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2009年1月19日

#7「”山谷”を駆ける女性看護師 〜密着!“限界集落”の天使たち〜」 編集後記


右:木村ディレクター

 ドキュメンタリー番組を制作するにあたっては、撮影を開始する前に取材対象(協力者)との関係作りがなによりも必要です。諸先輩のお話では、「カメラマンと現場に連日行きながらも一週間撮影せず・・・」なんて話は聞いていました。でも、それは予算が潤沢なバブル以前のお話、今はそんな贅沢な事は言えません。今回は、山谷のおじさま方に1〜2週間かけて、撮影の許可をもらう時間に費やしました。彼らは様々な、人には言えない時間を過ごして、山谷に辿り着いた人々です。「お話はOKだけど、カメラはNG。俺は警察に追われている身だから・・・」なんて笑えない話も!?

 多くの方に取材のお願いをしながらも快諾して下さった方は一握りでした。それでも、とにかく始めなくては・・・と撮影は開始されました。昨日まで取材OKの方が翌日にはNG。そんなこともありましたが、病気を背負って暮らしている人ならそれも当然のこと。しかし、このままで一体何が撮れるのかと、半ばノイローゼになりながら、撮影にない日にも、山谷の街角に立ち、何かを求めてフラフラとしていました、その姿はかなり異様だったのか、すれ違うおじさんが「何を悩んでいるのかな!?昔の女のことなら忘れろ〜!」と見当違いな励ましを送ってもくれました。

 撮影も中盤に差し掛かり、病態の急変した取材者(松五郎さん)にカメラを向けることになりました。彼からは事前に取材を了承して頂き、彼を助けるスタッフの方々にも同様にOKの声を頂いてはいました。しかし、そのスタッフの方の中には「このように苦しい状況の彼を撮影するのはどんなものか!?」という方も出てきました。正直悩みました。これまで関係作りを優先し、その信頼と言う土台の上で僕たちは撮影させてもらっているのです。

 周囲の否定的な声も耳に入りながらも、取材対象者との信頼関係をもとに、人の最期を如何に見つめるかは自分にとっても、かなりしんどい宿題でした。ただ、その声を鵜呑みにし、撮影しないのは私たちの役割ではありません。私たちはいくら取材者と仲良くなっても、当事者にはなれない、客観視する(しなくてはいけない)「撮影者」でしかないのだと言い聞かせました。そんな制限ある中で、カメラマンを始めスタッフ全員が見つめた結果が今回の番組にあります。

(ドキュメンタリージャパン 木村直人)