○文化審議会著作権分科会報告書
平成16年1月 文化審議会著作権分科会




目次

はじめに

第1章 法制問題小委員会
I. 検討の内容
II. 検討の結果
1 関係者間の合意が形成された事項
2 著作権法制全般に関する事項
3 個別の権利の在り方に関する事項
4 各省庁の著作権法改正要望

第2章 契約・流通小委員会
I. 著作物等の利用許諾契約における利用者の保護
1 検討事項について
2 利用者保護に対する関係者の意見
3 利用者の保護の在り方について
4 利用許諾契約に基づく許諾者の地位の承継について
5 まとめ
II. 著作物等に係る登録制度の在り方
1 プログラムの著作物に係る登録の実施主体について
2 著作権等の登録制度全般について
III. その他
1 著作権等の集中管理事業の在り方について
2 「意思表示システム」の整備・普及について

第3章 国際小委員会
I. 検討事項について
1 平成14年度の検討結果
2 本年度の検討事項
II. 検討の結果
1 著作権関連条約への対応の在り方について
2 海賊版対策の在り方について
3 インターネットを通じた著作権侵害に係る国際裁判管轄及び準拠法の在り方について
4 フォークロアの保護の在り方について

第4章 著作権教育小委員会
I. 検討事項について
1 平成14年度の検討結果
2 本年度の検討事項
II. 検討の結果
1 大学における著作権教育の在り方について
2 地方自治体・社会教育施設等の公的機関等が実施する著作権教育の在り方について
3 企業等における著作権教育の在り方について
III. 文化庁が著作権教育を実施するための重要な視点
1 著作権教育に関する実態を把握し中期的な 目標を策定すること
2 著作権に関する研修の機会を拡大すること
3 学校向け事業を優先的に実施すること
4 著作権教育指導者を養成すること
5 分野等の要望にあった研修用標準カリキュラムを開発すること
6 文化庁と著作権関係団体等との連携・協力を深めること
7 その他配慮が求められる事項

第5章 司法救済制度小委員会
I. 検討の内容について
II. 検討の結果
1 損害賠償制度の見直しについて
2 罰則の強化について
3 司法制度改革推進本部における検討事項について
4 権利侵害行為の見直しについて
5 差止請求制度の見直しについて

おわりに
参考



はじめに

 文化審議会著作権分科会では、「知的財産戦略」として示された政府全体の方針に関する事項等について検討し、平成15年1月に審議経過報告として公表したところである。
 最近の著作権を含む「知的財産権」に関する政策の動きには非常に活発なものがあり、昨年成立した知的財産基本法に基づいて、平成15年3月に「知的財産戦略本部」が設置されて、同本部により7月8日に「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画(知的財産推進計画)」が策定され、「知的財産立国」の実現に向けて具体的な施策が進められている。

 本分科会では、知的な創作活動を重視していこうとする機運がますます高まりつつあることを踏まえて、昨年整理した「法律ルールの整備」、「円滑な流通の促進」、「国際的課題への対応」、「著作権教育の充実」、「司法救済制度の充実」の5つの分野について、引き続き各分野に対応する5つの小委員会を設置し、以下の事項について検討を進めることとした。
(1) 法制問題小委員会
[1] 情報化に対応した著作者等の権利の在り方
[2] 情報化等に対応した権利制限の在り方
(2) 契約・流通小委員会
[1] 著作物等の流通を促進するための方策の在り方
[2] 契約に関する法制の在り方
(3) 国際小委員会
[1] 国際的ルール作りへの参画の在り方
[2] アジア地域との連携の強化及び海賊版対策の在り方
(4) 著作権教育小委員会
[1] 広く社会人を対象とした普及啓発事業の在り方
[2] 児童生徒への教育の充実、教員の指導力向上等のための支援策の在り方
(5) 司法救済制度小委員会
[1] 著作権に関する司法制度の在り方
[2] 裁判外紛争解決手段の在り方

 各小委員会では、昨年の審議経過報告において今後も引き続き検討を進めるものと整理された課題を中心に必要な施策等の検討を行った。
 5つの小委員会の検討結果は、以下の各章に示したとおりである。

第1章 法制問題小委員会

I. 検討の内容

 法制問題小委員会は、「法律ルール」の整備について検討するために設置された。「法律ルール」の整備について、「知的財産基本法」及び「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」には、それぞれ次のような記述がある。

【知的財産基本法】

(新分野における知的財産の保護等)
第十八条(略)
2 国は、インターネットの普及その他社会経済情勢の変化に伴う知的財産の利用方法の多様化に的確に対応した知的財産権の適正な保護が図られるよう、権利の内容の見直し、事業者の技術的保護手段の開発及び利用に対する支援その他必要な施策を講ずるものとする。
(競争促進への配慮)
第十条 知的財産の保護及び活用に関する施策を推進するに当たっては、その公正な利用及び公共の利益の確保に留意するとともに、公正かつ自由な競争の促進が図られるよう配慮するものとする。

【知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画】

<権利者へ利益が還元されるための基盤を整備する>
(権利の付与等により保護を強化する)
ア)書籍に関する貸与権
 レンタルコミック店の新刊市場へ与える影響に鑑み、著作権法附則第4条の2(書籍等の貸与についての経過措置)の廃止について関係者間で協議が進められているが、関係者間協議の結論を得て、2004年度以降必要に応じ著作権法の改正案を国会に提出する。
イ)例外的に無許諾でできる非営利・無料・無報酬の上映の限定
 権利者に対価を還元させることを確保しつつ、映画コンテンツの多様な活用を促進するため、「公衆向けビデオ上映会」等を行える範囲を学校における上映等に限定することについて、2004年度以降著作権法の改正案を国会に提出する。
ウ)私的録音録画補償金制度
 音楽CD複製機能を備えたパソコンや、技術的保護手段を備えたCDなど多様なデジタル録音・録画のための機器・媒体が商品化されている現状を踏まえ、関係者間で、より実態に応じた制度への見直しを目指し協議が進められているが、関係者間協議の結論を得て、2004年度以降必要に応じ同制度の改正を行う。
エ)レコード輸入権
 海賊版対策としても有効である海外企業との正規ライセンス締結を促進するため、音楽CDなどの日本への還流を止める「レコード輸入権」の是非について、関係者間で協議が進められているが、関係者間協議の結論を得て、消費者利益等の観点を含めて総合的に検討を行い、2004年度以降必要に応じ著作権法の改正案を国会に提出する。
オ)著作権等の保護期間
 映画の著作物については、その保護期間を「公表後50年」から「公表後70年」と延長することとしており、映画以外の著作物に係る権利等の保護期間の在り方について関係者間で協議が行われつつあるが、関係者間協議の結論を得て、2004年度以降必要に応じ著作権法の改正案を国会に提出する。
カ)ゲームソフト等の中古品流通の在り方
 ゲームソフトなどが中古業者により広範に取り扱われ、発売後間もない新盤市場に影響を与えていると指摘されていることに鑑み、より良い創作につながる権利者への利益の還元の在り方について関係者間で協議が進められているが、関係者間協議の結論を得て、消費者利益等の観点も含めて検討を行い、2004年度以降必要に応じ所要の措置を講ずる。
キ)出版物に関する「版面権」
 出版社が著作物を公衆伝達している役割に鑑み、出版物の複製に係る出版社の報酬請求権の是非について関係者間で協議が進められているが、関係者間協議の結論を得て、2004年度以降必要に応じ著作権法の改正案を国会に提出する。
<技術的保護手段等の回避等に係る法的規制の対象を拡大する>
 技術的保護手段の有用性を担保する観点から、接続管理(アクセスコントロール)回避行為への刑事罰創設、接続管理回避サービス(アクセスコントロール解除のノウハウ本出版、技術的保護を解除(回避)する特定情報(シリアルナンバー等)の公衆への提供など)の規制等について、将来の管理技術開発への影響等を踏まえつつ検討を行い、2004年度以降必要に応じ所要の法案を国会に提出する。
<著作権法を簡素化する>
 パソコンやインターネットの普及など、「情報化」の進展に伴う創作手段・利用手段の急速な普及により、著作権に関する知識がすべての人々に必要なものとなっていることから、著作権法そのものについても、一般の人々にとってできる限り分かりやすいものとするため、「権利の統合」や「契約に関する規定の見直し」など、著作権法の規定ぶり(権利の拡大・縮小とは別に)について簡素化等の可能性を検討し、2005年度中に結論を得る。
 コンテンツビジネスの振興に関する施策の迅速な実現を図るため、コンテンツ関係法律の一括改正を含めコンテンツビジネスの振興全般に関する重要事項について調査検討し、結論を得た事項について2004年度以降関係府省において具体化の上、速やかに実施する。

【検討事項】

○関係者間の合意が形成された事項
  • 「書籍・雑誌等の貸与」に係る暫定措置の廃止
  • 「日本販売禁止レコード」の還流防止措置
  • ○著作権法制全般に関する事項
  • 著作権法の単純化
  • 「アクセス権」の創設又は実質的保護
  • ○個別の権利の在り方に関する事項
  • 保護期間について
  • ○各省庁の著作権法改正要望


    II. 検討の結果

     法制問題小委員会は、平成15年6月12日に第1回を開催し、8回にわたり検討を行ってきた。平成15年度における検討の結果は次のとおりである。

    1 関係者間の合意が形成された事項

     現在、著作権法制に関して関係者間で協議が進められている事項のうち「書籍・雑誌等の貸与」に係る暫定措置の廃止と「日本販売禁止レコード」の還流防止措置については、関係者間の合意が概ね形成されたことを踏まえ、本小委員会において検討を行った。

    (1)「書籍・雑誌等の貸与」に係る暫定措置の廃止

    ○現行制度

     貸レコード業をはじめとする著作物の複製物のレンタル業の発達に対応するため、昭和59年の著作権法の一部改正により、映画以外の著作物の著作者に「貸与権」が創設された(第26条の3)。
     しかしながら、書籍・雑誌の貸与については、[1] 貸本業が我が国で長い歴史を持ち、これまで自由に行われてきたという経緯があり、社会的にも定着している業であったことから、関係者の理解を得られにくい状況にあったこと、[2] 貸本業が大きな経済的利益をあげているという実態になく、貸本業の存在により本の売れ行きが大幅に減少するといった、著作権者の経済的利益が不当に害される事態が生じているという状況にはなかったこと、[3] 仮に貸本にも権利が働くこととした場合においても貸本業者は権利者の許諾を容易に得ることができる集中管理体制が整っていなかったこと、などから、当分の間の措置として、貸与権が働かないこととされた(附則第4条の2)。ただし、書籍・雑誌の中でも、主として楽譜が掲載内容となっているものについては、貸楽譜業の実態に鑑み、権利者の利益にも大きく関わることから、原則通り貸与権が働くことになっている。

