古書モダン・クラシック > 特集『ミセス』


服飾雑誌『装苑』のお姉さん雑誌


未熟の美しさより洗練された美しさ! 一年草の可憐さより常磐木の揺ぎなき頼もしさ!  豊かな人生の風雪を経て 身も心も より光りかがやこうとする そんな年代の女性のために  国々の戦いの日に ひそやかに乙女の夢をはぐくんできた そんな年代の女性のために  『ミセス』は あなたのために生まれた雑誌です (表紙扉より)


ミセス 創刊号
1961年10月
文化服装学院出版局 発行
表紙モデル / 池内淳子

ミセスは、当時すでに20才前後の女性向けに発行されていた服飾雑誌『装苑』編集部が、30代の女性向けに作った雑誌です。「ミセス」とは、本来、結婚している女性という意味ではあるのですが、編集後記によりますと、当初、30代の既婚と独身の女性すべてをミセスというように考えていたそうです(1964年より、副題が「装苑編集」から「奥さまの雑誌」へ変わります)。
しかし、20代と30代では、結婚も含め生活スタイルに違いがあるということで、そうした背景から、ミセスの方は服飾デザインのページだけでなく、料理・すまい・子どもの教育・教養的な読み物といった暮らし向きの記事も掲載されています。
また、着やすさ・経済面において洋服を着る女性が増えてきた当時であっても、やはり、体型を隠すためだったり、どういった洋服を着たらよいかわからないといった理由などから、まだまだ和服を着る女性が多かったようです。そうしたことも「ミセス」を作る理由のひとつだったのだそう。

編集長は、雑誌『FRONT』に憧れて編集の世界に入ったという今井田 勲氏。
参考頁※ 名取洋之助と「岩波写真文庫」T〜ジャパニーズ・グラフィズムの源流〜 <Text&Design / 古賀>

まずはじめに、創刊号より気になる記事をいくつか取り上げ、続けて、前期(1961年〜1966年)と後期(1967年〜1972年)に分けてご紹介いたします。ミセスは現在も発行されていますが、今回の特集でアップするのは、創刊号〜1972年までとなります。



ミセスをひときわシックにするアクセサリー

「きゃしゃな優雅さと渋い豪華さと。
  それがミセスのアクセサリーです。」(本文より)

いちばん最初のページは、アクセサリーの紹介。
オーガンディの黒い帽子・エナメルの黒いバッグ・チョコレート色の靴。
そして、当時の流行色であったモーブ(赤紫)カラーのブローチやネックレスなど、秋らしいシックなデザインが素敵です。



服飾雑誌でおなじみ佐藤昌彦氏によるデザイン画



奥さまのためのふだん着

お買い物に行くのにも、家事をしているときも、ミセスらしいきちんとしたスタイルで。
ふだん着といっても、やはり上品な感じです。



三菱コック式自動反転洗濯機と、やせ薬?の広告

「吸水・洗たく・ゆすぎ・排水をコック一つで手軽にやってのける洗たく機!」・・・かなり強気のキャッチコピー。
やってのける、という言い方が今ではありえないような気が。

肥満症に!
編集後記に「30才を過ぎると、どうしても太りぎみになる方が多いので」と書いてあるのですが、確かに。
(かくいう私も…)
奥さま方が買いたくなるような広告です。




左の画像は、裏表紙に掲載されている「味の素」の広告です。
湯+塩+しょう油+「強力味の素プラス」=うまい天つゆ、になるようです。そのせいか、料理ページは、季節の魚のセイゴ・カマス・ハゼ・キスなどの天ぷらでした。
酒の肴も紹介されていて、すべて和食です。意外にも、洋風料理などはありません。
ご飯のお供、季節のつけものの作り方もありまして、講師は、料理研究家の河野貞子さんです。



ママが作る 1・2才のふだん着

イラストがレトロでかわいらしい子ども服のページ。
子ども服なので、ソフトデニム・コーデュロイといった丈夫な生地で作る遊び着、ネルなどの肌ざわりの良い木綿でゆったりと作られたパジャマが紹介されています。



ワンワン・コンクール
文 / 香山美子 え / 岩崎ちひろ


学校からかえってくると、あり子ちゃんは「ただいま」っていうまえにね、まず、おとなりのかきねのところへいきます。そして、「ルーイルイルイルイ」もうちゃんとあり子ちゃんをまっている犬のルイをよびます。(本文より)

この童話は、子どもの偏食を矯正するために作られたもの。あり子ちゃんが、おとなりのおばちゃんちの犬ルイをワンワン・コンクールに出場させるのですが、大人が読んでもたいへんおもしろいお話で、何度読んでも笑ってしまいます。
香山美子さんの童話と、添えられた岩崎ちひろさんのイラストがぴったりと合った作品です。




