◆[山形市]本町・木の実町 猛暑の空に願いを(2008平成20年7月6日撮影)


もやもやっとした大気が山形市を包み、
逃げ場を失った熱気が町中をうろつく。

ギラリと照り付く太陽は、アスファルトを沸騰させ、車のボンネットを焼き、
人々の頭にズガズガ降り注ぐ。

そこここの家並みの間からエアコンの音と排気された熱が漏れ出す。
アスファルトの上をのたうった後、真夏の熱気と混ざり合い山形の上空を白く濁らせる。

「あ〜あっずい!」
「ほれぐらい熱ぐなて勉強したごとあっかよ」
アスファルトの輻射熱が襲いかかり、人々はしかめ面で歩く。

狭い階段にはみだしてでも、太陽を拝みたいヤツデの葉っぱ。

一ヶ月先の熱気が、自転車の影から顔を出す。

白っぽい空へ定規をあてがって、
縦横斜めに黒い線が描かれる街の中。

顔をかすめる花びらに、ああ梅雨の季節だったんだと、眩しい空を見上げながら気づく。

小路のあちこちからはにかむように顔を出し、通りの人を伺う草花。

「部外者は立ち入り禁止だがらね」
校舎の前で、言葉に刺を含みながら威嚇する。

山形市の臍に位置する一小は、老いてもまだ矍鑠(かくしゃく)として威厳を放つ。

生徒たちが窓から次々に顔を出し、先生に叱られひょいと引っ込める。
そんな姿を彷彿させる通りの草花たち。

フライパンに入った水があまりの暑さにパチパチ跳ね上がるように、
アスファルトに落ちた花びらが、熱くてじっとしていられないと騒ぎまくる。

「エコバッグは準備さんなねし、自転車さ子供ば二人も乗せらんなねしぃ」
お母さんは雑事に追われ、花びらが熱い路面で呻いている事に気づく余裕もない。

閂(かんぬき)できつく閉められた扉なのに、
涼を求めて中へ入ろうと、夏の植物たちはそろそろっと外しに掛かる。

都会のセンスが漂う近代的な校舎は、
あっづい!とだらけてしまう私を涼しく笑う。

どこまででも伸びてやる。
とにかく前へ伸びることしか頭にない蔦。

「なにその干からびだ姿は」
「おまえもすり減って掃く気力もないみだいだどれ」
枯れ葉などどこを探してもなく、意気消沈し塀にもたれかかる。

青いフェンスは頑なに人の入りを見張っているが、
夏の大気は網の目を軽々と抜け、狭い小道に入り込む。

全身に太陽の日差しを浴びて暑いはずなのに、
そんなことは意に介さず、バイクはいつまでも通りの向こうを眺め続ける。

フェンスをよじ登る葉っぱたちは高見にたどり着き、
その先の空へどうやって行こうか迷っている事だろう。

太陽がじりじり地面を照らし、浮き輪を持った子供たちが、路地の先から飛び出してくるような感覚に襲われる。

細く長く伸びる路地。
どこまで行っても暑さから逃げられる術はない。

白いシャツが風をはらみ、
背中を膨らませて自転車が走り去る。

子供たちの歓声が響き渡ることもなく、遊具と樹木がお互いの存在を静かに認め合う。

熱せられた地面に、黒々と模様を描く真夏の太陽。

止まれ。そして椅子に座って休んでいけ。
路面の白いペンキはそこまで配慮はしてくれない。

33.2度まで上がった気温。
小道を白く浮き上がらせ、壁や塀や草花を熱風の掌が覆い尽くす。

「ちゃんと願い事書いだがや?」
「何書いたが忘っだ」
「すぐ忘れるんだがらぁ」
「何事も忘れませんようにて書いだっけのんねがよ」

「ほれ、こさぶら下がったどれぇ」
「こだい探さねど見つからねなて、神様が願い事ば見つけでけっか心配だぁ」

「いやあひどい土砂降りだぁ」
「横殴りの雨だねぇ」
二人の親子は突然の雨にあわてて待避する。というのは嘘で、すべては噴水の水しぶきでした。

「暑いしくたびっだしで、あそごまで行ぐ気力ないはぁ」
「餅付きしったどご見でみっだい」
「行ぐんだごんたら、一人で見でこいぃ」
子供は、母親の側にいるか餅付きを見に行くかで、心の天秤が揺れている。

餅付きの妙技に、子供はかき氷を食べる手が止まっている。

餅付きを見ていると手元のかき氷は溶けてしまうし、
かき氷を食べていると餅付きが見られない。

「水の勢いが強すぎで指先しびれるぅ!」
心までしびれるほどの刺激に、子供は我を忘れる。

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