◆[山形市]下条四丁目・五丁目・北山形二丁目・北町二丁目 梅雨入り近く(2008平成20年6月14日撮影)


梅雨に入ろうか入るまいか、ぐずぐずと迷っているような空模様。

どよんとした空を、ぽわんと放心し無心で眺める花びら。

大通りから生活道路に入ると、車の音は遠ざかり、
途端に親近感を持った草花が近寄ってくる。

熱くもなく冷たくもない風が、
通りの向こうから塀をなぞって流れてくる。

赤茶けた色が曇天に突き刺さる。

「若いどきは、どさでも出掛げだもんだぁ」
動くのも難儀そうに地面に座り込む、焦げ茶色に日焼けした体。

「土曜日だがら、会社休みんどごもうがいんだべなぁ」
看板を落とさぬように、仕事への意欲を無理してかき立てる。

その先は下条五叉路。
ぬるい空気を引き連れた行き交う車の騒音が、アスファルトを流れ体をすり抜けてゆく。

自転車に乗せられどこへ連れて行かれるのだろう。
新聞紙にくるまれたガーベラは、白い花びらを小刻みに震わす。

江俣から北町へ、下条から桧町へ。行き交う車が交差する下条五叉路。

一瞬足を止め見入ってしまう。いや魅入られたといった方が正しいか。
我が世の春と盛り上がるピンク色は、無防備の心を奪ってしまう。

「今朝の地震おっかないっけねぇ」
「ちょどしったら、いづの間にが収またっけ」
「ちょどしったのんねくて、ただ動がんねぐなただげだべぇ」
旧街道を親子の会話がゆっくり歩む。

パラリと剥がれたポスターを、
ぬるい風がふわりと撫でて去ってゆく。

左沢線の暗がりに、夜の名残がたむろする。

右はアスファルト、左は砂利道。さぁ、どっちを選ぶ?
選択の余地はない。もちろん楽そうな方。

空から落ちてくる雨の一粒一粒にも運不運がある。
アスファルトに体を打ち付け果てるもの。白い花びらに受け止められ難を逃れるもの。

力強く掌をパッと開け、紫外線を存分に受け止める。

紅葉の葉っぱを揺らしても、謝りもせず、ぱらつく雨は。

「ガッサガサの肌ば、さらして恥ずがしぐないがっす?」
「おまえのその考えがガッサガサ」
土蔵に諭されているところを、車たちは笑って見ている。

誰も通らない間に、そろそろっと体を伸ばしてみる。
もちろんどこからも苦情は聞こえてこない。

枯れた堰を音も立てずに流れるぬるい風。

「あっだい見事に実てはぁ、目の毒だずねぇ」
「車ば運転してっど、ハンドル操作ば間違うべなぁ」
道路のカーブ沿いに立つ巨大看板が、甘い毒を放つ。

雲に隠れる竜山。はっきりしない空模様にため息をつく千歳山。所在なげに佇む看板。

「ピーて蒸気の音聞こえだっけぇ」
「真っ黒い煙も見えだっけじぇ」
左沢線沿線の工事現場は、イベントで走る蒸気機関車に盛り上がる。

「さっきの地震、おかないっけぇ」
「たづいでんのでやっとだっけま」
ハンガーにしっかりと捕まる洗濯ばさみ。

「おらぁ覚悟決めだっけはぁ」
「ひっくり返たら終わりだっけもなぁ
肝を冷やした瓶たちが、プラケースからそっと顔を覗かせる。

地面に落ちた栗の花へ、雲間からはみ出した日差しがまとわりつく。
主を失った自転車は、日差しを拒絶するように塀へもたれかかる。

「ねえねえ、どさ行ってきたの?今からどさ行ぐの?」
興味津々に自転車へ声を掛ける草花たち。

「誰も来ねくて退屈だべぇ」
トタンは錆を浮かせた赤い顔をブランコへ向け話しかける。
「・・・」
ブランコはあまりの退屈さに腹を立てているのか、ニコリともせず黙りこくる。

「蒸気機関車はじめで見だぁ」
「なんだが超アナログで、かっこいいっけ」
興奮冷めやらぬ声が公園に響く。

町中を白く浮き上がらせながら、日差しが徐々に移動する。

「早ぐしぇめでぇ」
「どさいだのや?」
シロツメクサに覆われた公園で、目を皿のようにする子供たち。

「篭の中であばっでだぁ」
子供たちは虫篭をのぞき込みほくそ笑む。
ゴミ篭の中では用済みの空き缶たちが、自分の身を嘆き騒ぎ立てる。

「あど何回やぁ」
「いづまでも押してぇ」
花びらの見守る中、子供の背中を押す手はいつまでも止まらない。

TOP