    ○問題の所在

    【国内の状況】

     約2年ほど前から、新たな「レンタルブック店」が北海道、神奈川、福岡など各地で営業を開始し、平成15年11月現在では、全国で約200から250店舗が営業を行っている。この新たな「レンタルブック店」は、主に「レンタルビデオ店」がビデオからDVDのレンタルへの移行に伴いできた空きスペースを利用して、書籍等(コミックスが中心)のレンタルを行っている。また、平成15年4月には、新古書店最大手の「BOOK OFF」(ブックオフコーポレーション株式会社)*1 が書籍のベストセラーを中心としたレンタルブック1号店を開店している。さらに、レンタル大手の「ゲオ」(株式会社ゲオ)*2 、最大手の「CCC」(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)*3 がレンタルブックビジネスに参入する予定であり、今後は多くの事業者がレンタルブックビジネスに進出する可能性がある。


    * 1 ブックオフコーポレーション株式会社 本店所在地:神奈川県相模原市 店舗数:734店(直営店166店、加盟店568店)
    * 2 株式会社ゲオ 本店所在地:愛知県春日井市 店舗数:直営店519店舗・フランチャイズ店45店
    * 3 カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(通称CCC) 全国に1140店舗を展開する『TSUTAYA』のフランチャイズ本部。本店所在地:大阪市北区


    [ 著作権者の経済的利益に対する影響 ]

     旧来の貸本業は、蔵書数が少なく、人気に関係なくどのタイトルも平均して同じ冊数を仕入れて、貸し出しを行うなど、大きな経済的利益をあげているという実態になく、貸本業の存在により本の売れ行きが大幅に減少するといった、著作権者の経済的利益が不当に害される事態が生じているという状況にはなかった。
     他方、新たな「レンタルブック店」は、人気のあるコミックやベストセラーの書籍を大量に品揃えし、レンタルビジネスを大規模に展開するものであり、著作権者の経済的利益に多大な影響を与える可能性がある。
     実際に、社団法人雑誌協会が千葉県所在の『すばる書店』において、平成15年5月23日から10月31日まで、新刊売り場に併設して、レンタルコミックに関する実証実験を行った結果、毎月約25、000冊〜30、000冊の貸し出しがみられ、売上は約250万円前後で推移しているという結果がでている。また、最新巻とその前巻について、実験店における新刊の売上データと全国の売上データとの比較をしたところ、貸出禁止期間を設けなかったものについては、13作品中11作品が全国平均よりも低いという結果がでている。

    <実験店の概要>

    < 実験店におけるジャンル別蔵書数、貸出数及び回転数 >
    ジャンル 蔵書数 貸出数 回転数
    少年 8,453 52,460 6.1
    少女 6,890 53,108 7.5
    青年 7,606 39,913 5.2
    レディース 1,791 11,676 6.4
    児童 503 2,462 4.8
    その他 318 824 2.6
    25,561 160,443 6.16

    < 実験店における貸出数及び売上 >
      貸出数 売上(円)
    5月(23〜31日) 15,919 898,288
    6月 34,172 2,760,792
    7月 30,177 2,434,480
    8月 30,818 2,486,095
    9月 26,562 2,128,668
    10月 22,795 1,820,988
    160,443 12,529,311

    1年間に換算すると
    貸出数 361,492冊
    回転数 14.1回転
    実験店 在庫タイトル数 19,686点
      平均在庫数    1.3冊
      在庫総金額(定価) 11,858,973円
    実験店総会員数 3,762名

    < 実験店における新刊への影響 >
    (最新巻と前巻との売上比較 実験店舗と全国売上データとの比較表 12週目)

    「貸出禁止期間0」
      作品名 巻数 全国売上
    データ
    実験店
    売上データ
    比較差 ジャンル
    A DEAR BOY ACTU 14巻 106.40% 95.80% -10.60% 少年
    B ジパング 11巻 90.80% 90.90% 0.10% 青年
    C バカボンド 17巻 91.80% 97.70% 5.80% 青年
    D ONE PIECE 28巻 97.40% 89.10% -8.30% 少年
    E NARUTO−ナルト− 17巻 107.50% 106.20% -1.30% 少年
    F こちら葛飾区亀有公園前派出所 135巻 100.10% 85.10% -15.00% 少年
    G 夜までまてない 7巻 85.90% 66.70% -19.20% 少女
    H 覇王・愛人(あいれん) 5巻 107.20% 90.50% -16.70% 少女
    I 金色のガッシュ!! 11巻 137.70% 131.90% -5.80% 少年
    J フルーツバスケット 12巻 100.20% 95.10% -5.10% 少女
    K 代紋TAKE2 56巻 95.90% 63.20% -32.70% 青年
    L DRAGON BALL完全版 11巻 99.50% 97.40% -2.10% 少年
    M 天使な小生意気 18巻 96.70% 93.10% -3.60% 少年

     また、実験店において、レンタルコミックに関する利用者の意識調査を行った結果、レンタルコミックの潜在的なニーズや本の売上への影響が分かる結果が出ている。

    < すばる書店 白井店 コミックレンタル 利用者意識・動向調査アンケート集計 >
    (2003年8月30日、31日実施、調査対象者293名)

    <レンタルを選ぶ理由は何ですか > <レンタルを読んで気に入った場合・・・>
    <これからレンタルに切り替えようと思うか> <レンタル料金、3泊4日80円は安い?高い?>
    【韓国の状況】

     韓国においては、レンタルブック店の急増により、「マンガは買って読むもの」から「マンガは借りて読むもの」という意識が浸透し、年間コミックス販売部数の8割は貸本店が購入し、消費者が直接購入するコミックスは、人気上位10から15作品に限られ、部数は全販売部数の2割を占めるに過ぎず、コミックスの販売部数はピーク時の1割から2割に激減したといわれている。韓国においては、貸与権がなく、作家は、書籍の貸与による利益を享受できないだけでなく、コミックスの販売部数にも影響を受けていることから、「まんが貸与権」の導入について議論が行われはじめている。

    < 韓国における漫画出版物流通箇所の変遷 >
      1993年 1998年 2003年
    貸本店 なし 20,000 8,000
    書店 5,221 4,897 2,376
    オンライン書店 なし 1〜2 10
    取次直営書店 4 20 20
    漫画喫茶 5,000 3〜4,000 2,000
    2003年 コンテンツ振興院調べ
    *漫画取扱いシェア(2003年 コンテンツ振興院調べ)
    貸本屋=80%・書店=10%・オンライン書店=5%・取次直営書店=4%・漫画喫茶=1%

    < 韓国におけるマンガの読書方法 >
    年齢 レンタル 購入 インターネット その他
    19歳以下 89.3% 4.9% 5.3% 0.4%
    20〜29歳 91.8% 2.5% 5.8% 0.0%
    全体 88.7% 4.9% 5.9% 0.5%
    2003年 コンテンツ振興院調べ

    ○検討結果

     昨今、日本のコミック文化の成熟度を踏まえると、コミックの貸与に作家等の著作者に権利が与えられていないのは不合理である、既に映画の著作物には頒布権、レコード、楽譜、ソフトウエアといった著作物の複製物には貸与権が与えられており、書籍だけに貸与権が与えられていないのは理由がない、旧来の貸本業者や今後レンタルコミックに参入されることが予想される大手のレンタル業者*4の理解が得られているのであれば問題ないのではないか、などの指摘がなされ、暫定措置を廃止すべきとの意見が多く示された。
     新たなレンタルブック店の出現により、「書籍・雑誌の貸与」に係る暫定措置が設けられた昭和59年当時とは大きく環境が変化し、書籍等の貸与による著作権者への経済的影響は大きくなってきている。また、昭和59年当時に書籍・雑誌の貸与権の創設に反対を表明していた旧来の貸本業者の団体である「全国貸本組合連合会」と作家等の著作権者との協議が整った*5状況に鑑みれば、暫定措置は廃止することが適当である。
     ただし、レンタルブックに対する消費者のニーズに応え、暫定措置廃止後も引き続き、レンタルブック店が円滑に事業が行うことができるようにするため、レンタルブック店が権利者の許諾を容易に得ることができる集中管理体制を整備するとともに、消費者やレンタルブック店の経済的負担を考慮しつつ、適切な使用料及び貸与禁止期間*6を設定することが不可欠である。

    (参考)検討中の書籍等の貸与に係る管理事業スキーム


    * 4 ビデオ・CD等のレンタル及び書籍等も含めた販売を行う複合店の全国シェア(約4000店舗)の約半分を占めるCCCとゲオは暫定措置の廃止に理解を示している。
    * 5 旧来の貸本業者については、現在でも、大きな経済的利益をあげているという実態にはなく、著作権者の経済的利益が不当に害される事態が生じているという状況にはないことから、「貸与権連絡協議会」の加盟団体の作家約4、800名は、自ら創作する作品について、次の双方を満たす店舗に対しては権利行使を行わない旨表明し、旧来の貸本業者の団体である「全国貸本組合連合会」は暫定措置の廃止に理解を示している。
    [1] 平成12年1月1日以前に「貸本店」として、営業を開始し、転廃業などをせずに営業を継続している店舗。
    [2] 店頭の貸出対象書籍が1万冊以下である店舗。
    * 6 関係者間では、使用料については書籍の定価への上乗せ方式が、貸与禁止期間については、新刊書の発売日から3ヶ月から6ヶ月間の禁止期間を設けることで、協議が行われている。


    (2)「日本販売禁止レコード」の還流防止措置

    ○現行制度

    [ 「侵害行為」によって作成された物の輸入の禁止 ]

     著作権法第113条第1項第1号においては、外国で作成された海賊版(権利者の了解を得ないで作成されたコピー)を国内において販売や配布する目的で「輸入」することを、その権利を侵害する行為とみなしている。すなわち、本号は、「権利侵害行為」によって作成された物の輸入を権利侵害とみなすこととしており、権利者の許諾を得て国外で適法に譲渡された著作物の輸入は、権利侵害とはならない。

    [ 「譲渡権」の創設と「国際消尽」 ]

     平成11年の著作権法改正により、著作物、実演、レコードの原作品又は複製物の「譲渡」について、著作者、実演家、レコード製作者の権利として認めつつ、適法な譲渡により権利が消尽することが規定された*7
     この際、消尽の段階としては、権利者の許諾を得て国外で適法に譲渡された著作物について、日本に輸入され、公衆に譲渡されるときにも譲渡権が働き、国内で適法に譲渡されたときに初めて権利が消尽する「国内消尽」と、国外であっても適法に譲渡されれば権利が消尽し、その後国内において公衆に譲渡されるときには権利が働かない「国際消尽」が考えられたが、「国内消尽」を採用すると流通に混乱を招くおそれがあることから、この時点では、「国際消尽」の考え方を採用することとされた。
     したがって、権利者の許諾を得て国外で適法に譲渡された著作物を輸入し、公衆に譲渡する行為に対しては、譲渡権は働かない。
     なお、著作物等の廉価版の複製物等が並行輸入で国内に輸入され、公衆に譲渡されることがあることから、平成10年12月の「著作権審議会第1小委員会審議のまとめ」においては、「権利者が安心してその著作物等を国外で流通におくことができるよう、国外で既に譲渡された著作物等の我が国への輸入又は輸入後の譲渡について、譲渡権の行使を認めるべきであるとする意見もあり、これについては、他の知的所有権制度とのバランスや諸外国の動向等を踏まえ、さらに検討していくべき課題である」とされた。

