◆[天童市]川原子 初夏の空へ舞い上がれ(2008平成20年5月4日撮影)


山形から天童へ向かう道すがら、初夏の空の底辺へゆったりと横たわる月山が見えてくる。

国道48号を行楽の車がひっきりなしに走る。
青葉若葉の輝きには目もくれず。

「おらだもあれくらい高いどごから空ば見でみっだい」
「あっだい高ぐなたらめまいすっからだめだぁ」
プラケースは空を仰ぎながら、鯉のぼりをうらやましがる。

萌えだす若葉が、路地からはみ出る。

「ゆうごど聞がねど、ふちゅぶしてけっからぁ」
黄色や紫のかまびすしい歌声に、ドラム缶は耳をふたぐばかり。

「つやつやだねぇ」
「水なんか100%はじぐじぇ」
張りのない指でちょっと撫でてみる。

「あ、行った行った。そろそろ始めっか」
「何ば始めるてやぁ?」
車が去って静かになったところで、初夏の楽しみ方をさえずり合うタンポポ。

ギラリと照りかえる日差しに、目をすぼめながら太陽の力を思い知る。

「こごらげで、ほどぎようもないどれは」
雑草の強さに、自転車はなすすべなし。

猜疑心に満ちた目で見つめられ、
表面だけ穏やかな表情で見つめ返す。

どんな路地にも彩りが溢れかえる。

「目の前でちらちらすんなず」
「ほだい堅いごど言わねでぇ」
木の芽たちは律儀な看板の前で芽を吹き出しはじめる。

「誰もかまてけねくて退屈だワン」
「退屈しのぎに俺さ吠えっだっけのが」

「日さ焼げんのやんだぁ」
自転車は暑いのも我慢してほっかぶり。

通りを吹き抜けた風は、奥羽の山並みにぶつかって雲になる。

「よっこらしょっと」
咲きすぎて重たくなった花びらが、塀の上で人心地。

国道48号から車の音と初夏の風が、追いつ抜かれつ流れ込んでくる。

急に飛び出されたら、驚いて心臓が飛び出しそうになる。
急に咲き出されたら、嬉しくてシャッターを切りまくる。

「いい顔すろよー!」
「思いっきりいい顔だー!」
道路を挟んだ会話を山が見守っている。

「何匹いだ?」
「ばだばだ動いで数えらんね」
花たちは体を乗り出して鯉のぼりを見入る。

危なっかしそうに登る孫たちに、じいちゃんは気が気でない。
伸び盛りの草花は、子供を応援するように手をさしのべる。

「咲ぎすぎんねがよぅ」
周り中の緑から囃し立てられ、ますますピンクに染まる。

あんまり山吹が綺麗だがら、蛇口から喜びの滴が垂れ落ちる。
ほんとうは、ただ単に誰かが締め忘れただけだけど。

さりげなく初夏の雰囲気を醸しだし、
さりげなく道路脇にある小さな公園。

日差しのダンクシュートが次々決まる。

「くたびっだはぁ」
本音を言えず、でも気持ちは顔に出る。

タイヤに踏んづけられないように、目立つ色で日差しに輝く。

ぱっくり開いた頭から、初夏の空へチロチロ飛び出して、
パタパタとはためく音は何だろうと聞き耳立てる。

川原子の村に少し強めの風が吹く。
鯉のぼりたちは隊列を乱し、水を得た魚のように踊り始める。

「もうちょっとあっちゃ行げぇ」
「隣がつっかえったんだもぅ」
「おまえはしゃぎすぎぃ、おれ膨らみすぎぃ」
勝手なことを言いながらも、みんな大口開けて初夏の大気を腹一杯吸い込んでいる。

萌えだした小さな若葉たちが、鯉のぼりの勇姿をまぶしげに見上げる。
ひときわ大きく尻尾を跳ね上げる様に、葉っぱはひとしきり拍手を送る。

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