◆[山形市]南成沢・蔵王半郷 まだ序の口と、寒波覆う(2008平成20年1月12日撮影)


「足跡も無いどごさ踏み込んで行がんなねのがぁ」
深いため息をつく顔に、ちりぢりにされた雪のかけらが吹き付けてくる。

国道13号から目をそらしてもそこに彩りはなく、
半郷の家並みは白いベールに飲み込まれている。

互いに背を向け違う方向にうつむき、
雪に顔をくっつけるほどうなだれる枯れ草。

粉雪を含んだ北風が吹き付ける。
赤い幟たちは、バタバタと抵抗するようにはためく。

冬のオセロは白が断然有利。
この勢いでいくと、ほどなく黒い轍も白い雪に飲み込まれてしまい、白の完全勝利が見えてくる。

下を向き無言で歩く後ろを、キュギシリキュギシリと雪を踏む足音がついていく。

山形市役所行きのバスが脇をゆったりと通り過ぎる。
舞上げられた粉雪を顔に受けながら、
座席に座ってゆっくり雪景色を見ていたいという願望を打ち消す。

黙って雪を呆然と見続け並ぶ自販機。
屋根に掲げた白抜き横文字の、書体さえも変えてしまおうかと、
雪がいたぶるようにひっつき始める。

「前見えねぇ!」
看板は顔面に雪を貼り付け、黄色い声で助けを乞う。

「お、来た来た」
白い枝は静かにほくそ笑む。
遠くからやってくる獲物を待つように、白い触手をそろりと伸ばす。

「まんず突然だもねぇ。あんまり降らねがら変だどは思ったけげんとよぅ」
「なんだがこの降り方は、きしゃわれずねぇ」
雪に不意打ちを食らい、山形の人々はきしゃわれ気分を存分にあじわう。

塀に隠れて、なにかぼそぼそと語り合う植木鉢。

「雪なげっどごなくてよう」
要するに雪はゴミ扱い。
※山形ではなげるとは捨てるの意。

官営だろが民営化になろうが、現場で配達に従事する人々の顔に、寒風が吹き付けることに変わりはない。

こんな景色を山形らしいなんて勘違いしないでくれ。
木々が芽吹き、花開くまでの単なる冬眠期間の姿でしかないのだから。

落ち損ねた枯れ葉たちが、
舞い落ちるのに躊躇するほど一晩で真っ白に豹変した地面。

「おまえいづ落ぢる?」
「おまえが早ぐいげぇ」
葉っぱたちは譲り合ってなかなか落ちようとしない。

車の轍と、人の足跡。
それはインターネットでいえば履歴。
雪は人々の履歴をしばらくの間残しておきたいらしい。

家並みを抜けて原っぱに踏み込む。
視界をふさぐように粉雪が猛威をふるう。
横殴りの風に顔がチクチク痛む。

それでも蔵王に行きたいか?
三連休だもの、天候がどうあれ蔵王に行くのは定石か。

蔵王に登っていく車たちは上り坂でめいっぱいにアクセルを踏む。
排気ガスを浴びた黄色い旗は、迷惑げな顔を雪の中にそっと隠す。

雪の中をトロトロ進む遠くの車を、ぼんやり眺める黄色いプラスチック篭。
頭にひっついた雪を振り払う術も知らないし、体の中を寒風がすり抜けるのも意に介さない。

ツンツンと雪の中から顔を出し、
指先で風の具合を計ってみる。

「おらだ捨てらっだのよぅ」
「ほだごどない!たっぷりある時間ば楽しむべ」
雪をかぶって壁際で語り合う。

「おーとっとっと、ひっくらがえるはぁ」
「なんだずぅ、おまえ押すがら将棋倒しだどれはぁ」
「雪重だいんだもしょうないべぇ」
自転車は寒風の中、一蓮托生。

雪に埋もれた自転車が、坂道を登る人に無言の助けを乞う。
その声が聞こえるはずもないと知っていながら。

蔵王一中に続く坂道。
生徒たちが田んぼを走る姿は、国道13号からもよく見える。
とにかく走り続けることに活路を見いだそうとする校風はつとに有名。

雪に濡れたコンクリート壁面の前を粉雪が舞う。
赤い傘が空中を漂うようにフワフワと揺れ動きながら、視界の右端に消えてゆく。

部活帰りの昼近く。
「腹減ったねはぁ」
「おらいではお昼っから納豆汁だぁ」
「ほんてん!うぢど同じぃ」
寒風吹きすさぶ坂道に、軽やかな声とともに納豆の匂いが漂い出す。
◆[山形市]+α(2008平成20年1月14日撮影)

障子戸の向こうがやけに明るい。
ガバッと布団から抜けだし外を見る。

あっという間に溶け出した窓の氷が、
小さなレンズとなって青い空へ張り付く。

吹雪明けは気持ちいい。
窓を開け放ち、我を忘れてシャッターを切る。
「寒いがら窓たでろー」
背後から震える声が追いかけてくる。

布団の中でうだうだしていたものだから、あ〜むぐれるぅ。
小用を済まし小窓を開ける。
山形へ到着が遅れて済みませんと、済まな気な小さいつらら。

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