◆[上山市]川口 うす靄の中から春(2008平成20年3月16日撮影)


「終わりにすっべはぁ」
「やんだぁ、まだ終わりにすっだぐないぃ」
雪かきもそろそろ終わりかと、スノーダンプたちは壁にもたれて春の匂いを感じとる。

蔵王の連山が、春霞の中に白く浮かび上がる。

踏ん張る四肢を、春風が笑いながら撫でて去ってゆく。

スコップは玄関先で人待ち顔。

「一冬汗水垂らして頑張てきたんだぁ」
真っ正面にスコップを見据え、にじり寄るダンプ。
「頑張たのは分がっげんと、それとこれとは話が別」
迫ってくるダンプからスコップは目を逸らす。

背後の山肌はまだ白い。待ちきれない枝先は、はち切れんばかりに充血し、いまにも葉っぱが吹き出そうとしている。

「春になっど、見慣れね人が沸いでくるもんだま」
「一声吠えでやっど、逃げで行ぐんねがよ」
二匹に睨まれ早々に春風の中へ退散する。

黄色い勘亭流の文字が、
冬を越してやや疲れ気味。

すぐ脇をブンブンぶっ飛ばしていく車の列。
せっかちな人間に苦笑しながら蔵が悠然と構え、春の空が穏やかに微笑む。

「いやぁ寝だ寝だ」
まぶしい太陽に目を細めながら、縮こまっていた体を伸ばす。

国道13号を走る車のうなり声と、
杉花粉がブレンドされる早春。

早春の風を切り裂いて、あっという間に彼方へ走り去る新幹線。
筋状の雲を張り巡らせた青い空は、何事もなかったように光をまき散らす。

鉄とコンクリートの固まりが、早春の靄の中へ力づくで割り込んでくる。

「あっちゃ行って、こっちゃ行ぐどいいのが?」
「んねず。そっちゃ行ってがら、ほっちゃ行ぐのよぉ」
なんとも複雑な交差点に、ややこしやぁ〜ややこしやぁ〜。

薄青い朝靄が徐々に晴れ、国道13号の彼方に浮かび上がってくる上山の村々。

「3パーセントのダウン?」
また給料が下がるのかと落胆する。
なんとも右肩下がりな勾配標識。

奥羽本線の先には三吉山が待ち構え、そのまた向こうに竜山が薄青く霞む。

日差しを受けて、黒いシミがじわじわ広がる山の斜面。
いや、白い冬がどんどん退行する山肌。

行き場を失い、のたうちながら右往左往する雪。

黒い枝も、茶色い田んぼも、ついでに黄色い標識も、
みんな揃って太陽の養分をグイグイ吸い取る。

高架橋から手を振ってみる。
標識はどこかを向いて無視を決め込む。

「いい案配な天気になたねぇ」
「なんだが自然とワクワクしてくんもなぁ」
赤いプラケースは喋る相手もなく、一人二役で独り言。

ギラリと太陽を反射して、轟音とともに走り去る。
舞い上がった風が頬を思い切りなぶっていく。
風の中に冬のチクチクする針は無く、含んでいるのは春の匂いだけだった。

「頭が混乱して、何したらいいがわがんね」
春だというのに取り乱しているトラック。

堅い雪に研磨され、
すっかり生気が抜けてしまったか、冬野菜。

青い空へ弧を描き、さあ出番だと力を込める。

田んぼから吹きつけてくる風に微かに揺れる。
小さな薄紫の花弁の揺れは、精一杯春の喜びを表したかったから。

「ひっくり返てる場合んねぞぅ」
「おまえこそ、ぐるぐる巻ぎなてる場合んねべぇ」
眠い目をこすりながら、早く起きろとお互いを突っつき合う。

「どさいだのやぁ」
「探して見えるもんじゃ無いんだげんと・・・」
猫は重い腰を上げ、春を探しにノタノタ歩く。

茶色い地面が夜空なら、
福寿草は、さしずめ地面に輝く黄色い星座。

「撮ってもいいべが?」
「採ったらだめっだなぁ」
「撮るだげなんだげんと・・・」
「採ったら春泥棒だべぇ」
蜂とかみ合わない押し問答をしながら、そろりそろりと近づいていく。

「天気いいくていがったなぁ」
「はがいって工事も早ぐ終わっべなぁ」
工事の声が電線の間を縫って、真っ白い蔵王連山へ流れてゆく。

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