二〇一一年度からの消費税率引き上げを、近く閣議決定する税制改正法案の付則に書き込む政府方針をめぐって、自民党内で対立が激化している。
一一年度からの消費増税の方針を主導してきたのは麻生太郎首相だ。政府は昨年末、経済状況の好転を前提に、「消費税を含む税制抜本改革を一一年度より実施できるよう、必要な法制上の措置をあらかじめ講じ、一〇年代半ばまでに段階的に行う」とした税制の「中期プログラム」を閣議決定した。これを受け、改革の道筋を付則に盛り込む方針だ。
これに対し、首相の足元の自民党内から中川秀直元幹事長らを中心に反対論が噴出している。法制化されれば、総選挙を前に増税が既定路線になることへの危機感があるのだろう。
付則の文言修正などをめぐって駆け引きが激化しそうだが、増税問題がいつの間にか一人歩きしている印象はぬぐえない。
確かに、日本の財政状況は極めて深刻だ。内閣府の試算によると、消費税を一一年度から1%ずつ上げ一五年度に10%にしたと想定しても、一五年度には五兆円の赤字が残るという。
しかし、まず増税ありきでは国民の納得は得られないのではないか。なぜ消費税を上げなければならないのか、何のための増税なのか、議論が尽くされているとは思えない。
麻生首相は十九日の参院予算委員会で「一一年までに景気をきちんと立て直し、財政の無駄(の排除)や行政改革を実行した上で『中福祉・中負担』にする。しゃにむに消費税だけ上げるというのではない」と答弁した。増税の前にまずやるべきは、特別会計を含めた無駄な歳出の洗い直し、徹底した行財政改革だ。
年金や医療、介護など高齢化で歳出が膨らむ社会保障制度に対する国民の将来不安は根強い。しかし、持続可能なあるべき姿を示す改革論議はまだ道半ばの状況だ。中期プログラムは消費税について、税収をすべて社会保障に使う目的税化を打ち出しているが、税制全体の中で社会保障制度をどう見直していくのか、中身の論議を深めていくのが先決だろう。
民主党は昨年末の税制調査会で、消費税の引き上げについて将来の検討課題とし、引き上げる場合は「引き上げ幅を明らかにし総選挙で国民の審判を受け具体化する」とした。国会の場で与野党が社会保障制度や財源のあり方を議論することも必要ではないか。
パレスチナ自治区のガザを支配するイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルが停戦に入り、ガザをめぐる武力紛争は新たな局面を迎えた。
昨年十二月末にイスラエルがガザへの大規模攻撃を開始して以降、パレスチナ人の死者は民間人を含め千三百人を超えたといわれる。さらなる被害を防ぐために停戦を歓迎したい。
ただ、戦闘停止が持続するかどうかは予断を許さない。今回の停戦は双方が正式な交渉を経て合意したものではなく、互いに一方的な勝利宣言をして戦いをやめた。大規模攻撃前からの対立点である境界封鎖問題は未解決のままで、大きな火種として残っている。
ガザ地区と外部との境界を管理するイスラエルは、ハマスのガザ武力制圧に対する事実上の制裁措置として、医薬品などを除く物流を規制している。ハマスはイスラエルへのロケット弾攻撃で対抗し、今度のイスラエル軍による大規模攻撃につながった経緯がある。
ハマスは停戦を発表した際、境界封鎖の解除などを要求した。イスラエル側は境界封鎖で妥協の姿勢は見せない。衝突再燃が懸念される。
長く敵対してきた双方が歩み寄ることは容易ではあるまい。しかし、国際的な介入ができる余地は生まれた。今の戦闘停止を本格的な停戦に結び付ける大きなチャンスである。
まずは国連が中心になり、停戦監視機能を早急に整えてもらいたい。同時にハマスとイスラエルが交渉のテーブルに着く対話の枠組みが必要だ。
国際社会の後押しが欠かせないが、特にイスラエルと関係が深い米国に期待がかかる。歴代で最も親イスラエルとされたブッシュ政権に代わるオバマ政権の力量が問われる。
(2009年1月21日掲載)