    ○問題の所在

     近年、韓国政府が第四次日本大衆文化開放として日本語の音楽レコードの販売の解禁を発表するなど、特にアジア諸国に対して、日本の音楽産業が積極的に国際展開していく機運が高まっている*8
     しかし、日本の音楽産業が積極的に国際展開した場合には、海外にライセンスされた日本よりはるかに安価な日本の音楽レコードが国内に還流することが懸念され、国内の音楽産業に大きな影響を与える可能性があることから、(社)日本レコード協会より、海外での日本の音楽ソフトの需要に応え、日本の音楽産業の拡大を図るため、日本における販売を禁止することを条件に海外にライセンスされた音楽レコードの日本への還流を防止する措置(海外にライセンスされた日本の音楽レコードの輸入又は輸入後の譲渡を差し止める措置(いわゆる「輸入権」の導入))が必要であるという要望が出されている*9


    * 7 平成8年に採択された「WCT」及び「WPPT」において、著作物、実演、レコードの原作品又は複製物の譲渡について著作者、実演家、レコード製作者の権利を認めることが求められたことを踏まえ、平成10年12月の「著作権審議会第1小委員会」において、著作物等一般に対する譲渡権の創設について検討が行われ、その結果を受けたもの。
    * 8 三菱総合研究所の報告によれば、日本音楽ソフトの需要は、2002年の約500万枚から、2007年には3倍の約1600万枚、2012年には14倍の7000万枚程度に成長することが可能と見込まれている。
    * 9 日本レコード協会によるアンケート調査によれば、レコード会社19社中13社が、「日本販売禁止レコード」の還流防止措置が実施されれば、アジア諸国に積極的に国際展開するとしている。


    ○海外にライセンスされた音楽レコードの還流及び諸外国における還流防止制度の導入状況

    [ アジア地域にライセンスされた音楽レコードの供給実績 ]

     アジア地域へのライセンスレコードの供給実績は、2002年では台湾に約200万枚、中国に約44万枚、香港に約34万枚、韓国に約42万枚、原盤ライセンス契約がなされている。

    原盤ライセンスの数量(CD+カセット)

    原盤ライセンスの発売タイトル数
    社団法人日本レコード協会調べ

    [ 海外にライセンスされた音楽レコードの日本への還流の実態 ]

     株式会社文化科学研究所の調査結果によれば、ディスカウント及びホームセンターの2業種店舗におけるCDとカセットテープの販売量を推計する*10と、合計で約68万枚/巻が還流していると推定されている*11

      総店舗数 標本数 取扱い率
    (%)
    1店舗平均CD
    陳列数(枚)
    1店舗平均カセット
    陳列数(枚)
    在庫回転率
    (回)
    ディスカウントストア 4,441 222 22.1 149.76 21.80 3.5
    ホームセンター 4,356 436 9.2 53.45 10.55 3.5
    株式会社文化科学研究所調べ

    [ 諸外国における著作権法による還流防止制度の導入状況 ]

     諸外国における著作権法による還流防止制度の導入状況は、社団法人日本レコード協会が、国際レコード産業連盟(IFPI)に聴取したところによると、65ヶ国において、「みなし侵害」、「国内・域内消尽の頒布権」、「輸入権」など著作権法により何らかの方法で還流を防止することが可能となっている*12

    【還流を防止することが可能な国】
    ・ヨーロッパ(独立国家共同体加盟国(=旧ソ連国家)を除く)(31ヶ国)
    エストニア、クロアチア、スロバキア、スロベニア、チェコ、トルコ、ハンガリー、ブルガリア、ポーランド、マルタ、ラトビア、リトアニア、ルーマニア
    *EU・EEA加盟国(18ヶ国)は域外からの還流を防止する法制度を採用している。
    アイスランド、アイルランド、イギリス、イタリア、オーストリア、オランダ、ギリシャ、スウェーデン、スペイン、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、フィンランド、フランス、ベルギー、ポルトガル、リヒテンシュタイン、ルクセンブルグ
    ・独立国家共同体(8ヶ国)
    ウクライナ、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ベラルーシ、モルドバ、ロシア連邦
    ・アジア・太平洋地域(独立国家共同体を除く)(8ヶ国)
    アラブ首長国連邦、インド、サモア、台湾、パプアニューギニア、ブータン、香港、ヨルダン
    ・アフリカ(7ヶ国)
    ケニア、ザンビア、スーダン、ブルキナファソ、ボツワナ、南アフリカ、モロッコ
    ・北アメリカ(2ヶ国)
    アメリカ、カナダ
    ・ラテンアメリカ(9ヶ国)
    エクアドル、エルサルバドル、グアティマラ、トリニダード・トバコ、ニカラグア、パラグアイ、ベネズエラ、ベリーズ、ホンジュラス
    (2003年8月14日、日本レコード協会が国際レコード産業連盟『IFPI』に聴取)


    * 10 推計式:総店舗数×取扱い率×1店平均陳列量×在庫回転数=総販売量
    * 11 日本の邦楽アルバムの2002年における生産数は約1億7千万枚であり、還流枚数はそれに比較すると約0.4%である(日本のレコード産業2003より)
    * 12 還流防止制度を導入している国で、音楽レコードなどの再販売価格維持制度を法制度として導入している国はないとの指摘がある。


    ○検討結果

     日本における販売を禁止することを条件に海外にライセンスされた音楽レコードの日本への還流を防止する措置の導入については、これを要望する(社)日本レコード協会と反対を表明する(社)日本経済団体連合会との間で協議が行われていたが、(社)日本経済団体連合会が、「輸入を含めた商品の流通の自由を最大限尊重するとの観点から、市場分割につながる輸入禁止を認める権利の導入は問題が多いが、還流問題がレコード産業に与える影響の大きさに鑑み、還流問題解決のために、輸入を制限する最小限度の著作権法上の措置を講ずることはやむを得ないと考える*13。」として考えをまとめたことを踏まえ、消費者利益等の観点を含め、本小委員会において検討を行った*14

     音楽レコードの還流防止措置の導入については、次のとおり、積極的に導入すべきとの意見と慎重に対応すべきとの意見があった。

     積極的に導入すべきとして次のような意見が出された。

    • [1] 還流の実態の存在、[2] 国外における需要が高く積極的に国際展開が可能、[3] 還流の障壁となる言語の問題がない、[4] リージョナルコードによる対応など還流を防止する技術的手段がない、といった日本の音楽レコードの実態を踏まえ、知的財産立国として、日本の音楽産業の国際展開や音楽文化の海外への普及を積極的に図る環境を整備する必要がある。

    • 韓国政府による日本語の音楽レコードの販売解禁の発表など、アジア諸国からの日本の音楽レコードの需要がより一層高まることが予想されることを踏まえ、迅速な対応が必要である。

    • 60ヶ国以上の国において、自国のソフト産業を保護するなどの観点から、「みなし侵害」、「国内・域内消尽の頒布権」、「輸入権」など著作権法により何らかの方法で還流防止措置を講じている現状を踏まえ、他の諸外国と同様に日本の音楽レコードの国際競争力を確保するための措置が必要である。

    • 平成8年に採択された「WCT」「WPPT」においては、還流防止を規律する規定の導入は見送られたが、欧州においては、平成13年に採択された欧州議会のディレクティブにおいて「域内消尽」を採用するなど、諸外国の状況の変化を踏まえた対応が必要である。

    • 日本の音楽レコードの還流を懸念し国際展開を控えなければならない状況を解消できるとすれば、アジア諸国の音楽需要を満たし、ひいては著作者等の創作インセンティブを高めることとなる。

    • アジア諸国で正規品が適正価格で流通することにより、海賊版対策にもつながる。
     また、消費者利益の確保については、価格の引き下げ、国内商品の付加価値の向上など、積極的な国際展開による市場の拡大によって得た利益を消費者に還元することが可能であり、還流防止措置の導入により消費者利益にも資することとなるとの意見があった。

     なお、積極的に導入すべきとの意見においても、国内における音楽レコードに与える影響を踏まえ、一定期間が経過した後には制度の必要性を具体的に検証して見直しを図るといった暫定的な措置として導入すべきとの意見や、他の著作物等に対象が拡大されないような措置とする必要があるとの意見が多く示された。また、著作権法以外の枠組みによる対応も考えられるとの意見もあった。

     他方、日本の音楽レコードの還流の実態にかんがみ、還流防止のための何らかの措置が必要であるという状況については概ね理解できるとしつつ、現段階での導入には慎重に対応すべきとして次のような意見が出された。

    • 海外にライセンスされた日本の音楽レコードの流通については、契約により一定のコントロールが可能であり、法的措置により対応すべきものではない。

    • 著作物に係る内国民待遇の原則や諸外国との関係などを踏まえると、日本の音楽レコードと欧米諸国等の音楽レコードに係る保護水準を異にすることはできず、日本の音楽レコードの還流のみならず、欧米諸国等の音楽レコードの当該国からの輸入にも影響を与える可能性があり、欧米諸国等の音楽レコードを含めた還流防止措置の導入については、理解が得られていない。

    • 音楽レコードに限定して還流防止措置を設けたとしても、還流の実態がでてきたときの他の著作物等への対象の拡大の懸念がある。

    • 緊急避難的な措置として還流防止措置を設ける場合には、著作権法によって対応することは不適当である。

    • 日本の音楽レコードの国際競争力をいかなる方法で形成すべきかという極めて高度な総合的判断を要することであり、経済法、競争政策など著作権法以外の専門家を加えて検討する必要がある。
     その他、著作権制度とは関係がない制度であるが、「再販売価格維持制度(再販制度)」との関係について、次のような反対意見が出された。

    • 日本の音楽レコードが独占禁止法の例外的な規定である「再販制度」により国内価格競争が制限されたまま、還流防止措置を導入することは、国際価格競争も制限することを意味し、消費者利益に反するものであり反対である。

    • 諸外国においても、「再販制度」を導入しつつ、還流防止措置を導入している国はない。

    • 消費者利益の還元のための最もよい手段は競争のある市場において、消費者が選択権を持つことであり、価格を引き下げるインセンティブが制度上全く働かなくなる中、国際展開によって得られた利益を消費者に還元することは期待できない。
     以上のように様々な意見は見られたが、日本の音楽レコードの還流防止のため、何らかの措置が必要であるという意見が多数であった。他方、具体的方法論については、欧米諸国等の音楽レコードに対する影響や他の著作物等への対象の拡大を懸念するなど慎重な意見も出されており、これらの慎重意見を踏まえた検討が必要である。

     なお、「再販制度」を維持したまま、還流防止措置を導入することによる価格の高止まりに対する懸念が多かったことを踏まえ、当小委員会の検討事項ではないが、還流防止措置との関係から、「再販制度」の在り方について別途の場において議論することが適当であると考えられる。