目次より

ミセスをひときわシックにするアクセサリー
結婚式によばれて(ミセスのフォーマルな装い)
スーツこそミセスの街着
お太りになった方のために
気軽に召しませ秋のブラウス
ミセスが美しく装うために
美しい手
衣装棚に関する十章
美容院*あなたを美しくするレスト・ルーム
ママが作る赤ちゃんのきもの
秋の子ども服
変り天ぷら三題
日本酒の肴
使って便利で見て楽しいわ
ストッキング(奥さまおしゃれ講座)@、他








1961年〜1966年(60年代前半)

高峰秀子さん・南田洋子さん・岸 恵子さんら豪華女優陣が表紙を飾ります

1962年1月号 1962年6月号 1962年7月号 1962年10月号
1966年8月号 1966年7月号 1966年5月号 1966年9月号



60年代前半らしく、しっとりと上品な印象のファッション&ビューティー

1962年1月号掲載、「ミセスを美しくする黒」より 1964年2月号掲載、「2月のおしゃれポイント ブーツ」より


1966年8月号掲載、「ミセス歳時記 きれの日よけ」より

1966年7月号掲載、「ミセスに似合う短い髪型」より








手芸・洋裁・編み物の楽しみ

ミセス1966年4月号掲載、「春のきた部屋」より

英国製のもめん糸できっちりと編み込まれた、かぎ針編みのクッションといすカバーです。



ミセス1962年6月号掲載
「ママが作る子ども服 型紙をおわけいたします」より

少女用のワンピース・スカート・ブラウスなどの型紙が、有料で入手できるというコーナーです。
写真ではなく、すべてイラストで紹介されています。
とてもおしゃれでかわいいイラスト。



岩崎ちひろさん(当時はひらがな表記ではありませんでした)のカットがかわいらしい子ども服のページ(1961年11月 創刊2号より)
東京・練馬のちひろ美術館で知りましたが、岩崎ちひろさんは、「ミセス」や「装苑」などの女性誌のカットを手がけられていました。本誌ミセスでは、ヒゲタしょうゆの貴重な広告や、おもに「育児ノート」という連載ページで見ることができます。
「わが家のしつけ」という連載の1966年7月号掲載分では、ちひろさんが息子さんとともに登場されています。ちひろさんの教育についての考え方などを語られていて、たいへん興味深い内容でした。




高峰秀子の連載

高峰秀子のミセス・コーナー
「常識を破るたのしさ」
1962
8月号より
「宝石」
1962
9月号より
「旅行着」
1962
3月号より

「デコちゃん」の愛称で親しまれていた女優の高峰秀子さんが、ミセス・高峰として、くらしのあれこれを毎号紹介していく連載です。1965年からは、「暮らしのセンス」という連載がスタート。
女優業引退後も、エッセイストとして活躍されているだけあって、媚のないさらっとした文章に好感が持てます。
この「ミセス・コーナー」の担当は年ごとに変わり、1962年は高峰秀子さんでしたが、1963年は女優の南田洋子さん、1964年はシャンソン歌手の石井好子さんでした。




私の贅沢貧乏 / もり・まり

「想い出は明治時代、競馬石鹸の香(にお)いである。いくらか肉桂の香いがする。」

森茉莉さんの連載「私の贅沢貧乏」
1965年2月号「石鹸の話」より

本物の檸檬(レモン)を詰めて輸出する白い、瀟洒(しょうしゃ)な木箱のミニチュアに入った、英国製の檸檬石鹸がお気に入りだったそうで、プレゼント用によく使っていたとか。
それにしても、ニッキの香いがする「競馬石鹸」の存在が気になるところです。

※1966年からは、「私の美の世界」というタイトルの連載がスタートします。




どんな時に どんな手袋 / マダム・マサコ

おしゃれ、といえば、マダム・マサコさん。毎号、様々なテーマに沿って、おしゃれアドバイスをされています。

1962年1月号のテーマは、手袋。
写真の手袋は、外ぬいの短くて男性もののようなぶかぶかの感じのタイプで、こういったツイードのコートによく合うのだそう。
他にも、短いタイプと長いタイプの、うすくてやわらかい絹の素敵な手袋を紹介しています。

