◆[山形市]霞城公園・城北町・肴町 冷気が澱む節分(2008平成20年2月3日撮影)


お堀の底に冷気が沈殿し、動いているのはたまに見かける人の黒い影だけ。
山形市は静かに節分を迎えた。

手で握るとパリッとしそうな、
生気を抜かれた枯れ葉がぶら下がる。

「道路ツルツルだがら、滑って転ばねようになぁ」
「聞ぎ飽ぎだずぁ、ほの言葉ぁ」
言葉がむなしく氷の上を滑っていく。

二の丸へ頑なにへばりつく。

寒風にキィキィとうめき声を上げそうな、錆びた看板。

「今日は節分だがら、六椹八幡様で豆まぎあっけど」
「んだよぉ、赤鬼も青鬼もいで、逃げまどったっけどぉ」
お堀の淵をぺたぺた歩きながらの世間話。

今日は風の無いのが幸いだが、
風邪のほうも心配だし、受験も心配だし、
目先の轍も自転車にとっては心配だ。

「なんだかんだゆても、今年は雪もたいして降らなねで節分だどれはぁ」
銀輪のおじさんが軽快に歩道橋の下をくぐってゆく。

電柱も電線も、あんまり寒くて寡黙になっている。
犬の散歩で通った人は、足元が気になるのか曇天の空を見上げようともせず、七小の脇道を通り過ぎる。

新しい校舎の影に隠れてしまった七小の旧校舎が、
寂しげにこちらを見ているような・・・

「誰もいねったて、おらだは手ばつないで立ってんのよ」
疲れ気味の鉄棒が、真っ白い雪の上で空元気。

旧校舎の行く末を心配する前に、かぶった雪をどうにかしなければならないと、凍てつく空気の中で樹木は考える。

雪原に埋もれた石のゾウが、
頭に鼻を乗せて雪からの脱出法を考えている。

伸び放題の垣根には、
こりゃいいクッションだと、雪がだらりと覆い被さる。

七小の壁面には、あんな丸窓があったんだ。
モダンな校舎だったんだなと改めて気づく。

時間が凍り付いてしまったかのように、大気が身じろぎもしない。
明日は立春。着実に時間は流れ、春は近づいているのだろうに。

パッと空中へ豆をまいたように、赤い蕾が元気よくあちこちへ飛び出しふくらんでいる。
春への期待に、小粒ながらも気持ちも少しずつふくらんでいくようだ。

しょぼいつららのくせして、頑固に溶けそうもない今日の寒気。

すっかり凍みて、ぶら下がることが身に染みてしまった。

「土ないど、何したらいいがわがんねぇ」
キンキンに冷えた退屈な空気が軒下に宿る。

「おらださぶつかてくんなねぇ」
寸止めで止まる自転車に、瓶たちは口をとがらす。

雪が降るでもなく溶けるでもなく、そして太陽が顔を出すでもなく風が吹くでもなく。
街は生かさず殺さず状態に置かれているようで、鉛を飲まされているような重い気分に陥ってしまう。

溶けることを忘れてしまった雪たちは、
堅い轍となって道路にへばりつく。

この頃、街からは雀も減っているという。
暗い気分で歩いてきたあとに雀を見つけ、ホッと白い息を吐く。

薄墨色に染まったお堀へ、申し訳程度に太陽が微かな色を添える。

「ブランコの上は暖かいが?」
「別にぃ」
ブランコの枯れ葉はつっけんどんに答える。
雪の上の枯れ葉は寂しく微笑み目を伏せる。

「暖かいココアば飲ませでけろぅ」
萎んだ銀杏の実たちが喉を鳴らす。
「悪れげんと、オレは空っぽなんだぁ」
公園の壊れた水飲み場に捨てらたペットボトルが身をすくめる。

「誰もいねじぇ、おらだが乗っかぁ」
雪の下から顔を出し、笹の葉たちが遊具へ乗る談義をひそひそ始める。

「先に落だら負げだがらな」
「いつまで、ほだな競争するつもりや」
「春になて子供だ来るまでっだな」
両腕を伸ばし春を待つブランコたち。

「こだい寒い中、桜咲いっだがぁ」
本丸復元工事現場の鉄板は、冷たい大気の中で虚勢を張って桜咲く。

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