米国のオバマ新大統領は20日の就任演説で、寒空の中集まった200万人もの聴衆に向かって「我々は今日から立ち上がり、米国を再生する作業を始めなければならない」と訴えた。
これほどの熱狂と期待で迎えられた大統領は最近では珍しい。大恐慌以来とも言われる経済危機で、米国民の不安感はかつてないほど高まっている。人々はそうした不安の解消を若いオバマ大統領に託した。
カギ握る金融安定化策
米国経済がどんな形で再建されるかは米国のみならず、世界にとっても極めて重要な意味を持つ。米国の経済的地位は中国やインドの台頭で相対的に低下したものの、なお世界経済に対して大きな影響力を保っているからだ。
深刻な経済の悪化に対応して、オバマ大統領は「米国の回復と再投資計画」と名付けた再建策を打ち出した。2年で総額8000億ドルに及ぶ大胆な財政政策により、300万―400万人の雇用を創出・維持できるとしている。
財政刺激策としては、道路や高速インターネット回線の整備などのインフラ投資に加え、太陽光や風力発電をはじめとした再生エネルギー開発支援、低中所得層を中心にした減税などを実施する方針だ。
評価できるのは、需要刺激策を代替エネルギーの利用促進、教育の充実、医療の近代化など経済の構造調整や生産性向上に結びつけている点だ。就任演説で新大統領は「雇用創造だけでなく、成長の新しい基盤を敷くために行動する」と強調した。
ただ、将来的な効果が見込める事業よりも、政治家が求める地元利益誘導型の事業が優先される懸念もある。そうならないようオバマ大統領や民主党の議会指導部がどこまで指導力を発揮できるかが問われる。
米国の経済復活にはこうした需要刺激策だけでは不十分だ。機能不全に陥っている金融システムを立て直さない限り、本格回復は難しい。
米国の金融安定化策は満足できる結果を出していない。昨年秋に総額7000億ドルの公的資金活用を認める金融安定化法が成立し、大手金融機関から地方金融機関まで幅広く公的資金が注入された。バンク・オブ・アメリカによるメリルリンチ買収など問題金融機関の統合も進んだ。
だが、景気の悪化も響いて銀行が抱える不良債権はなかなか減らず、米国の金融機関に対する信認は戻っていない。シティグループやバンク・オブ・アメリカは公的資金の再注入など追加支援に追い込まれた。
民間金融機関による金融仲介機能は低迷したままで、米連邦準備理事会(FRB)による資金供給などでどうにかおカネが回っているのが実情だ。
不良資産を購入するバッドバンクの設立や政府による不良債権損失の保証拡大などが検討されているが、いずれにしても金融機関の資産内容の健全化を急ぐことが肝要だ。不良債権問題の先送りで経済低迷が長引いた日本のてつは踏まないようにしてほしい。
経済の早期再建に加えて望みたいのは、経済立て直しにあたって自己本位の政策に走らないようにすることだ。
オバマ大統領は経済のグローバル化という現実を見据えた対応の必要性を強調しており、基本的には自由貿易を重視している。ただ、経済が悪化する中で、自国産業や企業の保護につながる政策を求める圧力は強まりつつある。
すでに実施し始めている米自動車の3大メーカーに対する金融支援は、市場の競争条件をゆがめ、日本車メーカーに不利益をもたらしつつある。米議会や一部業界からは、米国製品購入(バイアメリカン)を促す政策を求める声も出ている。
日米連携で問題解決を
米国が自国産業保護に傾斜すれば、これに追随する動きが世界に広がり、世界経済の足を引っ張る恐れもある。オバマ大統領は保護主義の誘惑を断ち切らなければならない。
それにとどまらず、停滞する多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)の進展へ指導力を発揮することも求められる。米国が強い指導力を示さなければ、新ラウンドは失敗に終わる可能性がある。
米国発の金融危機を教訓にどう世界の金融監督体制や規制を改めるか、先進7カ国(G7)に代わる経済政策の調整・協調体制をどう構築するかについても、効果的で前向きな提案を期待したいところだ。
開かれた世界市場を維持し、再び危機を起こさないような仕組みを作っていくうえで、日本も主導的な役割を果たさなければならない。オバマ政権の出方をうかがうのではなく具体的な提言も含め積極的な議論を働きかけていくべきだ。同盟関係にある日米が手を携えてこそ、世界的課題の解決に道筋が見えてくる。