◆[山形市]高瀬 山形紅花まつり(2008平成20年7月12日撮影)


平日は時間ギリギリまで布団の中でグズグズしているのに、休みの日は目覚ましが催促しなくても目が覚める。
ガバッと布団を抜け出し淡い朝焼けを眺め、今日の紅花まつりは大丈夫だなと確信しカメラを準備する。

まもなく色づくだろうミニトマトについた水滴が朝日に輝く。

路面はまだ濡れて黒ずんでいるけれど、街並みは溜まった埃が洗い流されたように清々しい。

紅花まつり開会式のアナウンスが、田んぼを渡り山々に吸い込まれてゆく。

「臨時駐車場さいで、みなピチャピチャ車からちゅぶさっだがらて逃げできたのよぅケロケロ」
紅花まつりはカエル受難の日になってしまった。

「暑いがらくっつぐなず」
花たちはお互い押し合いへし合いのうちに道路へはみ出す。

「もさっと突っ立っていねで、崩れそうなんだがら助けでけろぅ」
そんなことを言われても手も足も出ないタチアオイ。

サンダルとはなんだか知らない花たちは、
思わず近づき、クンクン匂いを嗅いでみる。

「合の原の方は、まだ朝靄さ包まっでいっかもすんねなぁ」
山の上の村を気に掛けながらも、日差しを浴びて白く輝く花びら。

たまに通るのは軽トラ。
誰も通らない道へ、太陽が有り余る日差しを降り注ぐ。

「俺なの太陽さ手が届ぐはぁ」
「年しょてはぁ、足腰大丈夫なんだがよ」
脚立たちの背比べ。

もわもわと得体の知れない気体が、家並みを飲み込もうとしている。
スモークツリーが煙のように風になびく夏。

水音を聞いて涼しさを感じようとする。
背中からジリジリと太陽がちょっかいを出してくる。

「右からは何にも来ね」
「左からも何にも来ね」
「せーので渡だっべ」
いつまでも同じ会話を続けているミラー。

「昨日はあだい雨降ったど思たら、今度はズッガズガの太陽だずねぇ」
両方の恵みをまともに受けて、深い緑に磨きが掛かる。

「ちょっと角度ば変えでけねが、ミラーさん」
外の世界を見たいアジサイは、塀の中でミラーに注文を付ける。

「首の周りさ赤いの巻いで、汗疹でも出っだんだが?」
日差しを浴びながら、アジサイは陽気に声を掛ける。

花に覆われ、道行く人々の心を奪う高瀬小近くの交差点。

クレオメの花は自分たちの季節がやっと来たと、青い空にのびのびと手を広げる。

「眩しい空には赤が似合うのっだなぁ」
サルビアは自画自賛しながら、空に向かって口をパクパク。

紅花の中にも大人しくしていられない者がいる。
道路にはみ出し、車体に写った自分の姿をしげしげとのぞき込む。

雲を力こぶのようにモクモクと湧き上がらせて、夏空は人々へ力を見せつける。

「どさしぇで行がれるんだべぇ」
自転車の篭に乗せられ、主を待つ紅花。

「ほだい引っ張んなずぅ、服しゃばげっべなぁ」
「んだて、紅花プレゼントは先着200人なんだじぇ」
子供に引かれて紅花まつり。

夜の雨に打たれ、一層色彩が増してくる。

「日傘無いどどさも行がんね」
「早ぐ午後のニュースさ間に合わせらんなね」
「チクチクておかなくて触らんねぇ」
「この辺で踊っどいいんだべが」
紅花畑で人々は思い思い。

マスコミ各局がかち合えば、お互いの腕の見せ所。
どの局が一番魅せる映像を撮ったかが問われる厳しい仕事。

「悠長に見でる暇なのないんだぁ」
マスコミはポイントを押さえてとっとと帰る。

「懐がすいずねぇ」
「あの頃は、いがったま」
「ところで何の話だっけず」
遠い昔の話は、朝靄が消えるように記憶の中から消えていく。

まずはしっかりと紅花を手中に収め、
その後しっかりと子供の成長を見守る母親たち。

「俺のTシャツ紅花染めだじぇ」
「ほんてん?」

「早ぐ撮ってけろ、手くたびっできたはぁ」
「ちぇっと待ってろ、カメラの機嫌が良ぐないみだいだ」

子供たちの願いは、夏雲に混ざり合って空へ登ろうと微かに揺れる。

「来た甲斐あっけべ?」
「ほいずぁ来ねより来た方がいがったっだな」

高瀬小の生徒たちはみんなの視線を浴び、紅花研究の成果を発表している。
紅花は誰の視線も浴びず、ベンチの上で聞き耳を立てている。

「子供だぁ、おらだのごどば喋ったのんねが?」
「新聞邪魔で、よっくど聞こえね」

「届がねぇ」
「願いが?」
手が簡単に届くような所に願いは存在しない。

「あどなんぼぐらい包むどいいべなぁ」
「高瀬の名が全国さ知られるまでっだなぁ」

「ズルズルッ、モグモグッ。腹減ってわがらね」
大人たちはビデオやカメラに集中。子供は食べることに夢中。

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