◆[東根市]東郷 おばけかぼちゃコンテスト山形県大会(2008平成20年9月28日撮影)


「車うがくて、ながなが道路渡らんね」
「早ぐかぼちゃの豚汁食だいのにぃ」
「400食しかないんだど」
「焦らせんなずぅ」
コスモスは笑みを浮かべて、子供たちを見守る。

雨も上がり、日差しが顔を出す。
おばけかぼちゃコンテストが気になるのか、コスモスは首をゆらりと伸ばす。

空にヒビが入るような花火の音が、間近で響く。
驚いた花びらはピクンと首を持ち上げる。

滑り落ちないようにしがみついていた水滴は、
いつの間にか苔むしてしまった。

空に弓を放つように伸びていた蔓も、
ここ数日の冷え込みで勢いが鈍りぎみ。

「東郷公民館の方が騒がしいげんと、何があるんだが?」
「かぼちゃのコンテストあるったんねがよ」
道ばたにはみ出して、ダリアたちが囁き合う。

「いづなたら道路ば渡んのや?」
「安心安全て分がてがらだがら我慢すろ」
「あんまりじっとしてっから体さび付いてしまたじゃあ」
標識の兄弟は、学帽の時代からじっと安全を待っている。

「背負う物が多いど大変だずねぇ」
トタンは体を波打たせて、現実から逃げずに耐えている。

グランドから湧いてくる子供たちの歓声に、
身をまかせながら揺れるコスモス。

「山形のサッカー熱はすごいずね」
「こだい寒ぐなてきても?」
ゴール裏で噂し合うコスモスは、寒さに体を縮こませる。

昨日月山初冠雪、今日鳥海山初冠雪。
山形の空に寒気を呼び寄せたのはコスモスか。

「人様には嫌わっでんげんと、おらだも生活がかがてんのよ」
蜘蛛はトリトマの花に、愚痴とも付かぬつぶやきを漏らす。

一直線に伸びた道路の両脇に並んで、コスモスたちは歓迎の手を振る。

「空気が冷たぐなてきたら、おらだの季節だべぇ」
溢れかえる精気を道ばたへ振りまき続けるコスモス。

おばけカボチャ見たさに、車は数珠つなぎ。

「もっとほっちだべ」
「んねべ、もっとそっちだべ」
実りすぎたかぼちゃに翻弄される。

ぶずでっかいかぼちゃに、人々は開いた口がふさがらない。ではなく、思わず笑みがこぼれる。

「押しても叩いでも乗っても何にもやねぇ」
かぼちゃは自分の体が重すぎて、言葉を発する気力もないか。

縁日と化した会場は、
腹ごしらえ前の子供たちが、ヨーヨー釣りに余念がない。

「やったー200キロ越えだ−!」
ダイエットがもてはやされる世の中で、重くても喜ばれるかぼちゃの心境は?

「ほろがすなよ」
「かぼちゃは逃げだりすねべぇ」

「もったいない、もったいない、紙吹雪もったいない」
かぼちゃを見るのも忘れ、紙吹雪を拾い集める小さな手。

「あー、いい笑顔だなぁ。そのまま、そのままぁ」
遊具と化したかぼちゃの前で子供たちの撮影会が繰り広げられ、どっちが主役なんだが分からないとかぼちゃはぼやく。

「かえずは、おまけしてけっかぁ」
無情に外れる輪投げに、子供たちは熱くなってブーイング。

子供たちの輪投げ会場で、
ござの影にひっそり隠れるビールは、居心地が悪そう。

「あんまりおがて身動きとらんねはぁ」
「子供だが寄ってきてけっから、いいのっだなぁ」
かぼちゃは重すぎる身の上に降りかかったことを、良い方へ解釈する。

「ふたっつしか乗らねんだじぇ」
話はいいがら早ぐ降ろしてけろとトラックが懇願する。

「ホフーホフー、熱くて食んねげんと食う〜」
なんと無料で大盤振る舞いの、かぼちゃ豚汁。
口の中がやけどしそうなくらい熱かったが、
理屈抜きに旨かった。

「かぼちゃの重量当てクイズなのに、乗っかってもわがんねべぇ」
「クイズはおもしゃそうだげんと、そのまえに腹ごしらえさんなね」
冷たい大気の中、あちこちで湯気が立ち上る。

超満員の会場は芋の子を洗うような混雑。
青テントの上を寒気が流れ、テントの下ではかぼちゃ豚汁の湯気と計量大会の熱気が充満する。

かぼちゃ見たさに次々訪れる車。
東郷地区はかぼちゃ景気に湧く一日となった。

子供たちの軽やかな手さばきで太鼓に命が吹き込まれる。
太鼓は気力を漲らせ、軽快なリズムを会場に溢れさせる。

「指の先ばよっく見でぇ」
目を輝かせながら指揮をとり体もだんだんスイングしてくる。勿論、冷たい地面のことなんか頭の隅にもない。

旨いかぼちゃ豚汁を堪能し、満足しながら帰宅して写真を編集し、ふと月山の冠雪が気になって窓を開ける。
夕焼けの中へなだらかに体を横たえる月山は、やっぱり頭にうっすらと白い物が被さっていた。冬近し。

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