◆[山形市]小白川町二丁目・緑町二・三・四丁目 梅雨明けの街(2008平成20年7月19日撮影)


「小白川二丁目のバス停から、千歳山が見えるようになたがぁ」
このあいだまで建っていたものが消え、そこには夏雲が湧いている。

「あれ〜、こごさ何建ってだんだっけぇ?」
空き地を見つけた場合、たいていそこに何が建っていたか思い出せない。見慣れていても記憶には刻まれていないから。
でもここは違う。「ありゃ、おれの結婚した場所が無ぐなたはぁ」小さなため息と大きな落胆。

「止まれなてやっだて、すぐには止まらんねっだず」
街のあちこちに止まれの標識と白いペンキ。
止まれといわれても、ここまで加速した暑さは急に止まれない。

「遊んで行ぐ?」
「気持ぢだげでいいはぁ」
パンダもどきに声を掛けられ、暑さと恥ずかしさに躊躇する。

宅地の中に緑があるのではなく、
緑の中に住宅が配置されている感じ。
それほどまでに緑が多い緑町界隈。

「梅雨明げだてさっきゆったっけ」
「嘘だべぇ、ちょっと早ぐない?」
「文句あっごんたら気象台さゆてけろ」
梅雨明けの会話に身を乗り出してくる葉っぱたち。

伸びる葉を振り払いながら、緑の回廊を歩く。
山形の街の真ん中なのに不思議な気分。

誰が言ったか、緑町は山形の田園調布。
緑の多さに思わず納得し、首をこくりと頷かせたら、汗が顔から地面にポツリ。

「ぐるぐる巻がてる場合んねべぇ」
傘は退屈しのぎに、水を撒けとホースを責め立てる。

太陽に背を向けたと思ったら、
今度は車のフロントガラスを利用して責め立ててくる。
どうやら眩しい日差しから逃げる術は無いようだ。

抑揚を付けたスピーカからの音とともに、
スイカ売りのトラックが陽炎の先へ遠ざかる。

地べたにしゃがんで、地面すれすれにカメラを構える。
アスファルトの熱気が手先まで伝わってくる。
「よぐ地面さくっついで、いづまでも突っ立ってるいもんだな消火栓」

北高正面付近から市役所方面へ、だらだらと下がる坂道。
行き交う車やバイクが起こした空気の波を、静かに受け止め花びら揺らし、通りの向こうをぼんやりと見つめる。

電信柱よりも高くそびえる蔦の回廊を、北高名物とは誰も言わないのか。
少しばかり鼻息を荒くして、双月橋方面へだらだらと登ってゆく。

「夏になっど必ずどっからが現れっずねタチアオイだら」
なんの躊躇もなく伸び、あまりにも原色で咲き誇り、しかも悔しいことに青空に映えている。

「スイカ〜♪、甘くておいしい尾花沢のスイカ〜♪」
独特の抑揚が緑町をゆっくり流れる。
サルスベリはスイカより青い空のほうへ興味があるようだ。

空の上から地面すれすれにダランと垂れて、オレンジの口をあちこちに開けるノウゼンカズラ。

やがてゆっくりとペダルを漕ぎ出す。
白く浮き上がるアスファルトの上を、滑るように揺れるように麦わら帽子が遠ざかる。

岡持バイクは、なんだべど思って振り返る。
「この暑いのに、誰が外で寝っだのが?」
お構いなしに布団は車上で太陽から水分を抜き取ってもらう。

大きな壁にぶつかったとき、
自転車は壁から逃げずに対峙して、
じっと打開策がないか模索する。

「っっっづい!」
「ほだごど何遍ゆたて涼しぐならねじぇ」
「んだら何が代案ばゆてみろ」
代案はなく、自転車三人組はアスファルトに炙られる。

対岸の双月町が馬見ヶ崎川に写り込み、緑の影は規則正しく流れに揺れる。

馬見ヶ崎川からは、山形人にだけ伝わるα波が出ている。
そのα波は山形人を郷愁に駆り立て、心を和ませ、そして里芋を彷彿させる。

「腹減ったぁ」
「ベゴ負げだぁ」
「ぼげだのんねがぁ。ウマかったぁてゆたら、べご負けだぁだべ」
言葉をゆっくりと咀嚼(そしゃく)する二匹。ゆったりと野面を流れる時間。

「ま〜だ、こだんどごで咲いっだ」
タチアオイの元気良さには呆れかえるしかない。

「ほだいベロベロて節操もなぐ咲いでいねで、上品さとが奥ゆかしさば身につけだらなんた?」
額から流れる汗を拭きながら、暑いのはタチアオイのせいだと言わんばかりに八つ当たり。

「うへぇ、やばつい」
「おまえさっき俺さ掛けだどれぇ」
馬見ヶ崎の川の中で水掛け論。

撮影させてもらったお礼に記念撮影。
屈託のない笑顔をカメラに納めながら、夢中になって遊んでいたあの頃が脳裏をかすめる。

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