Hatena::Diary

生駒日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2009-01-19

日本の大学院で博士に進学するということ

日本の大学院で博士に進学するということ - 生駒日記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 日本の大学院で博士に進学するということ - 生駒日記 日本の大学院で博士に進学するということ - 生駒日記 のブックマークコメント

書き忘れないうちに専門教育に関して悩まれている人へ贈る言葉裕福じゃないと博士後期課程に行けないとは限らないをメモしておく。

前者は日本で大学院に行くのはお金の無駄だからアメリカに行け、という内容。後者は日本で大学院に行くのも賢くやれば費用はかからない、という内容。少し詳しく見てみる。

まず前者から。

第二に、もし学位(Ph.D.)をアメリカでとるのであれば、日本でやっていたマスターの二年間もそのお金も完全に無駄になる。少なくともアメリカのresearch universityでは、自然科学系の修士課程(マスターをとることを目標としたプログラム)というものは事実上存在していない(要はすべてがPh.D. program)ため、もう一度、アメリカ中の有名大学からピンに近い成績でやってきた新卒たちとゼロからコースワーク(専門の基礎教育)をやり直すことになる。

第三に、マスターを持っていても研究者の世界ではほぼ何の足しにもならないし、たいした尊敬は得られない。これは知る人ぞ知るだと思いますが、アメリカにおけるMSというのは、優秀な学生であれば、実は大学四年間の間に、卒業と一緒にもらう程度のものであり(例えばYaleのようなトップスクールでは、当たり前とはいいませんが、大学卒業と一緒にとる連中は結構ゴロゴロいます)、もしくはPh.D. programを1年程度ちゃんと在学して、ドロップアウトしたときにかわいそうなので学校がくれる学位という位置づけにすぎない。

だから、多くのアメリカ人研究者はマスターを持っていない、もしくはPh.D.授与のときに一応一緒にもらってもそのことはCVのどこにも現れない。

(中略)

忙しいとか金がないとかそう言う言い訳をしない。研究の場合は特にそうです。なぜなら、米国のPh.D.プログラムは自然科学系の場合、100%大学が学費と生活費を出してくれるのです。すなわち、日本でマスターをとる方がはるかにお金がかかるのです。何しろもらいながら学生をやるのと、払いながら学生をやるのの違いですから。

自分が高校生くらいからやり直せるとしたら、大学は浪人してしっかり受験勉強してから日本の大学に行って、留年はしないで普通に4年で卒業して大学院でアメリカへ、というコースを辿りたいなぁ。日本の修士号がアメリカではなんの意味もないというのは NAIST に来てから知った(M2 でこのまま同じ研究室に止まるか、外部に出るかしばらく考えた)のだが、2年間勉強して修士号取ったのにまた2年やり直すのはちょっともう無理だと思ったので、留学断念した(まあその代わり Microsoft に3ヶ月行ってそれはそれでよかった)からであった。そういうこと早く知っておきたかったなぁ、と思う。

あと、確かにお金がないことは(修士で NAIST に入学することの)言い訳だったのだが、そこまで(アメリカの)大学が学費と生活費を出してくれることも知らなかったので、それも知っていたら選択は違ったと思う(でも松本研に来るのと奨学金はくれるけどいまいちなところに行くんだったら松本研に来るほうが賢明だろう)。学部での留学は大学院ほどお金出してくれないし、そういう意味でやはり日本の大学-アメリカの大学院というのが一番コストパフォーマンス高いだろう(日本の教育は、研究に関して言えばそこまで悪くない。少なくともオーストラリアと比べたら、日本のほうがよいと思う)。

で、ここからが後者の id:shichiseki さんの話。

奨学金の支援が少ない日本でも上手くたち振る舞えば,親にかかる金銭的な負担を減らすことが出来ます(体裁的な部分の負担は減らせませんが).

(中略)

ではどうやってお金をかけずに博士後期課程まで行くか.まず,各段階において授業料を免除してもらうこと.僕は高専の3年生ぐらいから授業料を免除してもらっていました.専攻科も最初の半期は前年の所得がネックで免除されませんでしたが,以後の一年半は免除してもらいました.高専は授業料の免除が得られやすい(成績も1/3に入っていれば十分でした)ので僕はとてもラッキーでした.普通高校だと難しいでしょう.というわけで,高専本科+専攻科を上手く使えば授業料をかなり削減して学士を取ることが出来ます.

