益なアドバイスが得られるか、ちょっと思いついたのでまとめてみるです。


ルールその1

必ず両方の選択肢を質問に入れる。

具体例:「Aだと思いますか?それともBでしょうか?」

何かについてアドバイスを求められた時、相談された人がまず考えることは「この人はどっちを欲しているんだろう?」ってことです。

人間の悩みなんてその大半は本人の心の中に答えがあります。相談された人の役目はそれを「ほら、そこに答えがあるでしょう?」と指し示すことであって、相談者が想像もしていないミラクルQな回答を得々として説くことではありません。

なのでちきりんは、「Aすべきだと思いますか?」と聞かれたら「私の個人的な意見ですけど、Aしてみるのも結構いいんじゃないですか」と答え、

「Bすべきかなあと迷ってるんですが」と言われたら、「そうですね〜、Bってのもひとつの考え方ですよね」と答えてます。*1


具体的な例ではこんな感じ↓です。転職すべきかどうかのアドバイスを求められている例です。

「すごく強く誘われているんですが、転職すべきでしょうか?」「そうですね、そんなに強く誘ってもらえるってなかなかないことですよ。真剣に考えてもいいかもしれないですね。」

「やっぱり断るべきでしょうか?」「そうですね。生半可な気持ちでyesって言わない方がいいかもしれないですね、そういうことは」

って感じです。


アドバイスを求められた人の多くは、「他人の人生を左右したくない」と思い、「本人が好きなことをするのが一番いい」と思っています。もしくは、「そんな話、ホントどうでもいい話だよね。そもそもあなたの人生に関心ないし。」と思っています。

なので、基本的に「ああこの人はこっちを望んでるな」とちょっとでも“匂う方向”があれば、そっちに答えを持って行きます。だって本人の意向と反対のアドバイスなんてしたら、相手を“説得”する必要がでてきて面倒なことこの上ないですから。

なので、有効なアドバイスを得たいのであれば、つまり本当に「その人だったらどうするか、どう考えるか」という意見を聞きたいのであれば必ず両方の選択肢を同列に並べて質問しないと有効な回答は得られません。

それは「Aですか?Bでしょうか?」と聞くことであり、上の転職の例でいえば、「すごく強く誘われているんですが、転職するべきでしょうか?それともやっぱり断るべきでしょうか?」という聞き方をするってことです。

言葉を尻すぼみにせず、両方の選択肢を同じ強さの声で同じようにクリアに発語して聞かないとだめです。

これが「有効なアドバイスを得るためのまず第一のルール」です。自分がどちらを(潜在的に)望んでいるか、を少しでも匂わせたら、アドバイスを求められた人は中立的な回答を言うことはありません。

だいたいのケースにおいて、相談をされている人というのは相談をしている本人より一枚も二枚も上手な人なんです。あなたが「本当は何を言ってほしいのか」を見抜く眼力のある人だからこそ「相談される立場」にいるのです。甘くみちゃあいけません。


★★★

二番目のルールです。

ルールその2

「質問する」のではなく「語る」こと。そして自分を理解してもらうこと。

たいていの場合、他人に相談しようと思うほどのことには「正解」はありません。あるのは特定の人にとって、特定のタイミングにおいて、特定の環境において、最も適切な解、にすぎません。

A社に転職すべきか、今のB社にとどまるべきか。すべての人にとってベストな答えが同じであるわけはないですよね。

A子と結婚すべきか、Aというキャリアを選択すべきか、AをBより優先したライフスタイルを選択するか。こういうことに絶対的に正しい答えはなく、あるのは「今の私はどっちの道をいくべきか」ということだけです。


だとしたら、その特定の正しい答えを得るために最も重要な情報は「あなたがどんな人で」「今どんなタイミングで」「どんな環境にあるのか」という情報です。

それがわからないまま、「主語・主体が誰であってもみんな、A社に転職すべき」とか「あなたが今20才でも30才でも40才でも関係なく、Aというキャリアを選ぶべき」などと言える人は存在しません。

そもそも「絶対的に正しい答え」があることなんか相談なんかしないでしょ。そういうことは情報を集めて分析すれば答えがでるんだから。


なので、相談をする時は聞きたいことは冒頭に一回だけ言えばいいです。あとは、自分を理解して貰うために時間を使ってください。

相談にきて「質問リスト」を順番に読み上げてる人がいますけど、全く無意味です。質問リストに10個の質問が並んでいるなら、それをじっくりよくみてよく考えた方がいいです。「自分が答えをだしたいこととはいったい何なのか?」と。

そして、その根本的な問いだけを最初に発して、あとは質問せず、ひたすら語りましょう。自分はどんな人で、何が嬉しくて、何が不安で、何が怖くて、何が大好きで、なんで今、迷っているのかを。

以前に迷ったことを、過去に後悔したことを。以前に成功したことや、今満足していることを。


よいアドバイスを貰うために一番重要なことは、相手に「自分」を理解してもらうことであり、あなたが迎えている「今」というタイミングや環境を正しく、そしてビビッドにわかってもらうことです。

