「アニメから見る時代の欲望」

アニメから見る時代の欲望

2009年1月22日

ショートカット志向にどう立ち向かう?

水島精二監督「機動戦士ガンダム00」(3)

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―― 今の時代に優勢なのは「手間をショートカットする欲望」だけれども、本当は「面倒」を引き受けると、作品や組織が豊かに育つと。そのようなお話をうかがいました。

 「ショートカットの欲望」を抑え、回り道や手間を惜しまないことが、いい成果や、あるいは感動をよりおいしく味わうことにつながる、と。けれども、日々仕事をしていると、やはりショートカットのほうがいいじゃないか、と思うことがありますよね。特に結果へのプレッシャーが厳しかったり、忙しい、人手がないなど、時間や人材のリソースがない状況ですと。

 楽な方向へ行きたいという欲望は人間の不変のものでもあり、手間のショートカットや効率化は、そうして進んだという社会的側面があります。正しいと思っても、自ら進んで非効率の波をかぶって人と折衝したりすることは難しいと思いますが……。ご自身でも、そう思うときはあると認めていらっしゃいますよね。どのように立ち向かうのでしょう。

「機動戦士ガンダム00」 水島精二監督

水島 精二(みずしま・せいじ)
東京都府中市出身、1966年1月28日生まれ。東京デザイナー学院卒。撮影、制作進行を経てアニメ演出家。『機動戦士ガンダムOO』のほか『ジェネレイターガウル』『鋼の錬金術師』『大江戸ロケット』などで監督を務めている(写真:星山 善一 以下同)

水島 きっと、「面倒」を「最後まで苦痛に耐えること」だと思うと、できないのでしょうね。

 努力というのは、「努力だ」と思ってすることなのか、という思いもあるんです。

―― どういうことでしょう。

 自分が将来何かになりたいとか、こんなことができるようになりたいと思ったときにする行動は、実は当人は、案外「努力」だと思っていないのではないでしょうか。

 逆に、自分のためにすることを「努力だ」と公言している人に限って、どうも「今俺はこんなに努力しているんだ」というところだけで満足してしまって、最終的には結果が出せない、そんなケースが多い気がするんです。

―― 辛いことに耐えているだけでは、続かないということですか。

 そうですね。これも面倒を引き受ける話と同様に、最後には感動が待っているから続けられるんですよ。ほら、物語のセオリー的にもありますよね。主人公にとって辛いことがあって、その反動があるから、ラストには彼にとって豊かに思えることがぐっと輝いて見えるという。辛いことがないと感動もないんです。

―― 日々の辛いことに耐えられるのは、到達するべきビジョンがあり、そこに感動が待っているということを信じられるからだと。

 努力は辛いときもあります。辛いのは当たり前なんです、何かを成そうとしているわけだから。それは当然辛いでしょうと。

 だから、努力を努力と思ってしまっているうちはだめなんですよ、楽しめなきゃいけない。

 よく現場で若い人にも言います。「辛い辛いと言ってやったら、面白いものなんてできないよ。辛いことを楽しむのが、自分たちにとってプラスになるんじゃないの」、と。

 ストレスがかかっているな、辛いなと思っても、この先にはきっといいことがある、自分はそのために今頑張っているんだから、過程も楽しまないと、ということは若い子にも言いますし、自分自身もそういう考え方で来ているんですね。

 だって、辛いと思って仕事をするのは嫌じゃないですか。自分がなりたいものや、やりたいことがあってその仕事をしているのだから、そのために必要な過程があるなら、もう頑張るしかないですよね。

若い子に、やりたいことを聞くのも経験者の務め

―― 若い人の気分として、将来就きたい仕事が浮かばない、自分のやりたいことを仕事で実現するのは無理だ、という空気が広がっています。

 何で自分はこんな仕事をやらなくてはいけないのだろうと不満を持っていたり、仕事先に対して怒っていたりと、そういう若い人の話も耳にしますが。

 わかります。そういう人は、早く自分のやりたいことを見つければいいのにな、とは思います。

 でも、仕事の不満を持っていても辞めないんですよね。ということは、言葉にはできていないけれど「何かがある」からじゃないのかなと僕は思います。

 やることが全く浮かばない、やる気がない子というのは、世間で言われているほどたくさんいるのかなと。

 よくある“大人の言い分”みたいな、若者に対してだめだと決め付けてしまう風潮もどうかなと、僕なんかは思いますね。

―― 監督は、アニメ制作を通して直に若い人と接することが多そうですね。

 普通の大人よりは多いと思います。僕の場合は、若い子と接する機会があれば、できるだけ声をかけて、どんなことをやりたいの? と聞くようにしています。

 「映像演出をやりたい」と言う子がいれば、演出家になるために、今何をしてる? 演出というものを漠然と捉えてない? と突っ込んでみたり。

 自分の中にやりたいことがあっても、思いが言葉にならない子もいて、こちらが促してあげることで出てくるんです。

―― 目的を持っているのに、外に出る形で表現できない子もいるということですね。そしてそれは、“かつての経験者”が言葉に出せるように促してあげることに意味があると。

 目的がないと言う子には、「あなたは何をやっているときが一番楽しい?」と聞いてみたりします。仕事なんかよりゲームをやっていたいと思っている子なら、「ゲームをやるためにはお金が必要だから、稼ぐことを考えたら?」とか、仕事自体に目的はなくても、そういう言い方はできるんじゃないかなと思います。

 辛いことの後には感動が待っているという、それを理想論として振りかざすんじゃなくて、「目的を持って続ける努力は、必ず実になるものだ」ということを若い人が“信じられる”ようにすることも、経験者の務めじゃないかと。


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著者プロフィール

渡辺由美子(わたなべ ゆみこ)

1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメ・コミックをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。男性と女性の意識の差を取材した記事も多い。著書に「結婚ってどうよ!?」(岡田斗司夫氏との共著)ほか。


このコラムについて

アニメから見る時代の欲望

アニメーションは、頭の中で望んだことを描き動かすもの。作り手の嗜好を忠実に映像化することができる。そして作り手は、視聴者の欲望をいかに捉えるかに常に腐心している。アニメにこそ、時代の欲望が見えるのではないか? そんな仮説を手に、日々アニメ制作に臨む監督たちにインタビューを申し込んでみた。

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