◆[上山市]早坂・湯坂 夏雲湧く田植え時(2008平成20年5月17日撮影)
シューンと金属音が近づいてきて、あっという間に遠ざかる。 初夏の大気を切り裂いて、新幹線が茂吉記念館前駅を見向きもせず走り去る。 |
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「おれは阿呆だが?、誰もいねのに突っ立って」 隣の自販機で買ったオロナミンCをグビリと飲む私に、ポストはそっと囁きかけてくる。 |
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「すっかり寂しぐなたもは〜」 上山市内から山形方面へ行く西バイパスが開通し、 たま〜に通る車の風に吹かれながら草花が嘆く。 |
「イェーイ、茂吉の里上山へようこそぅ」 薄っぺらい看板が、誰もいない地面へ、 譫言(うわごと)をうっすら敷き詰める。 |
「石の上にも三年だど」 「おらだは、石の下にも三年かぁ」 石を載せた赤いケースは、自虐の笑いを紅葉に向ける。 |
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静かすぎて、時間が間延びしたような通りへ、 初夏の日差しが、後から後から降り積もる。 |
忠実な影にも疲れが溜まる。 だらけた影が、青いシートにもたれかかる。 |
ここぞとばかりに、路地へ振りまく黄色い愛想笑い。 |
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沸騰した鍋からお湯の泡が溢れでるように咲き乱れる。 自転車は真上の騒ぎに気づく素振りも見せない。 |
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風もなくゴミもない退屈な空間に、 箒はプランとぶら下がる。 |
緑に覆われる通りで、濃い酸素を深呼吸。 |
落ちようとする花びらの一片が、ぎりぎりのところで耐えている。 |
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詠まれた歌も、いまだに墨痕鮮やか。 |
余韻が残るバイクのエンジン音を、 緑のトンネルが吸い取ってゆく。 |
樹幹の隙間から忽然と姿を現す山形の勇姿。 竜山と蔵王の峰々から、漲る力が雲となって湧き上がる。 |
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耕耘機の軽快な音が、緑の野へ響き渡る。 |
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「段取りは、こうしてああしてこうだがら」 テキパキ進む作業を、初夏の日差しが包み込む。 |
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思わず地面へ滑り落ちてしまった影に、 「気ぃ付けらんなねっだな」と、慈愛のまなざしを向けるツツジの花びら。 |
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「あたしが一番だぁ」「んねじぇ、あたしの方がもっと高いぃ」 菜の花は、青空に近づく競争で背伸びする。 |
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緑の間を透かしてみれば、そのまた先も緑の中。 |
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微かに耳元へ届く羽音が、 花びらから花びらへとちょこまか移動する。 |
坂道を登り切って振り返る。 樹木の視線が追ってくる。 |
「おまえ、めんごいなぁ」と、頭をくしゃくしゃに撫でられた後の子供の頭。 または、飲み過ぎの翌日に目覚めたばかりのOL。 |
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緑の闇から浮かび上がり、初夏の空をまぶしげに見る。 |
「あっちゃ行げ、そっちゃ行げて命令ばっかりすんなず」 「ほだごどゆたて、標識は命令だげが仕事だがら」 |
見上げれば、皐月の空が隠れるほどに覆い被さって、緑の滴を滴らせる。 |
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深く濃い緑の中を通り抜ける。 抜け出た後には、初夏の日差しが強烈に出迎えてくれる。 |
村を覆う樹木や草花は、順風満帆。 なんの疑いもなく日差しを浴び、皐月の風を謳歌している。 |
アスパラがあぜ道でソローンと立つ。空にずぶりと突き刺すように。 |
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食卓を賑わす前に、畑の中で前夜祭。 |
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ポケットからハンカチを取り出し、首筋の汗をぬぐう。 田植えの終えた水面から、軽やかに風が吹いてきて、ああ爽快。 |
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蛙(かわず)の音(ね)が水面に響き渡るまであとわずか。 微かなさざ波とともに静寂が水面を覆い、田植えを待つ。 |
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「写真?ほだなさ構てる暇なのないがら」 慌ただしく進められる作業につきまといながら、迷惑を顧みずレンズを向ける。 |
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遠くに耕耘機の音を聞きながら、畦の草花を舞う。 |
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竜王橋の手前で蔵王川と前川が合流し、須川は赤茶けた石ころをなめ回しながら山形盆地を流れ下ってゆく。 |
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萌える万緑の中、高松葉山行きの山交バスが竜王橋をゆっくりと渡り終え、上山市内へ入ってゆく。 何十年も繰り返される変わらない光景。山形人の目に焼き付いて離れない当たり前の日常。 |