「アニメから見る時代の欲望」

アニメから見る時代の欲望

2008年12月25日

「正義」への欲望が「匿名の正論」を暴走させる

水島精二監督「機動戦士ガンダム00」(1)

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 頭の中で望んだことを描き動かすもの。それがアニメーション。視聴者の欲望をいかに捉えるかを、常に考えているテレビアニメの監督たちに、時代の欲望を見通してもらう連載企画「アニメから見る時代の欲望」。今シリーズは「機動戦士ガンダム00(ダブルオー)」の水島精二監督にお話をうかがう。

●作品紹介●

西暦2312年。4年前の最終決戦で生き延びた刹那・F・セイエイは、ソレスタルビーイングによって変革を促された世界の行く末を見つめていた。監視者、アレハンドロ・コーナーを倒し、争いのない平和な世界になることを夢見て。しかし、彼が目の当たりにしたものは『アロウズ』によって作られた弾圧という名の平和、歪み続ける現実であった。彼は再び戦う決意をする。世界を変革出来うる力、ガンダムと共に。

【上記は「機動戦士ガンダム00」公式サイトより引用、編集。リンクはhttp://www.gundam00.net/

―― 水島精二監督が手がけている「機動戦士ガンダム00」(以下「ダブルオー」)は、アニメ作品の金字塔とも言える「機動戦士ガンダム」に連なるシリーズですね。「ガンダム」と言えば、10代から30代を中心に、50代までのファンを抱えるビックネームコンテンツです。

 一つの産業を代表するような商品、トヨタで言えば“次世代のクラウン”の開発を任されたようなもので、栄えある抜擢と言えますね。ガンダムの監督として指名されたときのお気持ちはいかがでしたか。

「機動戦士ガンダム00」 水島精二監督

水島 精二(みずしま・せいじ)
東京都府中市出身、1966年1月28日生まれ。東京デザイナー学院卒。撮影、制作進行を経てアニメ演出家。『機動戦士ガンダムOO』のほか『ジェネレイターガウル』『鋼の錬金術師』『大江戸ロケット』などで監督を務めている (写真:星山 善一 以下同)

水島 素直にうれしかったです。特に僕のような40代前半の人間は、第一作目の「機動戦士ガンダム」を見て育っている世代ですので。僕はそれほどガンダムシリーズに詳しいわけじゃないんですが、アニメの業界に入ったからには一度はガンダムに関わってみたいと思っていましたから。そういう人は多いと思います。

 ……でも今、実際に「では、あなたがやって下さい」と言われたら、躊躇する人は多いんじゃないかとも考えるんですよ。僕の所に話が来たのも、ほかに引き受ける人がいなかったからかもしれない、と。

 今、ガンダムシリーズを担当するということは、名誉なことでもある一方で、反面、火中の栗を拾いにいくようなところもあると思うんです。

―― 火中の栗? どういうことなのでしょう。

ガンダムを“作る”ことは、作り手には「リスク」が大きい

 今、ガンダムを作ることは、作り手にとって「リスク」が大きいんです。「ここまでメジャーになったタイトルは、それ故に、自分の自由には作れないだろう」というふうに、作り手側を身構えさせるところがあるのだろうなと。

 これだけ大きな作品になると、ステークホルダーが多いですから、様々な会社の意向が入るし、その中で取捨選択を迫られる。元からガンダムが好きで、思い入れが強い人ほどやりづらいと思います。監督を任されても“俺のガンダム”が作れるわけではない。自分が描いてみたかったガンダムが、視聴者や会社が求めているものと違う言われ、ギャップを感じるのも、ガンダム好きとしては辛いところだと思います。僕などはガンダムにそこまでの思い入れががなかったので、かえってよかったのかもしれません。

―― ガンダムファンからのプレッシャーを感じますか。

 今のガンダムの作り手は、お客さんに「ガンダムはそうじゃないんだよ、今作のガンダムはダメだ」というのをずっと言われ続けるわけです。

―― なるほど。先ほどの“次世代のクラウン”というたとえ話で言えば、クルマの世界でも、看板車種のビッグネームの跡継ぎゆえに、モデルチェンジは難しいでしょうからね。前のモデルと全く違うじゃないか、前のほうがよかったと、新型モデルを出す度に、以前からのお客様からはおしかりを受ける、ということですね。

「売れているもの」には脊髄反射的なアンチがいる

 それだけ作品が大きくて、寄せられる期待が高いということなんでしょうけどね。

 批判でも、種類があると思うんです。それこそ“クラウンへの期待”みたいな、「もっとこうして欲しい」という声ならばむしろ積極的に聞きたいのですが、一番最初に僕ら制作スタッフに聞こえてくる声はそうじゃないですね。

 「何だあれ」とか、「かっこ悪い」とか、“脊髄反射”みたいな反応なんです。

―― 脊髄反射だなと思うのは、どんなところですか

 なんと言いますか、作品を見て批判をしているわけではないんです。フィルムを観て物語を追おうとしているのではなく、絵だけを追って、見た目だけで批判をしてくるのですね。

 特に今、ネットで評判が広がるのがすごく速いでしょう。叩くにしても褒めるにしても「こう言えばいいんだ」というポイントが提示されると、あっという間に広がっていく。

 叩きたい人たちは、最初から「嫌い」というベクトルを持って入ってきて、ネットの中で自分と同調できる「嫌い」ポイントを探して、“叩きの流れ”に乗っかっててくるから、もう仕方がないんです。

―― ネットの評判は意識しますか。

 そうですね。意識している作り手の人は多いでしょうし、そういう意味では、ネットの“叩き”が作る側のモチベーションを下げているのは間違いないと思います。

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著者プロフィール

渡辺由美子(わたなべ ゆみこ)

1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメ・コミックをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。男性と女性の意識の差を取材した記事も多い。著書に「結婚ってどうよ!?」(岡田斗司夫氏との共著)ほか。


このコラムについて

アニメから見る時代の欲望

アニメーションは、頭の中で望んだことを描き動かすもの。作り手の嗜好を忠実に映像化することができる。そして作り手は、視聴者の欲望をいかに捉えるかに常に腐心している。アニメにこそ、時代の欲望が見えるのではないか? そんな仮説を手に、日々アニメ制作に臨む監督たちにインタビューを申し込んでみた。

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