    * 13 なお、音楽レコードの還流問題解決のために、輸入を制限する最小限度の著作権法上の措置を講ずることはやむを得ないと表明した(社)日本経済団体連合会は、「権利の対象」は、音楽CDとそれに類する製品に限定すべきこと、「権利の内容」は、みなし侵害として捉え、また、洋楽CDや個人輸入に影響が出ないようにすべきこと、「権利の期間」は、輸入権は一定期間経過後に消滅させることとし、継続の是非については、その時点で改めて検討すべきであり、例えば、附則において一定期間経過後に廃止を含めて見直すとの規定を設けるべきであること、を提案している。
    * 14 本小委員会では、消費者団体の代表者、独占禁止法の専門家、(社)日本経済団体連合会からの意見聴取を行って検討を行った。


    2 著作権法制全般に関する事項

     我が国の著作権法は、昭和45年の現行法制定以来、経済、社会、技術等の変化に対応しつつ必要な改正を行ってきたが、これらは種々の新しい著作物・利用形態の出現等に対応して個別に行われてきたものであって、従来の制度の基本的な部分を見直す必要もあるのではないか、という指摘もある。
     このため、平成13年度の総括小委員会、昨年度の法制問題小委員会においては、その見直しが実際に必要であるかどうかも含め、著作権法制に関する基本的な課題について、改めて整理・検討を行った。
     本年度の法制問題小委員会では、昨年度の法制問題小委員会で引き続き検討が必要という結論を得た、「著作権法の単純化」に関する課題、「『アクセス権』の創設又は実質的保護」について検討を行った。

    (1)著作権法の単純化

     近年、パソコンやインターネットの普及など、「情報化」の進展に伴う創作手段・利用手段の急速な普及により、著作権に関する知識や適切な契約の習慣は、全ての国民にとって必要不可欠のものとなってきており、著作権法そのものについても、できる限りわかりやすいものとすることが極めて重要になってきている。
     昨年度の法制問題小委員会において、
      [1] 著作権法制の全体的な「構造」の単純化
      [2] 「権利」に関する規定の単純化
      [3] 「権利制限」に関する規定の単純化
      [4] 「契約」に関する規定の見直し
      [5] 特定の著作物等のみを対象とした規定の見直し
    の5つの諸側面について、必要な場合には協議・調整や条件整備を行いつつ、できるところから著作権法の単純化に着手していくことともに、今後ともこの問題について引き続き検討していくことが適当であるとの結論を得た。
     本年度は、5つの諸側面のうち、契約・流通小委員会との連携を図りつつ、引き続き検討することとされた「[4] 『契約』に関する規定の見直し」について、検討を行った。

    ○問題の所在

     契約内容が明確な書面による契約が少ないという我が国の著作権に関する契約の実態を踏まえ、著作権法の中には、本来は当事者同士の契約に委ねるべき事項を法定している規定が存在するが、適切な契約を行う習慣の拡大によって、著作物等の創作・利用形態の変化・多様化に対応していくためには、これらの規定を廃止して著作権法を単純化することについて、契約慣行の定着状況を踏まえつつ、検討する必要がある。


    [1] 第61条第2項の廃止について

    ○検討結果

     契約で個々の権利の譲渡を明記しない限り、権利が譲渡されないという規定は、著作権法を相当に読み込んでいないとわからない規定であり、著作権法を単純化する観点から廃止すべきであるという意見が多く示された。
     他方、第61条第2項の規定は、著作権の譲渡の際に、著作権者に改めて何を譲渡するのかといった一考を促す意味があることから、規定の廃止については慎重な検討が必要であるとの意見もあった。

    [2] 第15条(法人著作)の廃止について

    ○検討結果

     法人著作の規定を廃止することにより、企業等の法人は、従業員等と個々に契約をする必要があること、契約によって、複製権や譲渡権等の「財産権」は移転できるが、氏名表示権や同一性保持権といった「著作者人格権」を移転することはできないことから、企業活動が円滑に行うことができなくなるという指摘がなされた。また、法人著作の規定を廃止して、個々の契約に委ねることは、一見すると、従業員に有利になるように見えるが、実際上は、雇用の力関係で従業員に不利な契約がされることが予想されるので、法人、従業員の双方が納得し得る契約ルールの構築が前提として必要であるとの指摘がなされ、法人著作の規定は廃止すべきでないとの意見が多く示された。
     法人著作の規定の廃止により、著作権の帰属が法人、従業員双方の契約に委ねられるため、かえって著作権法の適用関係が複雑になることが予想され、現段階では、企業等の法人にとっても、従業員にとっても、法人著作の規定の廃止は適当ではなく、著作権法の単純化という観点だけで検討すべき問題でないと考えられる。

    [3] 第44条及び第93条の廃止について

    ○検討結果

     放送番組の二次利用を円滑に行うため、放送の許諾の際に録音録画の許諾の契約を行うべきであり、放送のための一時的固定による録音録画を権利制限する第44条及び第93条等の規定を廃止すべきという積極的な意見があった。
     他方、このような規定を廃止することは、録音録画権と放送権の双方の契約交渉を行わなければならず、現場に混乱を招いたり、現実的に許諾を得られない場合もあることや、「視聴覚的実演の保護に関する新条約(仮称)」が採択されない中で、第93条を廃止することは、放送番組の二次利用が行われる際に、実演家の許諾を得ないで利用されることとなり、実演家の権利の実質的切り下げになるのではないかという慎重な意見があった。
     第44条及び第93条の廃止については、放送番組の二次利用を行う際の契約の実態や、「視聴覚的実演の保護に関する新条約(仮称)」の動向を踏まえつつ、引き続き検討する必要がある。

    (2)「アクセス権」の創設又は実質的保護

    ○問題の所在

     著作物は、視覚的・聴覚的な方法等により「知覚」(例えば、本を「読む」こと、放送番組を「見る」こと、音楽を「聴く」こと)されることによってその価値が発揮されるものであり、使用者が複製物の入手等に対価を支払うのも、通常は著作物を知覚するためである。しかし、個々の知覚行為に権利を及ぼしても実効性を確保することができない等の理由により、内外の著作権法制は、知覚の前段階である複製や公衆送信等について権利を及ぼしてきた。
     しかしながら、近年の情報技術の発達により、デジタル化されて流通する著作物について、知覚行為そのものをコントロールすることができるようになってきた。このため、例えば、いわゆる「技術的手段」の回避を防止する制度に関し、複製行為等ではなく「知覚行為」をコントロールするための技術的手段を対象とするかどうかについて、国際的な論争も生じている*15
     「知覚行為」そのものをコントロールすることが可能となる一方で、知覚行為をコントロールする技術的手段の回避による影響を踏まえ、[1] アクセス権の創設、[2] 「暗号解除権」の創設、[3] 「知覚行為」をコントロールするための技術的手段の回避行為の禁止等の措置について、検討する必要性が生じている。

    ○検討結果

     「アクセス権」の創設については、国民の知る権利という憲法上の問題にも関わり、また、著作権制度の根幹にかかわる問題でもあることから、その可否・必要性等について、国際的な動向を踏まえた慎重な検討が必要である。
     「暗号解除権」の創設、「知覚行為」をコントロールするための技術的手段の回避行為の禁止についても、アクセスコントロールの問題として、著作権制度全体に影響を及ぼす問題であるが、米国のデジタル・ミレニアム著作権法*16やECディレクティブ*17において、「知覚行為」のコントロールに係る規制が導入されていることや、現在、「暗号化された放送」の保護を図る観点から、WIPO(世界知的所有権機関)における「放送機関の保護に関する新条約(仮称)」に向けた議論として検討が行われていることを踏まえつつ、引き続き検討することが必要である。
     なお、「アクセス権」の保護又は実質的保護の検討にあたり、本来アクセスコントロールとして施されているCSSがコピーコントロールとしても機能しているという実態を踏まえその回避の規制を求める問題提起があった。


    * 15 国内においては、平成10年12月にとりまとめられた著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ(技術的保護手段・管理関係)報告書において、回避に係る規制の対象とすべき技術的保護手段について、現行の著作権者等の権利を前提とした技術的保護手段の回避に限定して規制の対象とすることが適当であるとされ、「知覚行為」をコントロールするための技術的保護手段の回避については、現行の著作権法では規制の対象とされていない。
    * 16 1998年デジタル・ミレニアム著作権法1201条(a)(1)(A)「何人も、本編に基づき保護される著作物へのアクセスを効果的にコントロールする技術的手段を回避してはならない」(CRIC 外国著作権法令集(29)アメリカ編 山本隆司・増田雅子訳)
    * 17 ECディレクティブ6条1「加盟国は、関係する者が、その目的のためであることを知り、または知るべき合理的な理由を有しながら行う、いずれかの効果のある技術的手段の回避に対して、適切な法的保護を与えるものとする。」(CRIC 情報社会における著作権及び関連権の一定の側面のハーモナイゼーションに関する欧州会議およびEU理事会のディレクティブ2001/29/EC)


    3 個別の権利の在り方に関する事項

    保護期間について

    ○問題の所在

     我が国の著作権法では、昭和45年の現行法制定以来、著作権に関する基本的な条約であるベルヌ条約の規定に則り、著作権の保護期間は、原則として「創作の時」から「著作者の死後50年を経過するまでの間」と定められている。
     「映画の著作物」については、昨年度の文化審議会著作権分科会審議経過報告を踏まえて行われた著作権法の改正により、「公表後50年を経過するまでの間」から「公表後70年を経過するまでの間」に延長されたが、同審議経過報告においては、無名・変名・団体名義の著作物の保護期間の在り方や、保護期間そのものに関する考え方等についても、今後検討を行うことが適当であるとされた。

    <保護期間の国際比較>

    <著作者の権利>
      日本 イギリス フランス ドイツ イタリア ロシア アメリカ
    一般の著作物 死後50年 死後70年 死後70年 死後70年 死後70年 死後50年 死後70年
    無名・変名の
    著作物
    公表後
    50年
    公衆への
    利用可能
    化後*18
    50年
    発行後
    70年
    発行後
    70年
    発行後
    70年
    発行後
    50年
    発行後
    95年
    団体名義の
    著作物
    公表後
    50年
    死後70年 発行後
    70年
    死後50年 発行後
    95年
    映画の著作物 公表後
    70年
    死後70年 死後70年 死後70年 死後70年 死後50年 発行後
    95年

    <著作隣接権>
    レコード 発行後
    50年
    固定後
    50年
    発行後
    50年
    固定後
    50年
    発行後
    50年
    実演 実演後
    50年
    実演後
    50年
    実演後
    50年
    実演後
    50年
    実演後
    50年
    実演後
    50年
    放送 放送後
    50年
    放送後
    50年
    放送後
    50年
    放送後
    50年
    放送後
    50年
    有線放送 有線
    放送後
    50年
      *上記各国の保護期間は標記以外の例外の場合もある。
      *イギリスはレコード、放送、有線放送は著作物として保護されている。
      *アメリカはレコード、実演、放送、有線放送は著作物として保護されている。


    * 18 「公衆への利用可能化」には、文芸、演芸又は音楽の著作物の場合は、公の実演、放送又は有線サービスへの挿入、美術の著作物の場合には、公の展示、放送又は有線放送番組への挿入を含む。

