「派遣切り」「期間工削減」「内定取り消し」など、日増しに雇用崩壊が進んでいる。先行きの不安が国民の気持ちを暗くし、消費者は生活防衛のため買い控えをしている。物が売れないから、企業は生産量を減らさざるを得ず、その結果、人員削減が広がっている。悪循環だ。
「政治は何をしているんだ」。この国民の声は、国会に届いているのだろうか。正月明けから始まった国会では、労働者派遣法の見直しや仕事と住む家を失った派遣労働者へのセーフティーネットのあり方について議論が行われている。しかし、スピーディーな対応ができているとはいえず、社会全体に「いらだち」がまん延しつつある。
このところ、雇用問題を所管する舛添要一厚生労働相の発言が注目を集めている。「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)というのは常用雇用が原則」「個人的な考えだが、製造業にまで派遣労働を適用するのはいかがなものか」など、従来の政府・与党の考え方とは異なる見解を表明している。派遣契約を切られた人たちや雇用不安を抱える非正規労働者らの立場に立っての発言であるなら、共感は広がるだろう。
しかし、与党内では製造業派遣の禁止には反対論が強い。麻生太郎首相も「常用雇用が原則」としながらも、製造業派遣の禁止には慎重だ。雇用・労働行政の責任者が製造業派遣の見直しを主張する以上は、政治生命をかけて取り組み、派遣法改正の議論をリードしてもらいたい。
舛添厚労相は昨年、お年寄りから猛反対が出た後期高齢者医療制度について、見直し私案を発表したが、与党議員から批判を浴びて、うやむやになってしまったことがある。政治家として正しい主張を貫けば評価されるが、途中で安易に妥協すれば信用を失う。雇用問題でスタンドプレーは通用しない。厚労相としての発言は重く、働く人たちへの影響も大きい。与党や経済界、労働組合などと議論し、雇用対策立案の先頭に立つべきだ。
20日の参院予算委員会で社民党の福島瑞穂党首は舛添厚労相に「口だけで製造派遣の禁止を言っていてもダメだ。言行一致で進めてほしい」と注文をつけた。
労働者の3人に1人が非正規というのが現実であり、厚労相が主張する「常用雇用が原則」とはほど遠い。正規、非正規の均等処遇の実現、欧州連合(EU)諸国で実施されている同一労働・同一賃金の原則の普及、さらに派遣法の抜本的な見直しなどによって、安心して働ける社会をつくることが最優先の課題になっている。
口だけで立派なことを言ってもダメだ。雇用・労働行政を担う舛添厚労相には、堂々と「言行一致」を貫き、非正規の雇用を守ってもらいたい。
毎日新聞 2009年1月21日 東京朝刊