やはり麻生内閣の感覚は、ずれているのではないか。国家公務員の天下り問題への対応に、そう思わざるを得ない。
公務員OBが出身省庁のあっせんで天下りを繰り返す「渡り」を首相の承認で可能とする政令が先月、閣議決定された。3年間の経過措置とはいえ、次官経験者らが民間団体を渡り歩き、退職金を重ねて得るような慣行にお墨付きを与えるようでは、公務員制度改革への姿勢が問われる。
与党からでさえ、批判が出るのは当然だ。麻生太郎首相が撤回を拒み続けていることは、問題がある。方針を改め、即時禁止を明確にすべきである。
国家公務員の天下りは新設された「官民人材交流センター」に3年後までに一元化され、各省によるあっせんはできなくなる。それと同時に公務員の「渡り」、つまり再々就職のあっせんは全面禁止される。
問題となったのは、それまでの経過措置だ。もともとは「再就職等監視委員会」が省庁があっせんする天下りの是非を判断する予定だったが、委員会人事は野党の反対で参院で否決された。このため、政府は先月、首相が天下りの承認を代行する苦肉の策を政令として閣議決定した。
ところが「必要不可欠と認められる場合」に「渡り」のあっせんも容認する文言が盛り込まれた。首相は例外的ケースと説明するが、官僚が抜け道を最大限に活用することは明らかだ。
監視委が予定通り稼働しても「渡り」は容認されたはず、とも政府は説明する。確かにその間の「渡り」あっせんを禁じる規定はないが、首相が通常の天下りを承認すること自体、窮余の策とはいえ問題が多い行為だ。ましてや、いずれ全面禁止する「渡り」の承認は、天下り規制の趣旨を逸脱している。
中央省庁が「渡り」の存続にこだわるのには訳がある。一度天下りした人の再々就職が決まらないと省庁からの再就職先のイスが空かず、非公式に築いた人事体系が乱れるためだ。
公務員退職を含め「渡り」をすれば通常、最低でも3度の退職金が官僚OBに支給される。政府答弁書によると、03~07年の5年間に官僚OBがあっせんを受けたケースは61件に達し、氷山の一角との指摘もある。行き先の多くは公益法人であり、行財政改革の視点から容認は疑問である。
首相はさきの自民党大会で、消費税増税について「大胆な行革が大前提」と強調した。だが、こんなけじめもつけないようでは、その信ぴょう性もかすんでしまう。
自民党からさえ、禁止の議員立法を目指す動きが起きたことは、国民と麻生官邸の目線のずれの表れでもある。首相がメンツにこだわるような問題ではない。抜け道は自らがふさがねばならない。
毎日新聞 2009年1月21日 東京朝刊