◆[山形市]平久保・浜崎 寒の空 カーンと響く(2009平成21年1月11日撮影)


ビッグウイングの前に立ち首を上に向ける。
ぬらぬらと濡れた路面が格子ガラスに映し出される様は、巨大なワイドスクリーン。

もっとビッグウイングに近づき、再び屋根のガラスを見上げる。
真上を見上げる視線の先には真っ白な山形盆地が広がり、そして首が痛くなる。

染みきった空から光を放ち続け、
町を深い青で染めてしまおうというのか。

イベントの音楽がピリピリと空気を震わせながら、
耳元をかすめ過ぎてゆく。

落ち着いた素振りの氷柱(つらら)。
まだ序の口と、能ある氷柱は爪を少しだけ出してみせる。

まだ戦争は終わっていなかったのか!この竹槍隊はなんだ!
雪囲いの竹は攻撃的な姿勢で、じっと雪に覆われる日を待つ。

「おう、皆集またが」
「こごしか雪溶げでっどごないんだも」
雪の侵略に、枯れ葉は次々とマンホールへと逃げ込んでくる。

暗く沈んだ表情で、雪の間を縫っていく野呂川。

「ほだんどごで、つっぱえったら風邪ひぐべな」
「相方いねぐなたがら歩ぐの止めだんだはぁ」
片っぽだけのゴム長は雪上に横たわり、
次から次へと川面に吸い込まれていく雪を見つめる。

かじかむ四肢を踏ん張りながら、
送電線は金属の冷たさで見下ろしてくる。

空から舞い降りた冬の日差しは、しばらくの間カモと戯れ波間にきらめく。

ズイッと伸びる力強い枝は、春がやってくることを微塵も疑わない。

墨汁でズイッと一筆書かれたような道路が、テラテラと光をまといながら延びていく。

飛沫を上げて走り去る車。
「なに急いでいるんだが」
雪に覆われた自分たちには関係ないと、再び目をつむり眠りにつく。

空からの長旅で喉が渇いたのか、
雪達はドラム缶へへばりつき首を突っ込む。

「こだい天気いいど、雪かなり溶げんべなぁ」
口の中であめ玉を転がすように、抱えた雪をもてあそぶ一輪車。

雪と風が畑の中で模様を編み上げ、太陽が光を施して柔らかな立体感を出す。

人はその横縞模様を見飽きればとっとと去っていく。
そして違う角度から再び模様を見て、視点を変えれば同じ物でも縦縞に見えるんだと気付く。

空を金槌で叩けば、カーンと金属的な音が反響しそうな引き締まった青空。
冬枯れた草花はひたすら来るべき春を夢見て、今は我慢の時と身を堅くする。

駐車場へ置き去りにされたカート。
しもやけになりそうな足をさすってくれる主も現れない。
ただ影だけがアスファルトに伸びていく。

「カゴ一杯夢ばけでけらっしゃい」
カートは宝くじへカゴをさしのべる。
「明日の夢より、今日の米ど野菜ば乗せっだほうがいいんねが?」
どこからか聞こえた声で、明日の夢はカゴの網目から漏れ落ちる。

「おかなくて、カートさたづがねど歩がんねぇ」
「カートさたづがねで、俺さたづげぇ」
「いままでたづいで、何がいいごどあっけがよ」
会話は凍り付き、聞き耳立てるマンホールは周りの雪をじわじわ溶かす。

「おまえ先に行げぇ」
「いいがら早ぐ行げずぅ」
「遠慮してねで早ぐ行ってけねがなぁ、次が待ってっから」
寒い日は近くなるから、みんな足をもぞもぞしてトイレの順番を待っている?

曇りの日はこれ以上ないくらい暗い表情でうずくまっている駐車場の水たまり。
晴れたとなれば青い空を映して途端に機嫌が直る。

「よっこらせっと、ととと・・・ちゃんと担いっだが?」
「雪ふついっだがら重だくてだめだっす」
「ったく近頃の若い者はよぅ。ちぇっと雪降ったぐらいで音ば上げんもなれ」
「音ば上げねがら給料上げでけろっす」
「十年早いず!」
「はぁ?あど十年も不況続ぐんだがっす?」
担ぐチェーンに雪は重くのしかかり、会話はいつまでも噛み合わないというジェネレーションギャップ。

「オシメ干しったみだいだんねが」
「今どぎオシメなの使てっどご無いべぇ」
あの形を見てオシメか一反木綿に見えるのは中年の証。

「いまどぎ茶髪なの流行らねのんねがよ」
「好ぎでしてんのんねんだず」
縮れ麺のようなさび付いたチェーンを乗っけられ、
髪の毛があるってこんなことかとまんざらでもないタイヤ。

あまりにも交通安全を強く叫びすぎて、旗はボロボロ。
もう今は惰性で寒風に身を任せている。

営業は終了しましたと言っているのに、
どこ吹く風と寒風はヒュルヒュル通り抜けていく。

ぐずぐずに溶ける雪の隙間を冬の光が軽やかに走り回る。
光の身軽さを恨めしく思いながらも、為す術を知らず朽ち葉は氷の下へ身を沈める。

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