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【社説】

トヨタ社長交代 世襲の意味どう示す

2009年1月21日

 トヨタ自動車の社長に、十四年ぶりに創業家から豊田章男氏が就く。世界一流企業の世襲には疑問もあるが、規模を追う路線と一線を画し、日本のモノづくりを守る斬新な手法で取り組んでほしい。

 豊田章男氏は五十二歳。グループの創始者・豊田佐吉から四代目となる。

 トヨタに入社した一九八四年当時、トヨタが海外で生産した台数は三十万台弱。今では四百万台を超える。父の章一郎名誉会長が工販合併で基礎固めをし、奥田碩相談役が海外展開で世界最強の製造業企業をつくり上げた道筋を、ずっと社長候補として歩んできた。

 今回の社長昇格のポイントは、本業のもうけが消える赤字決算の直後で、世界の市場が低迷する中の就任になるという点だろう。

 トヨタは二〇〇九年度の決算で、最終的な損益まで赤字になりかねない。そんな厳しさの中、「創業家の下で団結力を高める」と、事実上の世襲に業績回復をかけるグループ内の機運には旧財閥時代の古い体質すら感じられる。

 豊田家は、トヨタ株を2%程度しか保有していないとされる。だが一兆円を超えるようなグループ企業の首脳にも、一族が就いている。経営への影響度は、保有株数だけでは測れない。

 社名に松下幸之助の名を冠していた松下電器産業は昨年、「パナソニック」に社名を変更し創業家色を薄めた。優れた人材を公平に評価する社風の定着には、世襲制がマイナスに働く場合がある。

 「豊田姓に生まれることを選択できなかった」。章男氏は内定会見で感想を聞かれ、こう繰り返した。だが決まった以上は、世襲だからこそできる思い切った若返りを活力にするしかない。

 今後、先進国は自国の産業再建のため、技術革新競争に多額の資金をつぎ込む。トヨタがハイブリッド車などで築いた優位も万全ではない。新興国も、地元資本優遇色を強めることが考えられる。

 国内でも、若者の車離れや円高による輸出利益の目減りなど課題が山積している。雇用の確保もトップ企業に課せられた大きな義務だ。

 二〇〇八年は、世界販売で米ゼネラル・モーターズを抜き一位になるのが確実。だが創業の精神に立ち返るなら、企業の隆盛にこだわり衰退した米自動車産業の轍(てつ)を踏まぬよう、消費者や地域の目線でモノをつくる姿勢を貫き、難局に立ち向かってほしい。

 

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