◆[山形市]江俣五・西江俣・陣馬一 首すくむ寒風(2008平成20年11月22日撮影)


先陣を切って降った雪はすっかり勢いを無くし、駐車場の隅っこに追いやられる。
気まぐれな太陽は顔を出したかと思えば、すぐに隠れて町をどよんと沈ませる。
風に吹かれるがままの幟旗は寒風干しにされ、ハタハタと嘆き節を繰り返す。

「はやぐケーズ」
「やんねったてクーズ」
食事時の会話を思い浮かべる、原色の大型電機屋さん。

「早ぐ切り上げで、キューッと一杯」
「寒い時は特にねぇ」
幟旗の挑発に負けそうになる。

「最初はあだい元気に立って威勢いいっけのにねぇ」
冷たい地面に突っ伏した様は、まさに看板倒れ。

畑の中で、なんでも食べようと口を開け続けるドラム缶。
旺盛な食欲に開いた口がふさがらない。

溶けた雪は鏡になって、あの空へ還りたいと青空を映し続ける。

車の巻き上げる風に吹き飛ばされながらも、枯れ葉たちはやっとの思いで芝生にすがりつく。

体をキューッと縮こまらせた葉っぱは、車が通りすぎた瞬間に視界から消えた。
車の舞い上げた風は、遠慮会釈無しに吹き抜けた。

「タタタタッ、キーン、カランコロン」
金属音がコンクリートの上で跳ね返る。

燃え上がった葉っぱたちも去る時を知り、
一枚二枚と枝を離れてゆく。

夏と違って低い位置から太陽が照らすものだから、
壁面の影もビローンと間延びする。

「ほだっぱい積んで、ひっくり返んなよ」
荷台からこぼれ落ちそうな野菜は、冬の日差しに後押しされる。

眩しい日差しを浴びながら、
まだ土の付いた大きな体は、自転車の揺れに身を任せる。

「今日だらだいなしだぁ。日差したがど思うど雨降っべすよー」
猫の目天気に翻弄される。

「夏タイヤ走行不可だべげんと、自転車も坂きつくて走行不可だま」
左沢線をまたぐ西バイパス跨線橋。

「なえだずまずぅ。早くて年末商戦なんだべがぁ」
塀から身を乗り出す花びらへ目もくれず、嶋地区へ向かう車がビュンビュン通り過ぎる。

右は嶋地区へ伸びる西バイパス。左は寒河江へ向かう112号。
人生の分岐点に着いたら、一端立ち止まってじっくり先のことを考えたいが、ここではそうもいかないか。

騒々しい国道を離れ、旧道に入ってみる。
入り込んでくる車の音も、小路に深く入り込むほど弱まり、やがて生活の息吹にかき消される。

「おがるばりおがて、しゃますさんなね」
青々とした野菜がこちらをじっと見つめているのは気のせいか。

今だけの特別な黄色い絨毯が敷き詰められたフェンスの向こう。

「篭から白菜ばこぼしてらんねし、そっと漕がんなねな」
濡れた路面を過ぎる音がニチャニチャと遠ざかる。

ぴったりひっついて剥がれない濡れ落ち葉。
力尽きて色あせてゆく。

「J1決まりだびゃあ」
「世の中さ絶対て無いがら」
境内の木はガッシと大地を掴みながら会話に耳を立てている。

ハラリと舞い落ちる葉をみて、ホロリとしたのは自分の心。
あんなに豊かだった髪の毛が懐かしい。

境内はびっしり黄色で埋め尽くされた。
きっと明日はモンテブルーでNDスタジアムが埋め尽くされるだろう。

「明日NDスタジアムさ行がねごんたら鼻垂れだべず」
「あー、寒くて鼻水垂れできたー」
子供たちの会話を聞き、明日山形の歴史が動くだろうことを知る銀杏。

水滴を振り払う気持ちも萎えた。
色あせた木肌に突っ伏して、銀杏は考えることを停止する。

静まりかえる境内。
時折車の音が入り込んではそそくさと消え、差し込む日差しもスーッと撫でるだけで去ってゆく。

鉄棒の下にうずくまっていた葉っぱたちは、日差しを迎え入れ喜び沸き立つ。

今、テレビではフィギュアスケートが真っ盛り。
「トリプルサルコてなんだ?」
「猿子が三匹でトリプルエテコだべ」
この会話は見ざる言わざる聞かざる。
視線を落ち着いた佇まいの街並みへ移すことにする。

上を見る気力もなく、落ちることだけを考え垂れ下がる葉っぱ。
遠くから流れ込んでくる車の騒音も耳に入らない。

「随分とすっぱげできたんねが?」
消火栓へ笑いながらちょっかいを出す花びら。
色は褪せても気持ちは褪せないと、反駁して横を向く消火栓。

「くたびっで掃ぎだでなんねはぁ」
次から次へと押し寄せる枯れ葉に、箒は仕事を放棄する。

「これぐらいの葉っぱなの掃ぐのじょさねべぇ」
「葉っぱば掃ぐのは俺の役目んねもー」
二台のスノーダンプは、真っ赤な紅葉に怖じ気づく。

「赤い絨毯は誰が踏むものだど思てんのや」
落ち葉はツンツンと触角を立て車体を威嚇する。

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