◆[山形市]風間 啓蟄過ぎて這い出す春(2008平成20年3月8日撮影)


上空には冷たい風が舞っているというのに、地面に顔を近づけると春が盛んに背伸びしている。

山の神が居るという風間の山に登ってみようか。
雪のない南斜面という条件と、
盃山よりも安易に登れそうな目標値の低さについ足が向く。

なんとオール舗装の登り道。
神様と人間の距離が縮まってきた証か。

氷を浮かべたドラム缶へ、フーッと一息吹きかけてみる葉っぱ。

身を縮め死んだふりして転がる者。
体をふくらまし虚勢を張って威嚇する者。

取っ手を塀にくっつけて、考えあぐねるチリトリに、
去年の冬から同じ枯れ葉が居候。

空に張り巡らせた触覚が、寒気の切れ間に春の先陣が混じっているのを見つけだす。

足跡の窪みにはまり込み、
風を防いでそのまま寝入る。

流れゆく雲をかき分けて太陽が顔出すたびに、
パッと真っ白く輝いて笑顔になる漆喰。

長い間緊張しているのも疲れたのか、大気に含んでいたトゲが減り始めた。
その大気の気のゆるみを見過ごさず、見過ごしてしまうほど小さなつぶつぶが、ほんのり赤く色づく早春。

裸体でポーズを撮るのも恥ずかしい。
そろそろ人の目に触れてもいいような彩りを枝先に施そうか。

北風が、深く濃い皺を刻み続ける壁面。

ぴくりとも動かない水面に青い葉がゆれ、
通りすがりの白い雲がのぞき込む。

冬の間小さな葉っぱを囲っていたドラム缶。
春を待たずにポロポロと力尽きる。

「おらだの季節だねぇ」
「おまえだげ勝手に早ぐ走んなよ」
四つ揃って春を待つ。

我が物顔で表通りにのさばる事は出来ないと悟ったか、
逃げ込むように路地裏へ待避する雪。

真冬の欠片を溶かし込み、
切れるほど冷たい水が、黙々と流れ去る。

「春になるんだずねはぁ」
「おらださ春は来るんだべがぁ」
「重だい瓶ば積んでだころが夢みだいだなぁ」
空ケースの隙間に、冬の寒気がねっとり澱む。

「前さっぱり見えねげんと、暖かいのはやっぱりいいずねぇ」
手袋の暖かさを知ってしまい、
消火栓はいままでの寒さに戻りたくなくなった。

楯山駅の張り紙は、
空の雲を背にして退屈をかみ殺す。

銀輪の間をスイッと抜けていく風も、幾分優しさを取り戻す早春。

鋭角に交わる交差点。
ハンドルを目一杯切った証拠が道路に残る。

いつも信号待ちしていた風間ガードも今は昔。
車はスイスイ流れ、冷たい風も大手を振って流れてゆく。

思い出に浸る隙もない近代的な風間ガード。
「おもひでぽろぽろ」のワンシーンにだけ思い出が残った。

頑なに居残った雪へ、ピリピリと幾筋ものヒビを入れる早春の枝。

「バシャッ、バシャッ!」
屋根から落ちた冬の名残が、路面に落ちて砕け散る。

枯れ草の中でひっくり返った一輪車。
すり減って穴の開いた踵(かかと)を春の匂いがかすめてゆく。

「すっぱげでしまたもはぁ」
「ずっと外さ出っぱなしだものしょうがないべぇ」
板ぱんこも板塀も枯れ草も、卑下する気持ちすらパサパサに乾燥して消えていきそうだと危惧をする。

大空の重みを確かめようと、枝先に力を込めて押し上げてみる。

「いづまで寝でんのや〜、春がほごまで来ったじゃ〜」
まだ冬の眠りから覚めない大岡山に向かって、ハウスのポール越しに呼びかけてみる。

野ざらしですっかり艶を失った耕耘機。
活躍していた頃の夢を追いながら雪原にたたずむ。

「よぅ!久しぶりぃ」
片手を上げて声を掛けてきたのはポンプだった。
声はさび付きたどたどしく、体の動きもぎくしゃくだった。

「春だもの、もさもさど枝ば伸ばしったらみっともないべぇ」
枝にハサミを入れるのが最優先で、自分が床屋へ行くのは後回しの春先。

青空にチョキチョキはさみを入れ、切れた隙間から春がこぼれ落ちる。

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