◆[天童市]貫津沼・北目 マイナス8度の朝(2008平成20年2月9日撮影)


針を含んだようにチクチクするマイナス8度の大気。
貫津沼を眺めながら、胸をふくらまし肺の底まで大気を吸い込んで、ボッと白い息を吐いてみる。

白く輝く日向の世界と、黒く凍てつく日陰の間を見極めようと、
カモはじっと動かず目を細めているらしい。

「なんだて、うじゃうじゃいだなぁ」
ザクザクと雪を踏み近づいてくる中年を、相手にせず皆横を向く。

テラリと光を反射する堅い氷の盤面に、カモたちは自分の影を反転させる。

ガードレールに囲われるように守られる自転車は、
のんびりと太陽へ尻を向ける。

黒い筋を雪原へ這わせながら、
寒空に響くカラスの声を聞き流す細い枝。

凍てつくほどに、氷の舌先が水面をズンズン伸びる。
舌の上に乗ったカモたちは、氷に味見されいいカモだ。

靴についた泥をちょいと真っ白い雪でぬぐってみる。
山形人なら、よくやる仕草。

天童一中から部活の黄色い声が、
澄んだ大気を渡って響いてくる。

地ならしのローラーは、
まぶしい白さにさらされて、さび付く体を横たえる。

「ほだいしぇでってけろ、しぇでってけろて吠えらっでもなぁ」
猿と雉がいねがらと、お断りして後にする。

「コタツさ入て、早ぐんまいもの食だいはぁ」
「ビッグウイングさ行がねが、おいしいものフェアしったじぇ」
「今頃行ったて、ギャル曽根がみな平げっだはぁ」
大野目付近の車の列が目に浮かび、撮影を終えたらどの道を帰るか今から心配になる。

人は車を見下ろすために歩道橋を渡り、
空き地があれば、雪が積もっていようが歩道を外れて足跡をつける。

うなりを上げるトラック。目を三角にして、ひたすら前の車を抜こうとする乗用車。
歩道橋の上に舞い上がった風に、目をパチョパチョさせる。

「雪無いど、ゴミ目立てねはぁ〜」
「冬は雪で厚化粧しったほうがいいがもすんねなぁ」
「化粧なのすねったて綺麗にしておがんなねのっだなぁ」
素肌をさらし、恥ずかしげな南斜面。

溢れかえる太陽の光が、地面や藪、小屋や板ぱんこに満遍なく降り注ぐ。
耐えきれなくなった雪は、ビニールシートからズリズリと落ちてへたり込んでしまう。

パキパキと音を立てながら、
凍った地面を這い、こちらへ忍び寄ってくる枝の影。

「ちぇっとほごまでだもの、厚着なのすねっだなぁ」
おじさんが光を背中に浴びて、ひょいひょいと過ぎ去る。
毛糸の帽子を目深にかぶり、
ネックウオーマーを口元まで上げている自分が恥ずかしい。

みるみる溶け出した雪が、乾いた路面を黒々と濡らす。

地元の人しか入り込まない道の先に、人知れず登り口の看板。
そそられるままに体は狭い路地へ入り込む。

軒先に垂れ下がった氷柱の先に北目の街並みと、青白く霞んだ奥羽の山並みが広がる。

ちょいと手を伸ばせば、すぐに春を掴んでしまえそうな山の斜面に立つ。

笹の葉が揺れるたびに、光が目を射て目眩まし。

「埋もれんのやんだぁ、引っ張り上げでけろぅ」
チェーンはさび付く体をしならせる。

「風の吹ぐままよぅ」
日がな一日ペットボトルはプランプランと揺れ続ける。

冬の間に凝り固まった体を、雪の上にビューッと伸ばしてみる。

冷たい風に、浮いた錆がカチャカチャ音を立てそう。

笹の葉は、雪原にひっかき傷を付けたがる。

網目の隙間を冷たく乾いた風が吹き渡る。
将棋の街らしく、網目はそっと雪の上に碁盤の目をあしらってみる。

快晴に恵まれた山形盆地を見下ろしているのは、
切り株に乗った雪だけか。

薄紫の小さな花びらが、辺り一面にプチプチと咲いている。
春は山の南斜面にようやく到着したようだ。

キンキンに冷えた大気をツンツンと突いてみて、いつ頃春がやってくるのか伺いを立てる枝。

月山の見える山の上で雪原をズボズボぬかりながら歩き回っていたら、体が汗ばんできた。
誰もいないし、ここは景気づけに一丁歌でも歌うか。
「が〜ッさんの雪〜♪くれない染めてぇ〜♪」
青く透き通った空に吸い込まれる調子っぱずれの声を、枝先の枯れ葉がカラカラ笑う。

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