◆[天童市]石倉・貫津・格知学舎 初霜初氷来訪(2008平成20年11月2日撮影)


ガードレールに囲われた大木は、盆地に囲われた朝靄の残る石倉の村を黙って見下ろしている。

今日は初霜・初氷。
石倉の村にも冬の足音が近づいている。

「ほだんどごさ逃げ込むごどないべず」
カメラを向けたら、小さな自転車は植木の影に急いで隠れる。

「11月だもはぁ、そろそろ芋煮会も終わりだべはぁ」
肺の底まで息を吸い込みながら、真っ赤な花びらは秋の終わりを感じ取る。

「今年もよぐ稼しぇいだなぁ」
赤茶けた葉を通りに投げ出して、一夏を回顧する。

「こだんどごさポツンと置がれっど不安でわがらねぇ」
「心配すんな、俺が守てけっから」
タワシの周りを黒いタイヤが包み込む。

滅多に人の通らない小道は、枯れ葉がカラカラと転がってゆく道。

「木モサモサだがっす?」
「んだがらモサモサてらんねのよ。冬来んもはぁ」

北風が気まぐれに手をさしのべて、赤い実をつるんと撫でて去ってゆく。

「そろそろ俺の出番のはずなんだげんとなぁ」
灯油のポンプは寝そべりながらも気持ちだけは高ぶっている。

「こちょぐったくてわがらね」
エノコログサに喉元をくすぐられ、ポストはじっと笑いをこらえる。

「蜘蛛の巣さ引っかがんのは枯れ葉だげがぁ」
蜘蛛の嘆きに、枯れ葉は答えようもない。

赤いインクの中へ指先がちょいと触れただけで、じわーっと染みこんでいく赤い色。
手のひら全体へ赤い色が染み渡ったときは冬の中。

「目の前で騒ぐなずぅ。天童市街が見えねどれ」
エノコログサは体が冷えないように、時折風に煽られ激しく踊り出す。

ぷっくり膨らんで、空中からおびただしい数の杉の雄花が垂れ下がる。

「取り立でなんねがら、おまえだはそのまんまぶら下がてろはぁ」
赤い篭に突き放され、雪を被った自分の姿を思い描き、途方に暮れる柿の実たち。

「年中漬け物ば漬けでるんだも、
たまにはおらだが浸かてもいいべぇ」
大口を開け太い息を吐く樽。

「リンゴど柿ど菊ば一袋ずづけでけらっしゃい」
「ありがどさまぁ、全部で550円だっす」
「ほっだい安いのぉ、スーパーの半分だどれぇ」
天童では秋の味覚を大盤振る舞い。

地面のどこからこんな色が出てくるのか不思議。
あまりのピンクに目を見張るマユミの実。

「マユミの木で昔は弓ば造ったんだっけど」
「塀の中なの覗いでいねで早ぐいぐべはぁ」

役目を終えた植木鉢。
枯れ草に埋もれて雪を待つ。

「この頃の農業は、生産者の顔が見えるていうのがモットーだべ」
「柿もいっだのんねくて、木の剪定しったんだぁ」
顔の見えない位置から声だけが漏れ落ちてくる。

「必死でたづいっだのよ」
柿の実が頼れるのは、か細い枝一本。

「冬は長いがら、すこたま準備さんなねのっだなぁ」
犬はすたこら立ち去るのに、喉がゴクリとなってなかなか立ち去りがたい。

「あの付け根んどごが、まだんまいのよぉ」
触ってみようと手を伸ばし我慢する。

ごりごりとした白い筋肉のようだが、
中はさぞや瑞々しいことだろう。

貫津の村に広がる、秋の草花と初冬の野菜。

雲間からちょっと太陽が顔を出しただけで、一気に騒ぎ出すガマズミの実。

「まだ紅葉にはちぇっと早いもなぁ」
コスモスの連なる小道を、ばあちゃんはゆっくりと歩き去る。

紅葉の名所「格知学舎」
まだ青みが優勢な紅葉も、ここ数日で真っ赤に燃え上がる。

数十本のタカオカエデが真っ赤になって学舎を包み込むらしい。
これじゃカメラマンが血相を変えて訪れるのも無理はない。

チリトリに手袋。
季節を感じるのは紅葉だけじゃない。冬近し。

「早ぐあがらっしゃい」の言葉で学舎にあがりこんでしまった。
今で言う私立学校っだなぁという言葉も、説明を聞き腑に落ちる。

懇切丁寧で、しかも自信に満ちた説明に耳を傾け、
改めて山形の奥深さを知る。

冷たく湿気を帯びた空気を肌に感じながら、苔むした庭園に足を踏み入れる。
花びらの紫の斑に指を近づけ、ぱくっといかれるんじゃないかと不安になり手を引っ込める。

暗い会場の緞帳が上がり、突然ステージをライトが煌々と照らし出したように日差しが入り込む。
紅葉はここぞとばかりに、身を震わせて光を纏(まと)う。

露に濡れた落ち葉は、黒いシミの浮き出た体で格知学舎をぼんやり眺める。
北風に押され、苔の中へ突っ伏してしまうまでのわずかな時間。

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