◆[寒河江市]白岩 にじみ出る春(2008平成20年4月12日撮影)
あまりにあちこちに土筆がツンツン出ているものだから、 地表を流れる風は、減速を強いられる。 |
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白岩小の高台から白岩の街並みと、遠方に寒河江の街を眺める。 満を持して春の胎動が、盆地の底から沸き上がってくる寸前。 |
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気の早い土筆や犬のふぐり、そしてふきのとうは所狭しと地表を覆い、場所取りに余念がない。 |
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軽トラの動きも活発になってきた。 通り過ぎるたびに花びらが呼応して微かに揺れる。 |
「どだな猫の額でも利用さんなねっだなねぇ」 「猫の額も、集まれば文殊の知恵だべした」 |
「なんだなんだぁ?」 木の芽は不思議な物を見るようにカメラをのぞき込む。 |
水流の冷たい飛沫にさらされて、 それでも春を感じ取る花。 |
車の音をかき消すほどの水流の音。 冬が溶けだし下流へと去ってゆく。 |
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「おらぁ、かせぎすぎだもはぁ」 重い雪を運びすぎて壊れたスノーダンプが弱音吐く。 バイクのおばちゃんは杉花粉で、ダンプの声を聞く余裕もない。 |
「あんまりあがっどいいごどない」 人間、緊張してあがっど頭真っ白になっから。 |
「あらら、なんだべぇ。あの車、おらだのまねしてぇ」 水仙は一斉に寒空の中首をかしげ、色を真似る車をいぶかしげに眺める。 |
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地面が黒い舌をぺろんと出した。 舌の上にはどんな野菜が並び、どんな花が咲き乱れることだろう。 |
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「こっだな斜面さ、よぐ咲いでるごどぉ」 「顔で笑って、根っこで踏ん張てんのよう」 |
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ほっちゃ行げと矢印が、愛想も無く誘導する。 |
「黄色いのは水仙ばりんねんだじぇ」 小さく可憐な花びらが、慎ましく風に揺れる。 |
「おらだが出で来ねど、話にならねべ」 あちこちから枯れ葉をかき分けムクムクと這いだし、春の空へ背伸びする。 |
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「どっからもこっからも、油断してっどワサワサ生えでくんま」 地中に充満していた春のエネルギーは、所かまわず地表に噴出し始める。 |
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「ほだいみんなで一斉に主張さっでも、聖徳太子んねんだがらぁ」 土筆たちの大群は、我先に空へ伸びようとして、かしましいことこの上ない。 |
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家並みの間に、ちらほらと春の芽吹きを見つけながら、 車も通れない坂道を、足元に気をつけながら歩く充実感。 |
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小雨ぱらつく石垣の上で、 水仙は誰を待つのか、通りの先をいつまでも眺め続ける。 |
長い冬の間に付いたさびを振り払いながら、 ギシギシと起き上がる自転車のスタンド。 |
これからの季節、植物はどんどん色が冴え渡っていくというのに、 看板やトタン板たちは、寂しさを隠そうともせず、さび付きハゲ落ちてゆく。 |
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「バイクだど、まだ風は冷たいのよ〜」 排気音は遠ざかり、残された言葉はアスファルトに落ちて転がり消える。 |
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「ひっくらがえてらんねがらよ、行儀いいぐ並んでろ」 直立不動の郵便ポストに言われ、ビールやボンベはほんの一瞬緊張する。 |
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「あどちょっとでポカポカだぁ」 軒先を不意に通り過ぎる冷たい風が、暖かい言葉を掛けていく。 |
「まごまごしてっど、葉っぱどもから覆われっじぁあ」 春が近づき、気が気でないプラケース。 |
枯れ草に絡まれさび付いたドラム缶に、小雨が黒いシミを点々と付けていく。 「誰がおれから錆ば綺麗に取り払て磨いでけねがぁ」 ドラム缶は口をへの字に曲げ、哀願口調で訴える。 |
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満員電車が何十年も停車中。 発車する見込みもないのに、どうやら車内は満員だ。 |
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「まだこごさいだっけの?」 「いづ発車すっかわがんねんだぁ」 今年も顔を出した土筆に問われ、さび付く一方の電車は悲しげに答える。 |
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「山形市は今日開花宣言だっけど」 「平年より五日早いっけったんねがよ」 お互い黙っていることに耐えきれず、 タイヤたちは今日五回目の同じ会話を繰り返す。 |
鼓動がいつもよりやや早くなってきたようだ。 早く見たいと駆け足気味に足をもつれさせる。 鮮やかなピンクが歩調に合わせ近づいてくる。 |
「キター!」 清涼感度の一番強い目薬を差した時のように、目に飛び込んできた春の甘美な刺激。 |