大学院は学部を持たない大学院がおすすめです.奈良と北陸にあります.これらの大学は他の大学から学生を取ってくる必要があるため,いろんなメリットをつけて学生を引きつけようとしています.その一つに奨学金や授業料免除が得られやすいというメリットがあります.僕は修士の時は授業料を半額免除,博士課程になってからは全額免除してもらっています.奨学金も研究成果をそれなりに出せば免除される可能性があります.僕が所属しているNAISTだと,体感ですが博士後期課程に行っている人の半分ぐらいは修士課程での奨学金を半額免除されているんじゃないでしょうか.

日本でも別に大学院に通ってもお金はかかりませんよ、というのは自分も同じで、大学院に入ってから完全に大学からもらうお金(と少しの雑収入。原稿代とか)だけで生活している。奈良は生活費が安いというのもあるが、日本学生支援機構の奨学金を使わなくてもなんとか生活できる(一応もらっておいて半額もしくは全額免除してもらうのがいいと思う。自分は修士の奨学金は全額免除、博士の奨学金は半額免除だった)。

学生を支援する体制も強力で、こういう形で学生自身にお金を支給するのもあれば、学生が立案・実行する研究にも研究費をつける(教授に言われてやる研究ではないので予算の使い方も自由)プロジェクトが毎年のようにあるので、金銭的には非常に恵まれている(もちろんスタッフにも)。NAIST に来てからパソコンって買ったことないし、買う気もなくなった(パーツも消耗品としてちょこちょこ買える)。

そうすると純粋に日本の大学院とアメリカの大学院に行くのの違いは研究のレベルやネットワークの構築の部分だと思うのだが、どっちがいいんだろうなぁ。人それぞれだと思うし、アメリカのほうが刺激的だとは思うが、じっくり研究したい人は日本が向いているんじゃないかな? 日本にいても世界レベルの研究をする院生もいるし……。自分や名大の萩原さんのように、日本にいるけど数年に1回くらいは海外でリサーチインターンする(もしくは短期留学する)、という両者の中間のような立ち位置もあるし、要は「こんな道もありますよ、あんな道もありますよ」という可能性を若い人に見せてあげるのが大事なんだと思う。そういう道があると知っていればやっていたのに、とあとから知ったら残念に思う、そういう経験をする人を減らしていけば、それなりにうまい塩梅になるのではないかな?

あと最後にフィンランドにおける Ph.D. Defence。イギリスも Ph.D. 取るのはかなり厳しいという話だし、国によっていろいろ違いがあっておもしろい(笑)

tgbttgbt 2009/01/19 16:41 私が通っている某大学(大学院)では授業料免除の基準に家計収入がある(おそらく一番のウェイトを占めている)ため,中途半端に裕福だとむしろ博士後期課程まで進学しにくい感じがします.NAISTだとその辺の事情が違うのでしょうか?
それから,奨学金の免除は学長推薦のようなので,学長表彰等を得やすい研究ないしその他活動をしているかどうかが影響しそうです.

takekitakeki 2009/01/19 16:53 前者については僕の専攻(経済学)でも似たような感じです。
ただ、アメリカの奨学金は成績に大きく左右されるようなので、その分成績に一喜一憂する度合いが大きいかも。(僕は外部から奨学金を得ているので関係ないですが)
あと、留学生は自国でMAとってきている人が多いです。英語でいきなり専門的なことを勉強するより、母国語で一度学んだものを語学をかねて再学習、って感じなんでしょうか。その分、アメリカ人の学部卒の人のドロップアウト率は高くなります。


後者は、アメリカ中西部の生活環境は思っていたよりはるかに悪いのでw、たぶん同レベルの研究ができて、お金の心配もないなら、いまだったら日本を選ぶような気もする。
なんだかんだいって、日本はかなり住みやすい国だと思います。外国人にとってはどうかわかりませんが。逆に、アメリカは外国人(特に非英語話者)にとってはかなり住みにくい国のような気がします。。。これって中西部だけなのかな。

mamorukmamoruk 2009/01/19 17:01 そうですね、中途半端に裕福だと免除は受けられませんが、独立生計者になれば(つまり実家から通わず、生活費は全部自分で稼ぎ、健康保険料も自分で納める)まず免除されるので、最初からそうするつもりで動けば免除されると思います。逆に言えば親から(有形もしくは無形の)生活費をもらっているのであれば、家庭としてそんなに困窮しているわけではないので、授業料は支払えるのではないでしょうか……(自分の同期は奨学金もらってなおかつ NAIST で TA/RA やって授業料や生活費を捻出し、実家に仕送りしている人までいました)