    ○検討結果

     インターネット環境の充実により、瞬時に世界中に著作物が流通することを踏まえると、国際的に保護期間を平準化することが必要であり、欧米並みの「死後70年」に保護期間を延長すべきとの意見があった。
     他方、国際的な平準化を目指すなら、保護期間を一番長く保護している国に合わせる必要があり、延々と保護期間が延長される恐れがあること、平準化するといっても、EU各国が「死後70年」にしたのは、個々の国は「死後70年」に反対であっても、EUの中で一番長い国にあわせざるを得ない事情があったことなど、欧米諸国が保護期間を延長した理由を仔細に検討すべきであり、数字だけを根拠に平準化すべきでないことから、平準化を理由とする保護期間の延長に慎重な意見があった。
     保護期間の延長については、国際的動向に留意するとともに、著作物の創作活動に対するインセンティブや文化活動、経済活動に与える影響など、保護期間延長の意義を具体的に分析しつつ、引き続き検討する必要がある。
     なお、著作権とともに著作隣接権についても同様に保護期間を延長すべきとの意見や、映画の著作物の保護期間の起算点について「公表後」から「死後」に改めるべきとの意見もあった。

    4 各省庁の著作権法改正要望

     文化庁からの要請に応じ、これまでに各省庁から提出された著作権法改正要望は、次のとおりであり、殆んどの事項については、現在、関係する小委員会で検討が進められていることが確認され、小委員会において検討されていない「生番組の著作物性を明定」や「障害者・高齢者の著作物の利用に関する利用制限規定の新設」について検討を行った。

    (1)生番組の著作物性を明定 (総務省からの要望事項)

    ○要望の内容

     固定されたテレビ番組は「映画の著作物」とみなされるが、テレビの生番組は「固定されていない」ことから、映画ではなく、著作物でもないとの解釈が存在する。生番組は「思想又は感情を創作的に表現したもの」であり、著作物であることの要件を満たしているため、生番組も著作物であることを明確化してほしいという要望がある。

    ○検討結果

     生番組についても「創作性」が認められ、著作物であることの要件を満たしているものがあるため、その明確化を図るべきではないかとの意見があった。他方、生番組に著作物性があれば著作物の定義により著作物として保護されるのであるから著作物性を明定する必然性はないのではないかとの意見や、物に固定されていない他の著作物との関係でどのように明定するのかという指摘があった。

    (2)障害者・高齢者の著作物の利用に関する利用制限規定 (経済産業省からの要望事項)

    ○要望の内容

     障害者・高齢者は健常者と比べ、著作物の享受にハンディがあることから、障害者・高齢者がIT機器を介して著作物を利用する行為に対して、一般的な権利制限規定を創設してほしいという要望がある。

    ○検討結果

     経済産業省からの要望である障害者・高齢者というだけで、あらゆる著作物を無断で利用することができるといった一般的な権利制限規定については、障害者・高齢者の定義付けが難しく対象を特定できないこと、非常に範囲が広く曖昧な権利制限規定は権利者の経済的利益を著しく害する可能性があることから、創設すべきではないと考えられるが、障害者・高齢者が健常者と同様に著作物を享受する機会が十分に確保されるように配慮することは非常に重要であり、障害者・高齢者に対するある特定の分野についての個々の権利制限規定については今後引き続き検討を行っていく必要がある。

    関係省庁からの著作権法改正要望(別頁参照)


    第2章 契約・流通小委員会

    I 著作物等の利用許諾契約における利用者の保護

    1 検討事項について

    (1)平成14年度の検討結果

     平成14年度の契約・流通小委員会は、著作権又は著作隣接権(以下「著作権等」という)に関する利用許諾契約が増加しているにもかかわらず、当該契約における利用者は、著作権等が第三者に譲渡された場合や著作権者又は著作隣接権者(許諾者)が破産した場合、引続き当該著作物、実演、レコード、放送及び有線放送(以下「著作物等」という)を利用することについて、著作権等の譲受人や破産管財人に対抗することができず、利用者の地位が不安定になっているとして(図1参照)、その保護について検討を行い、制度上の問題について次のような整理を行った*19

    図1

    【著作権が第三者に譲渡された場合】

    【著作権者が破産した場合】


    * 19 本年7月に政府が策定した「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」においても、知的財産活用の環境の整備として、「倒産時等における知的財産のライセンスの保護」が挙げられている。(p47)

    [1] 利用者の保護の範囲

     独占性、契約期間、保守保証義務、クロスライセンス等の特約条項について、どこまで保護すべきであるかについて、委員の意見を整理したが結論には至らなかった。

    [2] 保護すべき利用者の特定

     どのような利用者を保護対象とすべきか(保護対象を特定する方法・方式)については、
    利用許諾契約が書面(電子契約を含む)によりなされているときは、当該利用許諾は著作権等をその後に取得した者に対し対抗できるとする案
    利用許諾の登録がされている場合には、その著作権等をその後に取得した者に対して、その効力を生ずるとする案
    譲受人が悪意の場合、すなわち利用許諾契約を承知している場合には、利用許諾契約を承継させる(譲受人が善意無過失で利用許諾契約を承知していない場合には譲受人は利用許諾契約を承継せず、譲受人に軽過失があって利用許諾契約を承知していない場合には譲受人は利用許諾契約を承継するものの独占性については承継せず、譲受人に故意又は重過失がある場合には譲受人は独占性を含め承継する。)という案
    利用許諾契約に基づいて事業を行っている事実をもって、その著作権等をその後に取得した者に対抗できるとする案
    について検討したが、更に検討すべき課題があるとし結論に至らなかった。

    (2)本年度の検討事項

     本年度については、平成14年度の検討結果の中の、
    「(今後の)検討に当たっては、まず必要な保護の範囲自体を明確にすべきであり、この点については産業界等においても検討が必要である。
     また、保護対象を特定する方法・方式については、個々の案の利点を活かしつつ複数の案を組み合わせた案を検討していくべきである。
     利用者の保護については、債権的な利用許諾契約を物権の譲渡に優先させるという法構成上大きな課題を有しており、物権と債権の関係、破産法との関係、利用者間の債務順位等を整理しつつ、実効性の高い最善の方策を慎重に検討する必要がある。」
    との提言を踏まえ、この問題に関する産業界の意見を聞いた上で、「利用者保護の在り方について」及び「利用許諾契約に基づく許諾者の地位の承継について」の検討を行い、最後に平成14年度と本年度の検討結果を踏まえ、提言をまとめることとした。

    2 利用者保護に対する関係者の意見

     利用者保護の在り方等に関する法制度上の問題を検討する前に、著作物等の利用者側から見た望ましい保護の在り方について、意見を整理した。

    (1)制度整備の必要性

     まず、制度整備の必要性である。現状においては、著作権等の譲渡契約に伴い利用許諾契約に基づく利用者の継続的利用を合意するなど、一定の契約秩序の中で利用者の地位が守られている場合が多いこと、破産時においても破産管財人やその後の譲受人が既存の利用許諾契約を尊重することで制度の運用が行われる場合が多いことから、現在利用者の継続的利用について重大な支障は生じていないと考えられる。また、例えば破産法第59条第1項*20の双方未履行契約の範囲を限定的に解することにより破産管財人の解除権の適用を制限しようとする考え方や、第三者による債権侵害の法理の柔軟な解釈により、著作権等の譲渡の状況によっては著作権等の譲受人から利用者を保護することができるとする考え方など、現行法の適用によって、ある程度利用者の保護を図ることができるとする考え方もある。

     しかしながら、著作物等の流通の促進に伴い、今後著作権等の譲渡取引等はますます多くなってくると思われるので、この流通の促進を図り、かつ利用者が安心して利用許諾契約を締結できるよう、流通と利用の秩序に関する基盤整備の一環として制度上の整備を望む意見が多かった。


    * 20 破産法第59条第1項  双務契約ニ付破産者及其ノ相手方カ破産宣告ノ当時未タ共ニ其ノ履行ヲ完了セサルトキハ破産管財人ハ其ノ選択ニ従ヒ契約ノ解除ヲ為シ又ハ破産者ノ債務ヲ履行シテ相手方ノ債務ノ履行ヲ請求スルコトヲ得

    (2)制度整備の範囲

     次に、制度整備の範囲についてである。利用者保護の問題は、破産時と著作権等の譲渡時の問題に分けられるが、問題提起の発端は権利者の破産時に利用者をどう保護するかであった。後述するように現在、対抗要件が付与されていれば破産管財人の解除権は制限されるという破産法の改正方針が示されているので、破産時の対処ということであれば、対抗要件の付与以外の方法による利用者の保護制度は考えられないことになる。したがって、制度整備に当たっては、破産法の改正に限定的に対処するためのものとするかどうかの問題があるが、これについては、著作権等の譲渡取引時を含めた制度整備を行うべきであるとの意見が多かった。

    (3)望ましい保護の在り方

     望ましい保護の在り方については、業界の実情や利用許諾契約の実態等によって様々な意見があるが、関係者の意見を総合的に整理すると、おおむね次のようである。

    [1] 比較的単純で定型的な利用許諾契約が一般的な場合

     放送番組、レコード、映像ソフト等の作品を主に利用(公衆送信、複製など)している業界では、当該作品の製作者から作品の提供を受け、利用許諾契約の期間中はそれを独占的に利用することを事業の前提としている場合が多く、作品を非独占的にしか利用できないのであればそもそも契約しないというのが一般的な状況である(ただし、作品に使われている音楽等の著作物は、非独占的な契約が一般的である)。

     この作品を独占的に利用することができる権利というのは、著作権者と出版者の間で出版権(第79条)が設定される場合を除き、あくまでも契約から生じる債権に過ぎないが、利用者側からは、著作権等が第三者に譲渡された場合においても、当該第三者との関係において、作品の利用の独占性が保証されるとともに、使用料の支払を含め引続き譲渡前と同様の条件で継続して利用できることが望ましいとする意見が多かった。

    [2] 複雑で非定型的な利用許諾契約が一般的な場合

     例えば、コンピュータ・プログラムを取り扱う工業製品の製造業界では、一つの利用許諾契約の中で、特許発明、著作物、営業秘密などの種類の異なる知的財産の利用等を一括して許諾するなど契約の内容は複雑である。ちなみに契約条項の内容として、例えば次のようなものがある。
    • クロスライセンス条項
       相互に、様々な知的財産の利用を認め合う契約。契約当事者の双方が権利者でありかつ利用者となる。大企業間では特定の製品、事業範囲について、権利を特定せずに相互に自由に利用を認め合う実態がある。このような場合、対象に含まれる権利は特許だけで数万件に及ぶことがある。
       共同開発契約や技術提携契約においても、その目的のため相互にプログラムの利用を許諾し合う。
    • 保守・保証等の条項
       バージョンアップ・バグ修正といった保守、品質・性能・許諾権限・第三者権利非侵害に関する保証等を内容とする。
    • サブライセンス条項
       権利者から著作物等の利用許諾を受けた利用者が、更に第三者に利用の許諾をすることができることを内容とする。
    • 契約の準拠法に係る条項
       国際的な取引が多く、外国法を準拠法とする場合が多い。
     このような契約は、クロスライセンス契約に代表されるように、多数の知的財産について、その内容を相互に開示することになるので、契約の相手方は経営戦略上の特別な存在であり、相手方は誰でもよいということではない。

