◆[山形市]あこや町・小白川町一・東原町四 センター試験に雪ゆるむ(2009平成21年1月17日撮影)


「おまえだうるさいがら外さ出でろてぼださっだ〜」
「センター試験あっからだべ」
「雪だるまでもこしぇっかぁ」
山大のグランドにたむろする自転車たちが、まぶしい雪原へ世間話をまき散らす。

「はみだすのやんだ〜」
仲間からつまはじきされるのは嫌だとペダル漕ぐ。

「雪の上さ降りんのやんだ〜」
「おらだ夏用のシューズだも」
雪上の靴跡から目を逸らし、しもやけを嫌がるシューズたち。

ボッサボサの髪の毛をかきむしり、逆立てながら勉強してきた。
今日はセンター試験。穏やかに晴れ上がった空へボサボサの枝を伸ばす。

「誰ばも恨んでなのいねぇ、ただ一つお願いだ。
このまま雪の中さ埋めでけねが」
ビニール傘は、路傍の雪に同化する。

あまけできた雪は路面を濡らし、
やがて青い空を映しこむ。

山大の体育の授業は雪だるま作り?
上手に出来れば単位取得。
雪になれない都会っ子には難関の授業だ。

「ここから出入りしないこと」だって。
ということはみんな出入りしているということだな。
みんな狭き網目を、くぐってきたって事だ。

堰の流れを見る格好で凍り付いているアジサイ。
止まっている時間は、春になり溶け出すのを待っている。

「滑ておかなくて歩がんねぇ」
「足元ばり見で歩がんなねずねぇ」
みんな自分の足元しか見ない時代だなと嘆く段ボール。

うっすらと積もった雪に、真綿で首を絞められるような気分の蛇口。
早く春が来ないかと天を仰いでいる。

ほんのわずかでもいいから春の匂いがしないかと、枝先が空を突っつく。

誰もいない公園なのに、太陽は満遍なく光を注ぐ。

「踏んだり蹴ったりだず。すころんでしまたがど思たら、屋根から雪溶水ジャッジャだもの」
腰に付けた傘を差すのも忘れ、起き上がろうともがいている。

溶け出した雪の滴を弾くように、右肩上がりの曲線を描く。

キラキラ輝く無数の滴は、真昼のイルミネーション。

空の重さを量るように、手のひらを青空へ向けてさしのべる枝。

国道13号バイパスが隔てたトンネルの向こうから、雪融けの音と溢れる日差しがなだれ込んでくるようだ。

濡れた路面に張り付いた影は、乾いた道路が現れるまで、足音とともについていく。

眩しく輝く雪の斜面を、
ひっきりなしに転がり落ちてくる車の騒音。

何かにすがっていないと不安になる自転車の篭は、
この際だからと道路標識にしがみつく。

「どれだげ精力付けっだいんだがなぁ」
飲み捨てられた大量の栄養ドリンクのキャップに、網目模様の影が覆い被さる。

悠然と流れる雲の下を、
排気音を土手に転がしながら、次々と車が走り去る。

バイパスの騒音に小刻みに震えながらも、
白い雪原にそろりと影を伸ばしてみる。

天からの災いは忘れなくてもやってくる。
飴のように撓(しな)った雪も、耐えられる限界が近い。

「今日は道路凍ていねがらいいげんと、凍てっどおっかないのよぅ」
「自転車の運転が?」
「脇見でみろ、土手の上から車が落っでくっかどもてよぅ」

車のうなり声が反響するあこやインター。

ピリピリと張り詰めた緊張感が大気に満ちている。
そういえば今日はセンター試験の日だった。この緊張感はすぐ近くの山大からだったのか。

下ばかり向いて歩く人々へ向けて、
雪融け水は時として、広告塔の役割を果たす。

「陽当だてっどごさ居んのはいいもんだぁ」
「堅っだぐなた気持ちが、ほぐっでいぐみだいだもなぁ」
自転車たちはひとときの雑談に心を許す。

山形人のすぐ近くにあり、それを見ると胸に迫ってくるものがある。
その山、千歳山はあこや町あたりでは確かに迫って見える。

「行儀いいぐしったが?」
「雪も溶けだし、退屈しったはぁ」
「雪かきさゆったのんね、猫さゆったんだ」
ポスターの唇がかすかに笑う。

路地裏までスイスイ入り込む日差し。
毛細血管の隅々まで明るく照らされたように気分が高揚する。

もわっと固まった赤い実が、目の前に迫ってくる。
何かを語りかけようとしている気迫だけは感じるが、いかんせん植物語は解さない。

賽銭箱の浄財は全てモンテディオ行きだって。
モンテは宝くじとともに、山形人のもう一つの夢だからな。

こんなでかい目がバチッと開いたら吸い込まれてしまう。
宝くじの夢は目を開けて見るものか。

光を浴びれば真冬だって植物は活き活きしてくる。
真冬に落ちたこの時代のどこに光はあるのだろう。

広い空を撮りたくて、魚眼レンズをカメラへ装着する。
写りこむ雲は、冬とは思えない柔和な表情を一面に浮かべている。

太陽が思いっきり振りまいた日差しは、地面にぶつかり散乱し、あたりを眩しく磨き上げる。

TOP