奨学金の免除に関しては研究科ごとに基準を設けられるようで、NAIST に関しては基準が全学に公開されている(国内の研究会の発表1本何点、国際会議1回何点、ジャーナル1本何点、特許1個何点、成績の平均x何点、みたいな)ので、確かに表彰を得やすい研究は優遇されると思いますが、それは研究が優れているから賞がもらえるということで、結局優遇されようがされまいが免除対象になるんではないかと思います。NAIST は日本学生支援機構の奨学金もらう人の3割程度(1割が全額2割が半額)が免除枠になっているようで、特に博士後期課程進学者にとっては割と免除のハードルは低いと思います(修士で就職する人は認められにくいかも)。

mamorukmamoruk 2009/01/19 17:55 takekiくんひさしぶり〜 今年はアメリカの経済状態があまりよろしくないみたいで、海外にインターンシップに行く計画、修正を余儀なくされています……

大学院まで来て成績で一喜一憂はしたくないと思いますが、まあそれが高いパフォーマンスにつながるんでしょうね。尻を叩かれないとちゃんとやらない、みたいな……。お金とか仕事(帰る場所、もしくは就職先)とか確保できている状態とそうでない状態とで頑張り方も違うだろうし……(でも自分は追い込まれるよりはのんびりやりたいなぁ)

1回内容知っていることを再学習、けっこういい復習になって効果ありますよね。ローカルの学部卒の人がついていけないのはかわいそうではありますが……。でもやっぱり自分がシドニー大学で学んでいちばんおもしろかったのは自分が全く知らない内容の授業だったので、新しいことがないと英語の勉強になってしまって最初の段階でめげてしまいそうです。(でもそれくらい余裕がないと初めての外国生活の人なんかは生活に慣れるだけで大変なので、ちょうどいいのかも……)

中西部は外国人には住みにくいみたいですね。先日アメリカで研究員している人からも「アメリカに行くなら西海岸か東海岸がいいよ、中西部とか選挙で真っ赤な州(=共和党の強い州)は止めた方がいい」と言われましたが、自分も行くなら西海岸にしたいですね〜。シアトルでの生活はけっこう快適でした。カリフォルニアがどうかちょっと気になっていたのですが、まあ治安面と生活費を除けばそれなりに住みやすいんじゃないかな? と想像しています。日本もレベル高い分野はレベル高いし、あえてアメリカに行かなくてもいいんじゃないかな(ときどき外国に出る機会があれば出るようにするなら)、と最近は思います。

icloudicloud 2009/01/19 17:55 NAISTには、高校のSSHでお世話になりました。
「高校で浪人して日本の大学へ。大学院はアメリカへ」を現在進行形で実行中の理系です。とても参考になりました。

親との交渉に難航しているので、このエントリーに大いに助けてもらえそうです。 感謝!

mamorukmamoruk 2009/01/19 19:42 icloud さん、はじめまして。コメントありがとうございます。

SSH ってのはスーパーサイエンスハイスクールのことですね。先日発表会があったようですが、こういう取り組みがよくあるのは NAIST のいいところだと思います。ぜひ利用してください :-)

日本の大学はけっこう研究・教育水準としてはいいので、受験勉強で基礎学力をしっかりつけて(高校はいろいろ楽しんで浪人してもいいと自分は思っています)、学部はちゃんと勉強(英語の教科書を使うところに行った方がいいでしょうが……)して、機会があれば交換留学で数ヶ月-1年程度海外に行き、大学院から本格的に拠点をアメリカに移す、というのがいいと思います。特に学費については心配ないということは親御さんにも教えてあげてはいかがでしょうか ;-)

ただやっぱり分野によってどれくらい競争が激しいかは違うので、アメリカに大学院で渡ってそれから先が続くかは可能なかぎり調べたほうがいいかなと思います(幸い情報系であれば博士号を取得して民間企業に就くのも普通ですし、複数の企業から内定がもらえるくらいであれば初任給で日本円的に1000万くらいも不可能ではない、とのことです)。いずれにせよ学部1-2年のうちから準備していたほうがいいですね。

http://d.hatena.ne.jp/mamoruk/20081207/p1

に書いた本も参考になりますので、まだ手にしたことがなければどうぞ〜

shimashima 2009/01/20 03:03 > 日本の修士号がアメリカではなんの意味もないというのは NAIST に来てから知った

アメリカの大学で修士を取って別のアメリカの大学のPh.D.プログラムに行くときも単位は移行できないので、最初の2年間は授業漬けになるケースが多いと思います。なので日本の修士号だから意味がないとかそういうことはないと思いますよ。