     したがって、このような契約実態が一般的な場合は、著作権等が第三者に譲渡されたときも、当該第三者が利用許諾契約の当事者になることは望ましいことではなく、多少の不都合があっても、当該契約に基づく許諾者の地位は譲受人に承継されることなく、利用者は引続き適法に当該著作物等の利用が継続できる方法を望む意見が多かった。

    3 利用者の保護の在り方について

     利用者の保護の在り方については、平成15年1月の文化審議会著作権分科会審議経過報告(以下「審議経過報告」という)において整理されたように、利用者が利用許諾契約による法律関係を著作権等の譲受人に主張することができる手段を与える対抗要件による保護と、それ以外の方法による保護が考えられる。

     なお、利用者の保護については、著作権等が第三者に譲渡された場合だけでなく、権利者が破産したときに破産管財人が行う利用許諾契約の解除の問題もある。これについては、本年9月に法務省の法制審議会が出した「破産法等の見直しに関する要綱」によると、破産管財人の双方未履行の契約に関する解除権の規定は、「賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利を設定する契約については、相手方が当該権利について登記、登録その他の第三者に対抗することができる要件*21を備えているときは、適用しないものとする」ことで改正が予定されている。この制度改正により、通常実施権の登録制度が整備されている特許権や商標権は現行制度のままでも、破産法改正の効果を享受できるが、著作権等の場合は、新たに制度を創設しない限り、破産法改正の効果を享受できないことになる。

     対抗要件による保護とそれ以外の方法による保護を整理すると次のとおりである。


    * 21 無体物の利用許諾は、有体物のそれとは異なり複数の者になしうることから、他に利用許諾を受けた者に対抗するための登録等は考えられないので、「破産法等の見直しに関する要綱」の趣旨は、著作権等をその後に取得した者に対抗するための登録等という意になると解される。

    (1)対抗要件による保護

    [1] 現行制度

     著作権法では、著作権等の譲渡やこれらの権利を目的とする質権の設定・譲渡等については、取引の保護の観点から、登録をしなければ第三者に対抗することができない(第77条、第88条、第104条)。また、当該登録については、登録原簿に申請の内容が掲載又は記録され公示されることになっている。不動産や他の知的財産権についても、その権利変動について、対抗要件の制度又は効力発生要件の制度が整備されているところであり、登記・登録により権利変動の内容が公示されることになっている。

     また、物権又は物権的権利の権利変動だけでなく、例えば特許法等の産業財産権の場合、物権的権利ではない通常実施権について特許権の譲受人等に対抗するためには、登録が必要である。不動産の場合についても、民法では、物権ではない賃借権は登記がないとその後に不動産の物権を取得した者に対抗できないことになっている(民法第605条)が、借地借家法により、例えば借家の場合、登記がなくても建物の引渡しがあった後は、賃借人による建物の占有を公示と考え、その後にその建物の物権を取得した者に対し対抗できることとしている(借地借家法第31条第1項)。

     なお、著作権法の著作権又は著作隣接権に関する登録は、特許権等の産業財産権の権利設定登録や不動産登記の保存登記と異なり、著作物等を創作等した時点では何らの登録も必要としなことから、対抗要件の登録であれば、権利変動があって始めて、登録申請が行われ、著作物等ごとに登録原簿が作成されることになる。この登録制度は、様々な理由から活用されているとは言えず、平成14年度実績で、例えば、著作権譲渡の登録は、プログラムの著作物が67件、その他の著作物が237件の合計304件にとどまっている。

    [2] 公示による制度

    ア.登録

    (ア)基本的な考え方
     著作権等の譲受人が第三者に著作権等を主張するためには登録が必要であるとの現行制度を前提にすると、それに対抗して利用許諾契約に基づく利用者を保護するためには、現行制度との均衡上、利用許諾契約に関する登録制度を創設するのが最も分かりやすい方法である。

     著作権等に関する登録制度は余り利用されていないとはいえ、著作権等の場合においても、他の物権又は物権的権利と同様、著作権等の二重譲渡等が行われた場合、誰が本当の権利者であるかを確定するためには、登録を必要としている。権利変動に関する登記・登録制度の必要性の有無については、物権又は物権的権利全体の問題にも係わることであり、この制度の変更が難しいと言うことであれば、著作権等の譲渡取引と利用許諾に係る取引との優劣を争う際に、特に利用許諾に係る取引について、登録による公示の必要性がないという特別な理由が見出せない限り、特許等の通常実施権の登録のように、登録による公示の制度を基本として制度の仕組を考える必要がある。

    (イ)問題点等
     ただし、利用許諾に係る登録制度を考える場合、例えば次のような問題があるので、現在の登録制度と同様の制度にするかどうかは再検討が必要である。

    a. 現在の登録申請は著作物等ごとに行われており、登録原簿は著作物等ごとに調製される。利用許諾に関する登録について、この制度との整合性をとろうとすると、申請は著作物等ごとに行う必要があるが一つの契約の中で多数の著作物等の利用を許諾することも多いこと、著作権等の譲渡取引に比べて利用許諾に関する取引の件数は比較にならないぐらい多いことなどから、現行の制度の拡大による登録制度は、申請に係る手続きの煩雑さや登録免許税などの経済的負担の問題から、利用者が活用しにくい制度になる可能性がある。
    b. 利用許諾契約の内容が公示により明らかになることは取引内容の秘密保護の点で支障となる場合がある。
    c. 著作物等の利用許諾の取引は、著作権等の譲渡の取引とは異なり、著作権等の移転が伴うものではないこと、一の権利者が多数の契約を結ぶものであること等から、権利者(許諾者)及び利用者の両者による登録申請しか認めない場合、権利者の協力が得られない可能性がある。

     このような理由から、登録による公示制度を採用する場合には、必ずしも著作権等の譲渡のような精緻な登録制度である必要はないのではないかと考える。
     例えば、著作物等ごとの登録ではなく利用許諾契約ごとの登録にした上で、登録原簿を見ただけでは利用許諾契約の内容の詳細はわからないが、著作物等を譲り受けようとする者が調査することが可能な程度に対象となる著作物等を示し、誰と誰とが何時利用許諾契約を締結したか等、著作物等を利用する権利を識別し得る最低限の情報を公示するだけの簡易な登録制度なども検討の余地があると考えられる。

     この場合、著作権等を譲り受けようとする者は、利用許諾の具体的な内容を把握するためには、権利者に説明を求めたり、利用許諾契約の開示を求めたりしつつ、契約内容を確認する手続きの負担を負うことになるが、著作権等の譲渡に限らず、業務上取引をする場合は相手方の信用度や説明の信憑性などについて調査を行うのは当然のことであるから、このような調査を行うことは大きな問題ではないと考える。

    イ.事業化の事実

    (ア)基本的な考え方
     登録によらない制度としては、利用許諾契約に基づき、著作物等の複製物の製造・販売等の事業を行っているという事実をもって、著作権等の譲受人に対抗することができることとする制度が考えられる。これは、事業化の事実があれば著作権等を譲り受けようとする者は、著作権等の譲渡取引の前に当該事実を認識できたはずであるとして、事業化の事実を一種の公示と考え、対抗要件を付与しようとするものであり、先述の不動産の占有を公示と考える制度と類似している。また、特許法では、対抗要件の制度ではないが、先使用という考え方があり、特許出願の内容を知らないで発明の実施である事業をしている者又は実施の準備をしている者は、一定の条件の下で、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有するとしており(特許法第79条)、この制度も参考になっている。

    (イ)問題点等
     この制度については、不動産の占有の場合は一般に占有の事実が外部から容易に確認できるのと異なり、事業を行っている事実の認定が難しいものにならざるを得ない。例えば適法な利用かどうかを見極めるため利用許諾契約の内容を開示させる必要があるかどうか、継続的に著作物等が利用されているかどうかの判断基準をどのように定めるか等の解決すべき問題が多いと考えられる。また、かかる事実の認定は最終的には裁判所が決めることになるが、認定基準があいまいなものであれば、著作権等の譲受人や利用者は、事業の新たな実施や継続的な実施に大きな危険負担を抱えることになり、かえって利用秩序が混乱することも考えられる。

     なお、特許法の先使用制度に類似した制度として、対抗要件によらない制度と位置付けることは可能であると考える。例えば、事業化の事実があれば、独占性は保護されないが引き続き著作物等を利用できるという制度が考えられるが、著作権等の譲受人が被る不利益や独占性の保護の問題などの検討が必要なことに加え、破産法改正との関係で対抗要件によらない制度には問題がある。

    [3] 公示によらない制度(書面による契約)

    (ア)基本的な考え方
     公示によらない制度としては、利用許諾契約が書面(電子契約を含む)によりなされているときは、その事実をもって、著作権等の譲受人に対抗できるとすることが考えられる。法体系が異なるため対抗要件制度とは言えないが、例えば米国著作権法(第205条(e)*22)に類例がある制度であり、利用許諾の膨大な件数に関し登録機関に申請する必要がないこと(煩雑な申請手続きや登録免許税の支払いが不要)や本来秘密にしておきたい取引実態が明らかにされないことなどの点で利用者側に利点があり、考慮に値する制度と考える。

    (イ)問題点等
     制度上の問題としては、我が国のように物権又は物権的権利の変動について、登記・登録等による公示を必要とする制度の下で、債権が物権又は物権的権利より優先的効力を有するとの一般原則に関する例外的措置として、公示を必要としない簡単な方法によって対抗要件を付与する制度を設ける理由をどう説明するかである。

     この場合、著作権等の譲渡等の取引との比較において、著作権等の譲受人は利用許諾契約の存在を知らないまま著作権等の譲渡契約を結ぶ可能性があるという著作権等の譲受人側の不利益(著作権等の譲渡取引の安全性の低下)についてどう考えるか、また、特に著作権等の場合は、権利の対象となる著作物等は日常的に創作等が行われており、著作権等の譲渡取引や利用許諾の取引も日常的に行われているが、先述したように登録制度が余り利用されているとは言えない現状において、著作権等の譲受人は登録機関に申請し登録しないと利用許諾契約に基づく利用者に対抗できないこととのバランスをどう考えるか等の検討が充分行われる必要がある。

     著作権等の譲受人が被る不利益については、著作権等の無体物に対する権利は、有体物のそれとは異なり、仮に著作権等の譲受人が著作権等の譲渡契約時に利用許諾契約の存在を知ることができなかったとしても、当該利用許諾契約の利用者に対し、著作権等を主張できないだけであり、自ら利用すること、及び第三者と新たに利用許諾契約を締結することができるので、著作権等の譲受人が被る不利益は受忍限度内であり問題ないとする意見があるところである。