「特定の個人の特定のタイミングにおける特定の環境」という条件がなければ、世の中の大半の相談事というのは「どっちでもいいような問題」に過ぎません。一般的で絶対的な「誰にとっても正しい答え」など、ないんです。


★★★

最後のルールです。

ルールその3

最後に「ありがとうございました。他になにか僕が聞いておくべきコトがあるでしょうか?今までお聞きしたことと全く違うことでもいいのですが。」と言うこと。

あなたが最後にこういえば、その後にあなたが相手から聞くことができる助言は、この言葉の前にあなたが得た助言、相手が話したことのすべてよりも、何百倍も有効なアドバイスだと思います。


なぜだかわかるでしょうか。

この質問の前には、相手は「あなたが質問したこと」に答えています。反対にいえば、「あなたが質問しなかったこと」には答えていません。

しかし、「あなたが質問したこと」が「あなたが質問しなかったこと」より大事なことだという保証はどこにあるでしょう?あなたは「何が大事か」「これこそ質問すべきことだ」という点について正しく理解できていると確信できますか?それほどに成熟した判断ができていると自信をもっていえますか?

もしくはこうも言えます。相談をした相手が、「あなたに質問されたから答えたこと」と「これだけは言っておくべきだなと思ったこと」は、どちらが、より重要である可能性が高いでしょう?


たとえばこんな感じです。「博士課程に進学するにあたって今までお世話になった○○先生が他大学に移られるんで、僕もそっちに移ろうかなあと考えてるんですよ。でも研究環境は今の大学の方が圧倒的に恵まれてるし、家族もこの街にずっと住みたがっているし、ここはいっそ研究室を変えてでも今の大学に残るべきか、悩んでいるんです。幸いにももうひとり指導教官として適当と思える先生もいらっしゃるし。」とあなたが相談すれば、相手は、

「○○先生と共に他の大学に行って研究を続けるべきか」

「家族の負担が大きくなる転居という犠牲まで背負い、研究環境が悪化することも考えれば、今の大学に残って、別の先生の研究室で博士号取得を目指すべきか」について、様々な意見を与えてくれることでしょう。

そしてそれはあなたにとって「それなりに有益な」アドバイスかもしれません。このまま「ありがとうございました!」とその会話が終わってもあなたは「すばらしいアドバイスをもらった!」と豊かな気持ちで帰路につくのかもしれません。

しかし、

もしもあなたが最後に「ありがとうございました。他になにか僕が聞いておくべきコトがあるでしょうか?今までお聞きしたことと全く違うことでもいいのですが。」と言えば、この助言者は、

「そうだなあ。ところで、博士課程に進むこと以外の選択肢は考えたの?文系で、しかも、そういう分野で博士号に進むって大変なことなんだよ。わかってる?」と言ってくれるかもしれません。

そして、そのアドバイスの価値たるや「あなたが質問したこと」の回答とは桁違いの価値をもつアドバイスかもしれない、のです。


このことは何を示しているでしょう?

相談をされる人というのは、相談をする人の何倍も幅広い知識や経験があることが多いのです。「あなたが質問をして得られること」は、その相手の持つ経験や知識のうちの「あなたが思いついた質問の範囲のことだけ」です。

しかし「他になにかありませんか?なんでもいいです。」と言えば、相手は自分の経験と知識の大海の中から、「あなたに最も有益なメッセージ」を選んで出してきてくれます。

これをもらわずして何の意味がある?

って感じの珠玉の助言が得られる可能性があるのです。




あっ、でもですね。たとえば1時間の約束で会っているとしましょう。もしあなたが58分を経過した時に「最後になにかアドバイスはありませんか?なんでもいいです!」と言ったら、

ちきりんは言います。「ううん、特にないよ」って。


一方であなたが半分の30分だけ経過した時に自分の質問を終え「なんかないですか?他に」と聞いてくれば「あのね、そもそもの話なんだけどね。」と話し始めます。


わかりますね。


「自分の聞きたいこと」なんて聞いてたら時間の無駄です。「相手の言いたいこと」「相手が言うべきだと思ったこと」を聞いて帰らねば意味がありません。あなたの「聞きたいこと」なんて、「あなたの経験とあなたの知恵」からしかでてきていません。それを超えた何かを得たいから、他の人のアドバイスを求めるんじゃないの?ってことです。

だったら自分で用意したくだらない質問なんてさっさと切り上げて、「相談相手が大事だと判断すること」を聞き取る時間を十分に確保する方がよほど意味があります。


★★★


まとめておきましょう。

1.質問にはすべての選択肢を含めること。

2.質問するのではなく、自分を理解してもらうこと。

3.「自分の聞きたいこと」は半分の時間で済ませ、残りの時間は「相手が言うべきだと思うこと」を話してもらうこと。


他にもいくつかあるんですが、とりあえずこの3つくらいに気をつけておけば、いろんな人から得られる知見や助言は、圧倒的に豊かなものになると思います。



というわけで。

そんだけ。

それではね。

★★★

*1:これを読んでいる方で、過去にちきりんに何か相談事をした方へ:申し訳ないっす。そーゆー人間なんです。てか、このブログには何一つとして本当のことは書いていませんので本気にされませんように。