◆[東根市]羽入 盛夏に歩く清流の郷(2008平成20年7月27日撮影)


「ほだい勢いよぐ飛び出さっでも人は急に止まらんねずぅ」
暑さのせいでぼんやりしていた自分が悪いのか、元気が良すぎて道路にはみ出す葉っぱが悪いのか。

谷地さ行げて言わっでも・・・
看板はさび付いても意志を曲げない。

背中を日差しに押されるようにして、
自転車はトロトロ去ってゆく。

こぼれ落ちてくる日差しを受け止めるように咲くノウゼンカズラ。

「カピカピだげんと元気です」
「カピカピで顔さクリーム塗っだいげんと我慢してます」
健気な少年少女たち。

「火の用心も大切だし、東根市市制50周年も祝わんなね」
街角の情報は問いかけてくるだけで返事をしない。

「真っ赤な情熱ば受げ止めでけろっす!」
花びらは熱い気持ちを空へ届かせようとする。
「世の中、情熱だげでは生ぎでいがんねのよう」
諭すように花びらを撫でてみる。

白く濁って反射してくる熱から、顔を背ける芝桜。

羽入(はにゅう)ってなんだか響きのいい綺麗な名前。
東根の人ははんにゅうと言うらしい。ちなみに隣村の荷口はにっぐづと呼ばれている。

「あっづぇ、あっづぇ、エアコンないのがぁ」
「ちぇっと黙てろ祈てっどぎに」
さすがにスノーダンプには耐えられない季節。

「ちょべっと空気ばつまんでみだのよ」
「なんた感じしたっけよ」
つかみ所のない植物との会話。

「みんな集まれ集まれぇ、写真撮ってけっどぉ」
レンズをしげしげとのぞき込まれ苦笑する。

蝶々の名前には疎い私。
「都合悪ぐなっど疎いてゆて何でもごまがすのんねがよ」
空耳かもしれないし耳鳴りかもしれないが、蝶々が何か言ってヒラヒラ飛び立った。

家に帰ったらシャワーを浴びてさっぱりしたい。
ひまわりを見上げ、あの種の部分から水しぶきが溢れ出てくるんではないかと錯覚する。

緑ばかりが濃くなって、板塀は精気を吸われたように色あせる。

すだれの隙間から、
誰もいないビアガーデンへ生ぬるい風がゆるりと入り込む。

遠くから見ればただの小屋。
中に入ってびっくり、階段を下りれば小見川の側面を、
つまり川の中をガラス越しに覗ける仕組み。
ヒンヤリとしたガラスは結露していた淡水魚観察棟。

空へ思い思いの字を書くように、大空へみんなで手を振る。

ガラスのようにカチッと固まった水面は、水草を身動きできないように絡め取り、太陽の日差しも拒絶するように跳ね返す。

羽入は山形県内で東京へ一番近い町。
「んだて空港まで1キロだじぇ」

「よれよれだはぁ」と、ビニールシート。
「死にそうなくらい退屈だぁ」と、古タイヤ。
「空さ飛んで行ぐだい」とコンビニ袋。
ポカリと浮かんだ白い雲は、誰の言葉も聞かぬ振りして遠ざかる。

「だ〜れも来ねねぇ」
プランプラン揺れる実に、大富小から田んぼを渡ってくる子供たちの声がたどり着く。

遠くに見える東北中央自動車道の東根インターチェンジも、グランドを駆け回る子供たちもぼやけて見える。
ブランコは銀色に輝くだけでピクリともしない。

歩きながらアクエリアスを喉に流し込む。
ゴクゴクという音とひたひたと歩く足音だけがまとわりついてくる。

イバラトミヨの看板が、夏の緑にヒタヒタと覆われる。

境内に足を踏み入れる。
体の汗は遠慮するようにすーっと引いていく。

「字逆さま」
「天気いいぐなたがら、ケッツ乾がしったんだぁ」

至る所に水のある光景が広がる、羽入は清流の郷。

「汗吹き出してくるぅ」
「んねじぇ、どっこ水ていう湧水が噴き出してくるんだじぇ」

このご時世だから、先生に叱られるんじゃないかと冷や冷やしながらネット越し。
「なに突っ立って覗き込んでんのや」
そよ風は、一声掛けてネットの向こうへ吹き抜ける。

「最後にプールさ入たのはいづだっけぇ?海水浴さ行ったのは何年前だっけぇ?」
古い記憶をたぐり寄せながら、飛沫の心地良い響きを体に染みこませる。

「雑草ぼうぼうて大変だなっす」
「雑草なのんね。ひょうば干して食うのっだなぁ。んまくてこでらんねぇ」
※「スベリヒユ」を山形県では「ひょう」と呼び、一種の山菜として扱われており、干して保存食にもされた。(ウィキペディアより)

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