ある先生に言わせれば、博士号をどこでとろうが何年で取ろうが、最初の職を見つけるときぐらいにしか有効でなく、その後は実力勝負だといっていましたが、確かにそのとおりだと思います。実力(基礎知識や論文を書く能力だけでなく、研究立案能力、ディスカッション能力、プログラミングスキル、ティーチングスキル、語学力などいろいろ)が見合わないとサバイバルな世界では生きていけないので、日本の修士課程で将来のサバイバルのための急がば回れ的な準備をするのも人によってはひとつの戦略かもしれません。

F原F原 2009/01/20 11:58  僕は、以下の3つの点から、学部もアメリカの方が良いと思います。

 第1に、高校在学中や浪人中の予備校の学費を計算に入れると、学部は日本の大学に行った方が安上がりとは必ずしも言えないのではないでしょうか?第2に、日本の大学入試よりもアメリカの大学入試の方が、難易度が低いようなので、たとえ高校でいろいろ楽しんだとしても浪人しなくて済む可能性が高いと思います。第3に、アメリカには日本の予備校のようなクオリティーの講義をやっている大学が存在します。そのような大学に入ることが出来れば、日本でしっかりと受験勉強することで身につくような知識や技能を、大学の教科を題材に身につけることが出来るはずです。さらに個人的には、予備校クオリティーの講義で大学の教科を学ぶことが出来るのであれば、多少余分にお金がかかっても良いと思います。

mamorukmamoruk 2009/01/20 19:05 いやー、実際にアメリカ行っている人たちから続々とコメントもらえて非常に参考になります。どうもありがとうございます。

>>shimaさん
そうでしたか、つまりそもそも Ph.D. プログラム単位で閉じているというわけですね。それなら同じ内容を英語で2回受けるのはちょっと時間の浪費に見える(同じ分野なのにアメリカ内で研究室変えるというのは余程のことでしょうから、変えて分野変わるなら新しいこと学べるのでいいんでしょうが)ので、むしろtakekiくんが書いているように、日本で事前に学んでおいて復習がてら英語で受け直すほうが効率的なのかも分かりませんね。

サバイバルという意味ではこれまで日本では終身雇用が多かったので最初の職を見つけるときが非常に重要だったんだと思いますが、アメリカのように流転を繰り返す文化であれば、確かに実力が大事でしょうね。自分はその中間くらいかなぁと思っています。あとで伸びるための準備期間として足りないところを強化しておく、というのはいい投資だと思います。どこかで書いたかもしれませんが、自分に関する投資は複利で利益が出るので、短期的には少し損に見えても長期的にはものすごいプラスになることもたくさんありますしね。

>>F原
1番目の点、学部はアメリカでそれなりのところに行くと授業料だけで年200万程度、生活費もいれると年450万円くらいかかるそうですが、日本でこれだけかかるのは都内で私立の理工系の大学に通う下宿生で、かつ高いところに住んでいないとかからないと思うのですが……。予備校代は人によりけりだと思いますが、だいたい1年フルで浪人して学費はかかって100万円程度だそう(生活費除く)で、それで国立大学に入れるなら4年で元は取れるのではないかと思います。コミュニティカレッジに2年行けば少しは学費が圧縮できるでしょうが(大学1年の秋、大学辞めてそういうことしようかと考えていた時期がありました)、引っ越し費用とかなんだとか考えるとそんな変わらないですね。

2番目の点に関しては、どういう大学に入りたいかということと、基礎学力がどれくらいついているかによるのではないでしょうか。自分が浪人してもいいと言っているのは、基礎学力がついていない状態で日本だろうと海外だろうと大学に行っても、ちゃんと勉強についていけないだろう、と思うからです。浪人するのは別にデメリットじゃないと思いますし(1年間精神的に不安定になるのはマイナスですが)、1年間しっかり基礎学力つけられるなら、むしろ浪人するべきだと思います。

3番目の点は、確かにそうであればアメリカの学部に行くのも(お金が許せば)ありうるのではないかと思います。まあ、最近はインターネットで授業も見られたりするので、授業だけに限っていえば、そこまであえてアメリカに行かなくても日本の大学に通ってそういうのを見ればいいんじゃないかとも思いますが……(もちろん大学に通うのは授業だけでもないですし、授業でも実習やらチュートリアルやらありますので、ビデオレクチャーだけでいいと言うわけではありません)。ここまで来るともうあとは内容の問題ではなくコストパフォーマンスの問題なので、それに見合うだけの価値があると判断し、なおかつそれが出せる人が行けばいいんじゃないでしょうか? 自分のケースではさすがにそこまでは出せませんでした。20歳以降生活費も学費も自分で奨学金もらったりバイト代でまかなったりしていましたが、それでアメリカの学部に通う費用まかなうのは無理だったので、家にお金があって親が出してくれるとか、そういう幸運が重なればチャンスは逃さないほうがいいですね〜