◆[山形市]両所宮・銅町 冬のおこぼれ(2008平成20年2月16日撮影)


雪にガッシと力づくで掴まれ、身動きがとれなくなった自転車は、
その圧力から逃げようと、もがきながら倒れてゆく。

白い地面にひたひたと飲み込まれる様。

「どさや?」
「孫さ、みがん持てってけっかどもてぇ」
赤い段ボールに冬の光が反射する。

日の差さないガード下。
手ぐすね引いて人を待ち受けるのは、冷たく重い真冬の冷気。

冷気の底をくぐり出た車たちは、
ホッとした表情を浮かべ、光の中へ去ってゆく。

壁面にできた日時計の影は、
太陽から逃れるように、時間に逆行して逆回転。

「足、はんばがて運転さんなねぇ」
転ばぬ先の両足。

鉄の蓋が光を浴びて、あんまり暖かくなるものだから、
白い雪たちは周りを囲んで、そろりそろりと待避する。

人や動物の歩いた足跡は、雪肌にできたそばかすやホクロ。
転々と出来た穴ぼこを、樹木の影がゆったりなでる。

吸い込まれそうに真っ青な空へ、
ピリピリと神経をとがらして、春を伺う。

「餌、すっからかんなたはぁ」
「どれ、別などごさもらいあべ」
鳩は見切りを付けて、ちりぢりに解散する。

鳩使いのおばちゃんが、実はとてもいい人だったという映画、ホーム・アローン。
山形にもいた。鳩やカモに囲まれ、餌と笑顔を振りまくおじさんが。

「こさ、おしどりいだんだじぇ」
「どさいだんだっす?」
「ほさよぅ」
おじさんの指先から、水面のカモたちへ目を移す。

「県民一同礼!」
尻を向けて去っていっても、ありがたいと思わなくちゃいかん。おしどりは県鳥なんだから。

春間近を告げるために、空から使命を持って降りてきた光の粉に、
注連縄から垂れる白い紙垂(しで)が、喜びを隠しきれずにフルフル揺れる。

ゾフッゾフッと雪を踏み抜く足音が通り過ぎる。
梢を渡る風は、まだまだキンキンに冷たい。

眠っている雪面に、早く起きろと言わんばかりに、
大木の影がドウッと張り手を食らわしてくる。

赤い雲梯(うんてい)が誘いかける。
大の大人がそんなことをと、人の目を気にする大人の常識が待ったを掛ける。

「大人は重だいがら駄目!しかもメタボだしぃ」
ギッコンンバッタンは×印で拒否反応。

奥羽の山並みに掛かっている雲が白く輝いて見える。
どんな路地からでも山並みが見えることに安堵する山形人。

軒先の氷柱がキラキラ輝くのを、
飽きもせず惚けたような顔で眺めていたのは子供の頃。

雨樋からチロチロ垂れる雪融け水へ、
寄り集まってくる去年の枯れ葉。

原色の幟をスイッと払って、寒気が過ぎる。

「近頃の鳩は郵便ポストば利用すんのが」
皮肉を込めた言葉に、鳩はうろたえながら逃げてゆく。

銅町から千歳橋方面を望むと、そこだけ家並みが途切れ、ぽっかりと空が現れる。
地面から突き出る電柱たちは、我先に青い空を突っついている。

ガラスが鳥たちへ向ける視線は、まるで鋭利な刃物のようだ。
近づいたら吸い取ってしまうぞと、冷たい微笑を仄暗い中から浮かびあがらせる。

路面は光をテラテラ照り返し、雪の白さは眠っていた脳神経に針を刺すほどにまぶしい。
自転車は、真っ正面から光を見る自信がないと横を向く。

あの空は、雪をまき散らしたかと思えば光を降り注ぐ繰り返し。
空の意のままに山形人は振り回され一喜一憂する。

町中から河原へ出ると、視界が開けるとともに冷たい風をまともに浴びるようになる。
手袋をはめ直し、ジャンパーのジッパーを首まで引き絞るように上げ、冷たくなった耳を毛糸の帽子で覆い隠す。

「雪の中ば歩ぐのは、普通の何倍も体力使うもなぁ」
冷んめたい北風はそんな言葉を軽々とかっさらって、馬見ヶ崎を遡上してゆく。

白いガードレールは、
遡上する北風を奥羽の山並みへ導いている。

水気が抜けて固まった雪の中へ、
ゾフッゾフッと足を踏み入れていく事が、
少しばかりの快感を伴うことを山形人は知っている。

「あんまり寒くて鼻水も出ねぇ」
誰もいない公園へ久しぶりに人が来たものだから、蛇口はついぽろりと弱音を吐いた。

「恨めしいぃ」
「おっかげで来んなよ、おかないったらぁ」
真冬の幽霊のごとき枯れ植物が、懇願するように前のめりになって手招きする。

「暖かいケッツば乗せっだいなぁ」
「少しぐらい臭くてもいいがらよぅ」
冷たい雪をかぶるのがよほど体に応えるのだろう、ブランコたちは。

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