     確かに有体物と無体物では権利の性質は違うが、後述する「利用許諾契約に基づく許諾者の地位の承継」との関係で、利用許諾契約により、利用者が著作物等を独占的に利用することができる権利を有している場合には、許諾者の地位の承継の態様によっては、著作権等の譲受人は第三者に新たに利用を許諾することが制限される可能性があるなどの問題もある。

     以上のように、この制度は著作権等の譲受人にとって利益になるものとは考えられないが、この不利益が譲受人にとって受忍限度内のものであるかどうか。また、仮に当該不利益が受忍限度外とすれば、それを軽減するための制度的措置が考えられるかどうかなどについて詳細な検討が必要である。

     なお、書面による契約については、著作権等の譲渡が行われたのを知ってから契約書を作成するなどの可能性もあることから、契約締結の事実が客観的に証明されるよう確定日付きの証書にしておく必要性も検討する必要がある。


    * 22 第205条(e)矛盾する著作権の移転および非独占的使用許諾の間の優先
     非独占的使用許諾は、使用許諾の対象となる権利の保有者またはその適法に授権された代理人が署名した書面によって証明され、かつ、以下のいずれかにあたる場合には、登記されているか否かを問わず、矛盾する著作権の移転に優先する。
    (1)使用許諾が移転の実行前に受けられたこと。
    (2)使用許諾が移転の登記の前に行われかつそれを知ることなく善意で受けられたこと。
    出典:山本隆司・増田雅子 共訳『外国著作権法令集(29)―アメリカ編― 』(社団法人 著作権情報センター、2000年)p.123
    ※なお、米国著作権法では、「独占的使用許諾(exclusive license)」を「譲渡(assignment)」と同様に「著作権の移転("transfer of copyright ownership")」の概念に含めている。(第101条)


    (2)対抗要件によらない保護(利用許諾契約の承継)

    [1] 基本的な考え方
     著作権等の譲受人が悪意の場合、すなわち利用許諾契約を承知している場合に利用許諾契約を承継させる(譲受人が善意無過失で利用許諾契約を承知していない場合には譲受人は利用許諾契約を承継せず、譲受人に軽過失があって利用許諾契約を承知していない場合には譲受人は利用許諾契約を承継するものの独占性については承継せず、譲受人に故意又は重過失がある場合には譲受人は独占性を含め承継することとする)制度は、利用許諾関係が、著作権等と結合する一種の状態債務関係として著作権等とともに移転するという考え方に基づくものであり、我が国の物権又は物権的権利に係る対抗制度の在り方に影響を与えず、かつ著作権等の譲受人が契約関係を承継するため、利用者が著作物等を利用する権利は保護することが可能である。

    [2] 問題点等
     この制度については、主として譲受人側の事情によって契約関係の承継の形態等が決まるため、利用者側が主体的に利用の継続のための措置を講じる手立てがない等の点で、利用者の保護に欠けるとの意見がある。また、先述の破産法の改正との関係で、対抗要件によらない制度は、破産時の保護に問題を残すことになる。

    4 利用許諾契約に基づく許諾者の地位の承継について

     利用許諾に関し利用者が著作権等の譲受人に対する対抗要件を備えた場合、利用者は利用許諾契約に基づく法律関係を譲受人に主張できることになるが、それとは別に、利用許諾契約に基づく許諾者の地位が当該譲受人に承継されるかどうかが問題となるため、基本的な考え方について次のとおり整理を行った。

    (1)不動産の場合の考え方

     不動産の譲渡取引においては、建物の賃借人が対抗要件を備えた場合、賃貸借契約上の賃貸人の地位は、法律上明文の規定はないものの、不動産の譲受人がその地位を承継するというのが最高裁の判断である。

     不動産の賃貸借契約については、定型的な契約が一般的であり、不動産の譲渡取引に伴って賃貸借契約の全内容が不動産の譲受人に承継された方が、賃借人は以前と同様の条件で不動産を使うことができ、また賃貸人も改めて契約することなく賃料を請求できることとなるので、契約関係は安定し双方にとって利点が多いことになる。

    (2)著作権等の場合の考え方の整理

     著作権制度において対抗要件の制度を設けた場合、利用者保護の観点から、例えば、許諾者の地位の承継について、承継される内容を制限する旨を法律に規定することや、承継されないことを法律に規定するという方法も考えられるが、利用許諾契約の内容は多種多様であり法定すべき内容や範囲を特定するのは困難であることや他の同様の制度との整合性等から適当ではなく、基本的には学説や判例の蓄積により一定の秩序形成を図るべきである。

     しかしながら、利用許諾に関し利用者が対抗要件を備えた場合、著作権等が第三者に譲渡された際に利用許諾契約がどのように取り扱われるかは、利用者保護の制度を考える場合の重要な視点であることから、基本的な問題点は整理しておく必要がある。問題点等を整理すると次のとおりである。

    [1]  利用許諾契約から生じる著作物等を独占的に利用することができる権利を保護しようとするならば、著作権等の譲渡に伴い許諾者としての地位が著作権等の譲受人に承継され、この権利も引き継がれると考えれば解決できる。

    [2]  複数の著作権等に係る利用許諾契約に関し、契約の対象となっている著作権等のうち一部が譲渡された場合、著作物等の保守・保証、著作物等の共同開発など利用許諾契約の中に著作権等の譲受人による履行が困難又は不可能な債務が含まれている場合などについては、許諾者の債権・債務が全て譲受人に承継されることとしても、譲受人は債務の履行ができないおそれがあるので、このような場合には、承継されるものとされないものについて何らかの調整をすることが考えられる。なお、この場合、利用許諾契約の中で承継できる事項とできない事項を当事者間であらかじめ詳細に決めておくなどの方法により、調整を容易にしておくことも必要である。

    [3]  クロスライセンス契約の場合、契約当事者が相互に相手方の相当数の知的財産を自由に利用できることとしているため、望まない著作権等の譲受人に利用者の有する知的財産を利用させないため、許諾者としての地位は当該譲受人に承継されないとすべきとの考え方があるが、この場合、例えば、
    著作権等の譲受人は自らの著作物等が利用されているにもかかわらず使用料が請求できないこと、
    著作権等の譲渡人は著作権等を有しないにもかかわらず利用許諾契約から離脱しないため利用許諾契約の履行が困難又は不可能になる可能性があること、
    著作権等の譲渡人が法人である場合であって、当該法人が消滅した場合もイと同様の問題が起こること、
    等から利用許諾契約の内容が一切著作権等の譲受人に承継されないという考え方には問題がある。

    [4]  著作権法上、著作物等を利用する権利は、権利者の承諾を得ない限り譲渡することができないこと(第63条第3項)から、クロスライセンス契約の場合、著作権等の譲渡取引に伴い、著作権等の譲渡人が利用許諾契約の相手方から得ている著作物等を利用する権利が当然に譲受人に移転するものではない。

    [5]  例えばプログラムの著作物の利用許諾契約では、当該著作物の改変などに対応して著作者人格権の不行使に同意する条項が見られるが、その法的拘束力の問題は別として、著作者人格権は著作者に与えられた譲渡不可能な権利であるので、この契約関係は著作権等の譲渡人(著作者)に残ると考えざるをえない。

    [6]  著作権等の譲渡取引の際、譲渡人と譲受人の契約により、譲渡した著作権等に関し、譲渡前に締結した利用許諾にかかるサブライセンスを認めることなど、譲受人が債務を引き受けるにあたって一定の条件を付すことは可能と考えられるが、利用許諾に関し利用者が対抗要件を備えた場合には、利用者の継続利用を妨げるような内容の契約はできないと考えられる。

     以上の点から、許諾者の地位の承継については、不動産の場合における考え方を参考に、許諾者の地位は著作権等の譲受人に承継されることを基本として考えるべきである。なお、利用許諾契約の中に著作権等の譲受人にとって債務の履行が困難又は不可能な契約内容が含まれている場合、クロスライセンス契約のように利用者が著作権等の譲受人による利用者側の著作物等の利用を望んでない場合、著作権等の譲渡人と譲受人又は利用者との間で特別の取り決めがされている場合等については、例えば、利用許諾契約が著作権等の譲渡人、譲受人及び利用者の三者による契約に移行すると考えられないか、その場合契約の変容について利用者の承諾をどのように考えるか等、著作物等の円滑な利用が実現できるよう合理的な解釈が求められるところである。

    5 まとめ

     契約流通小委員会は、平成14年度及び本年度の検討結果を踏まえ、著作物等の利用許諾契約における利用者の保護について、次のように提言する。

    [1]  利用者保護については、破産法・民法等の現行法の適用、利用許諾契約及び著作権等の譲渡契約における契約条項の改善等により相当程度解決できると考えられるので、今後も関係者においては、現行法の適用や契約による利用の継続の方法について調査研究を進める必要があるが、著作物等の流通の促進に伴い、今後著作権等の譲渡取引等はますます多くなると思われるので、利用秩序に関する基盤整備の一環として利用者保護の制度整備を図ることが望ましい。

    [2]  制度整備に当たっては、破産時における破産管財人の利用許諾契約の解除の場合のみならず、著作権等の譲渡に伴う利用許諾契約との関係も視野に入れた制度設計が必要と考える。

    [3]  現行制度との整合性や破産法における双方未履行契約における破産管財人の解除権制限に対する改正案の内容から、著作権制度において、利用許諾契約に基づく利用者の保護を図るとすれば、それは対抗要件の制度によるべきである。
     この場合、現行制度を前提とすれば、登録による公示の制度を基本とすべきであると考えるが、申請に係る手続きの煩雑さや利用許諾契約の内容が公示により明らかになることは取引内容の秘密保護の点で支障があるなどの意見に配慮し、現行の著作権等に関する登録制度の仕組みにとらわれることなく、申請手続、公示される内容等についてはできるだけ利用者の要望に配慮した制度になるよう、著作物等を利用する権利を識別し得る最低限の情報を公示するだけの簡易な制度も含め登録制度の在り方について十分に検討する必要がある。
     なお、公示によらず対抗要件を付与する制度(書面による契約)については、利用者の利便性の観点から考慮に値する制度と考えるが、現行制度の前提を大きく変えるものであり、慎重な検討が必要である。

    [4]  利用者が対抗要件を取得した場合の利用許諾契約における許諾者の地位の承継については、法律で一定の制限を加える等の措置をすることは適当ではなく、基本的には判例・学説の蓄積により秩序形成を図るべきである。なお、契約の承継の在り方については、不動産の場合における考え方を参考に、著作権等の譲受人に承継されることを基本として考えるべきであるが、著作物等の利用許諾契約は、不動産における賃貸借契約と違い複雑な契約形態であるものも多いことから、今後も関係者間で研究が行われる必要がある。

    [5]  最後に、利用者の保護については、知的財産権全般に通じる制度設計が求められているところであり、著作権制度のみが特別な対抗要件制度を設けることは適切ではないので、他の知的財産権における同様の検討を待った上で、整合性のある制度にすべきである。

