◆[上山市]中山 立冬に風吹き抜ける(2008平成20年11月8日撮影)


羽前中山のホームに立つ。髪の毛をグシャグシャに攪乱して、疾風のごとく新幹線が走り去る。

誰もいないホームの上では、森のざわめきと国道13号の絶え間なくわき起こる騒音がせめぎ合う。

コンビニは無いが、光だけは溢れるほど充満する、踏切の向こう。

「風強くて、帽子吹飛ばさっでしまうみだいだぁ」
「秋ば追い立でるみだいして風吹ぐもねぇ」
立冬になり、おがる野菜に追い立てられるように一輪車を押していく。

「ちぇっとした坂も、休み休み登らんなねぇ」
「ほだっぱい無理だがら、休み休み食んなねぇ」
押すのを手伝いもせず、舌なめずりするようにシャッターを押す。

細い坂道を、風は国道13号へ駆け抜けるように吹き抜ける。

「風さえ無いど、天気いいくて気持ちいいんだげんとねぇ」
両足をキチンと揃える長靴の姿は、見ているだけで気持ちいい。

大空を舞う風は、時折地面近くに降りてきて花びらにちょっかいを出す。
どこかへ連れてって欲しいと、体ごと揺れて願うのに、風はヒュルヒュル音を立てて去ってゆく。

紅の粉をまき散らしたように、中山の村を染め上げる晩秋。

黒々とした腹の底を見せず、
吹いてくる風に微かにさざ波を立てる漬け物樽。

「体細いがら、寒さは苦手なのよ〜。
洗濯ばさみからもくつがっで、ほんてん痛し寒しだぁ」

「風邪でも引いだのがぁ」
「風強くてもっくらがえただげだぁ」
「おらだじゃ助けらんねがら、歌でも歌て気合いへっでけっかぁ」
もがく一輪車の前で、草花は体を揺すって歌い始める。

赤く盛り上がる山の麓に、歴史ある中山の村が連なる。

「ちょっと傾いっだんねがっす?」
「おだぐが生まれるずっと前から立ってんのだぁ」
歴史の底から呟きが漏れてくる。

「ほだいして寒いどご、はんばがてっど痔になっべぇ」
「おらだは、はんばがんのが仕事なんだず」
股の下をビュービューと北風が抜けてゆく。

流れの速い雲に気づいてもらえるように、右に左に赤い手のひらを激しく振り続ける。

「おだぐツヤツヤだずねぇ」
「おだぐこそプルプルだどれぇ」
白い肌コンテストを楽屋裏で待つ肌自慢たちは、日差しを受けて益々肌に磨きをかける。

「力んでぶら下がたら、赤いの取んねぐなたはぁ」
「ぶら下がる前から赤いべ」
「ほだな赤の他人みだいなごどやねでぇ」

「飛びだして、飛び抜げでんまいダシのごどだが?」
「んっまいダシは食べ過ぎに注意すろてがぁ」
まもなく来る冬にあせりながら、コスモスは冗談を言い合う。

北風が強くこするものだから、益々磨きがかかりツヤツヤ度が増してくる柿。

「山あっだい赤ぐなて興奮して盛り上がったげんともよ、もうちょっとすっど真っ白ぐなるんだじゃぁ」
「おらだもこのまま雪かぶっか、地面さ還っか考えらんなねべず」
風に揺れながら柿の実は、身の振り方を考える。

「なんぼ年しょても、気持ちは仮免のまんまよぉ」
何十回も柿の実が成るのを見守ってきた蔵は、新人の気持ちで老いてゆく。

一度坂道を転がりだしたら止まらない。
追いかけてくる冬から逃げるように、細道を転がって去りゆく秋。

「寒いどご大変だねっす」
「寒い外さいねど、暖かい家のありがたみがわがんのっだず」

「買〜うぅ!」
あいさつは大きな声で、看板は大きな文字で。

「ほごの電信柱じゃまだずぅ。立ってるだげだごんたらどげでろ」
「立ってんのが仕事なんだず」
土蔵と電信柱のいがみ合いに挟まれ、コスモスはどっちつかずに揺れ続ける。

「この頃はニュースも道路の看板も謝罪だらけだずねぇ」
本心はどうあれ、まず謝るというのが日本の文化。

晩秋の空に轟音を舞い上げながら、何かに追い立てられるように国道13号を車が間断なく行き過ぎる。

こんもりとした丘の上に立つ白髭神社から、中山の街並みを眺める。
丘の上の神社から垂れ下がるのは、白髭ならぬ白い幾本もの消防用ホースだった。

銀色の針になった新幹線つばさは、赤や黄色に波打った野山を一直線に縫っていく。

山形人に食べ尽くされる前に、晩秋の日差しを食べ尽くす。

押しボタン信号を押し、国道の車を止めて細道へ入る。
あっという間に車は数珠つなぎになる。
北風は制止も聞かず細道を駆け抜ける。

「寒い〜」
「誰が座てけっど暖かいんだげんともなぁ」
身を寄せ合う羽前中山駅のベンチたち。

電信柱は、こすれる北風にビューと鳴く。
葉っぱの落ちた柿の木は、寒い寒いと身をコキコキに堅くする。

秋と冬の狭間にある羽前中山駅へ電車が滑り込んでくる。
開いた窓の中へ北風が無賃乗車でそそくさと入り込み、やがて何事もなかったように電車は山形へ向かって発車した。

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