◆[上山市]小白府・前丸森 山襞に入り込む夏(2008平成20年6月21日撮影)


排気ガスと騒音と、そして真夏の日差しが屋根に降り積もる。
小滝街道の新と旧。

夏至の日差しを大手を広げて迎える。

国道348号という新しい道から見下ろされる。
上から目線で旧街道を見下すんじゃないぞ。

緑に抱かれた中ノ森の集落。
この先のトンネルをくぐれば、南陽市の小滝。もっと走れば白鷹町へたどり着く。

「選挙なのいづあっても世の中変わらねぇ」
「世の中変わらねげんと、おらだは役に立ってっべ」
選挙の看板は壁になって風雨を防ぐ。

「勝手に壁の脇さ追いやらっでよぅ。毎日退屈なだげだぁ」
いつまでも現役でいたいと切望しても、
世の中は変わるし、赤黒く錆が浮いてくるし。

窓枠のガラスは日々刻々と変わる風景を映し出す天然額縁。

「浮がね顔して、なにおもしゃぐないのや?」
「ほっだい若々しい格好ば、見せずらがすごどないべぇ」
すすけた窓と活き活きとした緑の会話は、
老人と若者の会話のように噛み合わない。

カッカきている強烈な日差しが白い花びらに操られ、
涼やかな光を放ちだす。

どこの小道も上り坂か下り坂。
持ってもいないのに、ここでビー玉を転がしたらどんなに勢いづくだろうかと、汗を拭きつつ考える。

「この有り余る若さば、どいにして発散すっどいいんだぁ!」
思い切り掌を広げて、一方的に主張する葉にたじたじとなる。

「あご痛っだぐなてくる」
「土ばもっくらがえすより、ぶら下がったほうが楽だべぇ」
「外さ向げでケッツば見せでんの恥んずがすぃ」
鍬たちはあごを引っかけおとなしく休憩をとる。

四角四面の顔に表情を表さないのは、長年の間に培った処世術。
崩さぬ表情に安心感を覚え、草花たちが足元に咲く。

「いづ、いづ来んのや?」
草花たちは興味津々で首を空に伸ばし聞き耳を立てる。
「さわぐなぁ、ほだないづ来っかもわがらねものさぁ」
地震のうわさがいつの間にか興味本位の衣で大きく膨らみ、山形人に蔓延する怖さ。

「喉渇いだぁ」
苗たちが囁くようにつぶやく。
どこから声が聞こえるのかと、如雨露は小首をかしげる。

「ズガズガて暑くて、やんだぐなるぅ」
「あんまり暑くて、やせ細てしまたはぁ」
ズカズカと土足で太陽が踏み込んでくると訴えるハンガー。

うっと口を閉じてしまいたくなるような緑の体熱が大気に充満する。
か細いハンガーの存在など意に介さずに熱気が押し寄せる。

白くうねった細い道を上る前に、手はポケットのハンカチを無意識に探す。
これくらいの暑さでへばっているのかと、土蔵が見下ろしてくる。

草花は何も考えず、ひょろりひょろりとどこまでも登っていきたいと思う。
青い空は地表の草花たちに甘い誘いを降り注ぐ。

「ちぇっと一服が」
「じゃますんなず。空見えねどれ」
小さな空間を拡大すれば、そこにはバッタと花びらの小さないさかい。

「やっと休憩がぁ」
「腰がパンパンに張ってよぅ」
シートにおっかがり、流れる雲を眺めるひととき。

若い草花たちは盛んに一輪車の体をくすぐってくる。
一輪車は体に錆が浮いてしまった自分へ、
どうしてちょっかいを出してくるのか腑に落ちない。

白く浮き上がった道へ、樹木たちは黒い影絵を貼り付ける。

「おまえさ被さてけっか?」
麦わら帽子は善意から言ったつもりだった。
「いざというとぎ困っから、やんだっす」
つれなく断る消火栓を横目に、愛媛みかんは聞かぬふり。

五線譜もない空中で、紫の音符が体を揺らす。

アリウムの花言葉を調べたら「無限の悲しみ」。
あんなに空が青いのに、こんな明るく日差しが降り注ぐのに、なぜそんなに悲しみを大きく膨らます?

じわじわ吹き出した汗が背中を伝う。木陰に逃げ込み一息ついて樹木を見上げる。
何かに守られているような安心感が体をじわじわ覆ってくる。

その肌触りを感じたくて、
掌で撫でてみたくなる、規則正しく織り込まれた緑の絨毯。

空に向かって自分を売り込むのに必死。
片脇でレンズを向けても見向きもされない。

地面からヌーッとせり上がってきたような消防小屋が、暑さに緊張を緩めまいと直立する。

苗たちの輪唱を聴きながら箒はのんびり昼寝。ホースはのんびりと地面にぬだばり、赤いバケツはお構いなしに空へ大口を開ける。
取り澄ますこともなく雑然として心地いい。

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