    II 著作物等に係る登録制度の在り方

    1 プログラムの著作物に係る登録の実施主体について

    (1)現行制度

     プログラムの著作物に係る登録については、プログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律(プログラム登録特例法)により、文化庁長官が指定する者(指定登録機関)に登録事務の全部又は一部を行わせることができるとしており、その指定の基準について、文化庁長官が定める研修を修了した者が登録を実施すること、登録事務を適確かつ円滑に行う経理的基礎及び技術能力を有すること、民法第34条の規定により設立された法人(公益法人)であることなどを定めている。

     指定登録機関にプログラムの著作物に係る登録事務を行わせることができるようにした理由は、

    [1]  プログラムの開発には、通常、高度な専門知識に加え、多大の時間、労力、費用が投じられるものであり、その経済的価値は非常に高いにもかかわらず、その複製は比較的容易であり、また、開発の実態は、他社にプログラムの製作を委嘱し、作成されたプログラムの著作権を譲り受ける場合も多いことから、プログラムの場合、登録により権利保全しておく必要性が他の著作物と比べて高いと考えられ、多くの申請が予想されるプログラムの登録事務について、それを適確かつ迅速に処理するためには、それに応じた相当の人的・物的条件を整備することが必要であること

    [2]  著作権制度における登録は、申請書及びそれに伴う添付資料の内容が法令に定めた要件に合致しているかどうかを審査する形式審査であることから、中立性・公正性等を十分に保障し得る制度の下に登録事務を公益法人に行わせることは可能であり、むしろ行政の効率化という面から適切であると考えられたこと

    などからであり、同時に指定登録機関の役職員への秘密保持義務の付与、みなし公務員規定の適用、登録事務規程及び事業計画の認可、役員又は登録実施者の選任又は解任の認可、登録事務の休廃止の許可など、公正的確な登録事務が確保されるよう必要な規定の整備が行われた。

     このプログラム登録特例法に基づき、昭和62年1月、(財)ソフトウェア情報センターが指定登録機関として指定され、昭和62年4月から、プログラム登録事務の全部を実施しているところである。

    (2)規制緩和推進3ヵ年計画における提言

     平成15年3月28日に閣議決定された、「規制改革推進3ヵ年計画(再改定)」では、民間参入の拡大による官製市場の見直しに関して、「プログラムの著作物の登録については、既に公益法人が指定法人として全面的に事務を行っているところであるが、当該事務を行わせることができる指定法人を公益法人に限定しないことも含め、当該事務の実施主体の在り方について、見直しを図る。」とされている。この計画の提言に基づき、プログラム登録事務の実施主体の在り方について検討を行った。

    (3)検討の結果

     現行の指定基準では公益法人であることが要件となっている。本来国が行うべき登録事務を指定登録機関に行わせるためには、その中立性・公正性等が十分に保障されていなければならないことから、公益に関する事業を行う非営利の法人であり、主務官庁による設立の許可及び指導監督が行われる公益法人に限り指定できることとしたものである。

     本来国が行うべき事務を他の機関に行わせるためには、どのような場合であっても、その機関の中立性・公正性等が充分に保障されるとともに、当該事務が適確に遂行される必要があることはいうまでもない。ただし、規制改革を推進する我が国政府の方針を踏まえ、この問題を考えた場合、

    [1]  一定の業務規制を行うとともに、定期的な検査等を的確に行えば、公益法人以外の機関であっても円滑な登録の実施は確保できると思われること

    [2]  登録事務は形式的な事務であり、仮に円滑な登録を阻害するような業務の実施が行われたとしても、例えば、業務改善命令や指定登録機関の取り消し等の事後的措置によって、充分に申請者の利益が保護できると思われること

    などから、公益法人要件を維持しなければならない積極的な理由は乏しいと考えられるので、公益法人要件は廃止することが適当である。なお、公益法人要件を廃止する際には、登録事務の円滑な実施を確保するための方策等について検討する必要がある。

     また、指定登録機関制度を廃止し、一定の要件を備えた法人について登録制として、当該登録機関が著作権の登録事務を行うという考え方もあるが、著作権の場合、

    [1]  他の知的財産権のような権利発生要件の登録制度ではなく、不動産登記における保存登記のような制度がないため、全ての著作物等が登録されているわけではないこと

    [2]  権利変動の登録のみならず、第一発行(公表)、無名・変名での公表、プログラムの著作物の創作など、ある事実が生じたときにそのことを公示するための登録制度があるため、登録の継続性がない(例えば、著作権者が著作権の譲渡登録をした後に、著作者が実名の登録をすることもできる)こと

    などから、仮に多数の登録機関が存在して、プログラムの著作物に係る登録事務を行うこととなると、同一の著作物が複数の機関に登録されることのないよう、申請しようとする著作物等が既に登録されているかどうか確認する必要が生じること等から、利用者等の事務手続きは煩雑なものにならざるを得ない。また、ネットワークを構築し複数機関の登録を一元化することにより問題を解決することも考えられるが、一定の要件さえ備えれば多数の登録機関が存在しうることになると、このようなネットワークを整備・維持するための経費の負担が問題になるので、当面は指定登録機関制度を維持すべきであると考えられる。

    2 著作物等に係る登録制度全般について

    (1)現行制度

     我が国の著作権法は、権利の発生については無方式主義を採っており登録は権利取得の要件ではないが、権利の変動を公示するためやその他の特別な目的のため、以下の登録制度を設けている。

    [1] 権利の変動を公示するための登録(第三者対抗要件)
    • 著作権の登録(第77条)
       著作権の移転又は処分の制限、著作権を目的とする質権の設定、移転等があった場合の当該事実の登録。

    • 出版権の登録(第88条)
       出版権の設定、移転、変更等、出版権を目的とする質権の設定、移転等があった場合の当該事実の登録。

    • 著作隣接権の登録(第104条)
       著作隣接権の移転又は処分の制限、著作隣接権を目的とする質権の設定、移転等があった場合の当該事実の登録。
    [2] その他の目的のための登録
    • 実名の登録(第75条)
       無名又は変名で公表された著作物の著作者が、実名の登録を受けることができる。登録の効果として、実名の登録がなされている者が登録に係る著作物の著作者であるとの推定を受ける。

    • 第一発行(公表)年月日等の登録(第76条)
       発行又は公表された著作物について、その最初の発行年月日又は公表年月日の登録を受けることができる。登録の効果として、登録原簿に登録された年月日に第一発行又は公表があったものとの推定を受ける。

    • 創作年月日の登録(第76条の2)
       プログラムの著作物の著作者が、当該著作物を創作した年月日の登録を受けることができる。登録の効果として、登録原簿に登録された年月日に創作があったものとの推定を受ける。
     著作物等に係る登録申請件数は、年間1,400件前後で推移しており、著作権等の取引や発行(公表)、創作の現状を考えると件数が多いとはいえない。現状では、著作物等に係る登録の申請を行うのは、登録によって得られる法的効果を必要とする者に限られており、例えば著作権の譲渡の登録(第77条)については、著作権の譲渡契約時に譲渡人による二重譲渡等の心配がなければ権利変動の効力を主張する必要が生じないので、登録申請が行われていないという状況がある。

    (2)検討の結果

     著作物等に係る登録制度について、著作物流通促進の観点から、新たな登録制度創設の必要性などについて検討を行った。

    [1] 創作年月日の登録の対象となる著作物の拡大
     プログラムの著作物に係る登録制度として、著作物の創作年月日の登録が設けられている。この制度は、プログラムの著作物は他の著作物と異なり、開発した企業等の内部において利用されたり開発を委託した特定のユーザのみが利用するなど、未公表のまま利用されることが多く、第一発行(公表)年月日の登録制度を活用できる場合が限定されていることから、プログラムの著作物に限り特別に設けられた制度である。

     この創作年月日の登録をプログラムの著作物以外の著作物に拡大してほしいという要望がある。その背景には、創作年月日の登録の結果としての事実上の効果、すなわち登録に係る著作物の著作者が誰であるかを公示するという効果を期待するところがあると考えられる。

     著作物の創作年月日の登録は、旧著作権法において認められていた著作年月日の登録制度と類似の制度であるが、現行著作権法が制定された際に、[1] 著作年月日を証明することは実際上難しいこと、[2] 第一発行年月日の登録制度の改善が図られるため制度を維持する必要性が低いこと等を考慮し、これを廃止したという経緯がある。

     登録制度の活用状況、登録の効果等を総合的に勘案すると、現状において、現行制度創設時の理由を否定すべき特段の状況の変化は認められないことから、創作年月日の登録の対象となる著作物を拡大する必要性は乏しいと考えられる。

    [2] 登録原簿の調製
     我が国では、e-Japan戦略等に基づき、電子政府構想を進めているところである。行政内部の電子化、インターネットを活用した電子申請、行政情報のインターネット公開・利用促進等の取り組みが進められていることから、登録原簿について帳簿をもって調製することとしている現行制度については、コンピュータ時代に合わせた検索しやすい媒体をもって調製できるように変更することが適当である。

    (参考)著作権に関する登録申請件数の推移

    表1:権利の変動を公示するための登録(第三者対抗要件)の申請件数の推移

    表2:その他の目的のための登録の申請件数の推移

    III その他

    1 著作権等の集中管理事業の在り方について

     著作権等管理事業法が施行され二年経ち、特に大きな制度上の問題は生じていないと評価できるとの意見が多かったが、同法附則第7条に基づく施行三年を経過した場合の評価を契機とし、次のような点について検討することが必要であるとの意見があった。
    • 指定管理事業者の使用料規程の制定・変更について、利用者代表以外の利用者の声が反映されにくいこと、利用者代表がいない「利用区分」における意見の聴取が困難であること等の問題がある。

    • 指定管理事業者と利用者代表の協議が成立しないときは文化庁長官による裁定の制度を利用できるが、裁定制度の趣旨を活かし、裁定制度をどのように活用していくかの問題がある。

    • 著作権等管理事業法の規制が及ばない非一任型の管理事業者、及び指定管理事業者以外の著作権等管理事業者の在り方について、著作物等の利用の円滑化という観点から、制度上の問題も含めどのように取り扱うかの問題がある。
    2 「意思表示システム」の整備・普及について

     文化庁が本年2月に策定した「自由利用マーク」の普及等について、次のような意見があった。
    • 一般の人に対しては、まずマークの存在そのものを知ってもらうための広報が必要であり、次にマークを付けようと思っている著作権者に対し、どうすればマークを自分の著作物に付けることができるかを分かりやすく説明するための広報が必要である。

    • 「自由利用マーク」は、「コピーOK」「障害者OK」「学校教育OK」の3種類のマークがあるが、これらについて一律の普及方法をとる必要はなく著作権者の理解が得られやすいと思われる「障害者OK」「学校教育OK」マークから普及を進めることも一案である。

    • 広く一般に周知されることを目的として作成される国・地方公共団体の著作物については、「自由利用マーク」の活用が期待される分野であり、今後も国・地方公共団体に対し積極的な働きかけを行うべきである。

    • 「自由利用マーク」は、マークを付ける側とマークの付いた著作物を利用する側の双方が、著作権法を理解している必要があるので、マークの普及を進めるのであれば同時に著作権教育の普及に力を入れることが重要である。
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