モデルは、元女優の安西郷子さん(俳優の三橋達也氏夫人)。



1961年〜1966年までの広告いろいろ

♪ 日石灯油でぽっかぽか〜日石灯油だもんね! ♪ このCMソングがとてもかわいかったです。

中央にあるのは、あのなつかしの「名糖ホームランバー」。
1966年7月号掲載の広告です。
ウィキペディアによりますと、発売は1955年とのこと。
現在でも販売されているのですから、とんでもなくロングセラーアイスなのでした。
あの銀紙をパリパリむいていくのがワクワクしたものです。
昔は、「あずき味」がありましたが、今はないみたいなので、復刻版としてぜひ販売してほしいです。


貴重な岩崎ちひろさんのヒゲタつゆの広告 ♪ ワッワッワーアワガミッツ ♪ ミツワ石鹸の広告







1967年〜1972年(60年代後半〜70年代前半)

1970年(昭和45年)6月「文化服装学院出版局」から「文化出版局」へと改称されました
(1970年8月号より「文化出版局」)

1967年4月号 1967年5月号 1967年8月号 1968年2月号
1968年10月号 1968年11月号 1970年8月号 1969年9月号
1970年7月号 1970年9月号 1972年3月号 1972年9月号



60年代後半〜70年代前半のファッション・ページ


きちんとしたスーツもふだん着もミセスの気品が漂います


明るい色合いの着やすい素材を選んで 忙しい家事もはかどりそうです



見て楽しむ 知って楽しむ 使って楽しむ ミセス全集シリーズ / 全7巻

きもの通 和服篇 第1巻
販売中です
住まいの知恵 住宅篇 第2巻
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美しい品 用具篇 第3巻
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着こなし上手 洋服篇 第4巻
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味の上等 料理篇 第5巻
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刺繍の楽しさ 手芸篇 第6巻
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くらしのセンス 総合篇 第7巻
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「ミセス全集」は、服装・住まい・生活用品・料理・暮らしについてなど、あらゆる角度からいわゆる通になれる心がけと、必要な技術・知識をまとめた、見て楽しむ家庭百科全集です。ミセス誌上で登場される各界著名な方々が、雑誌では語りきれない知識・技能のすべてを傾けて編集。函入りのしっかりとしたハードカバータイプの本です。
おつきあいやマナーに関する事柄も掲載されていますので、たいへん便利な一冊。




ミセスのお料理連載シリーズ / ヨーロッパ家庭料理 / 石井好子

石井好子のヨーロッパ家庭料理
販売中です
ミセス1972年9月号掲載 「ヨーロッパ家庭料理 9」より

シャンソン歌手の石井好子さんが、「ミセス」1972年(昭和47年)1月号から1974年(昭和49年)12月号まで連載されていた「ヨーロッパ家庭料理」をまとめたもの。
著者の石井好子さんが、ヨーロッパ各国の家庭を訪問し、材料の持ち味を生かし工夫して作りあげられた、レストランでは味わえない家庭料理の数々を紹介しています。
写真右の記事、1972年9月号掲載 「ヨーロッパ家庭料理 9」では、フランス人の映画監督と結婚後、パリで暮らす岸 恵子さんのお宅へ訪問。
以前にも、1966年〜1967年まで「石井好子の台所ずいひつ」という連載があり、こちらも石井好子さんらしい食にまつわる素敵なお話が楽しめます。




ミセスのお料理連載シリーズ / ホームメードのお菓子 / ホルトハウス房子

ミセス1971年11月号掲載 「ホームメードのお菓子」 より ホルトハウス房子 私のおもてなし料理
販売中です

写真左の記事、チーズケーキのレシピは、右写真の 「私のおもてなし料理」に収録されています。使用材料の分量が多少、変わっています。
アメリカ人の技術者と結婚後、外国生活を経験した中で料理の腕をみがき、「ミセス」他、婦人雑誌などで活躍されていた料理研究家ホルトハウス房子さんによる「おもてなし料理」の本です。
鎌倉山の自宅一角には、洋菓子店「ハウス オブ フレーバーズ」をオープン。チーズケーキはあまりにも有名です。
イースター・感謝祭・クリスマスなどの外国の祝日、また、春夏秋冬と季節に応じた、おもてなし料理が紹介されています。

※「ホームメードのお菓子」は、他にも、本間三千代さんや宮川敏子さんなど、たくさんの料理研究家の方々が担当している連載です。本間三千代さんは、文化出版局より「ホームメードのお菓子」というタイトルの本を出版されています(絶版)。




ミセスのお料理連載シリーズ / 私の西洋料理控え / ホルトハウス房子

ミセス1972年6月号掲載 「私の西洋料理控え」 より ホルトハウス房子 私の西洋料理控え
売り切れました

「ミセス」誌上1972年(昭和47年)から2年間にわたり連載されていた「私の西洋料理控え」を軸にまとめた一冊。
前著 「私のおもてなし料理」 に続く2冊目になります。
牛肉・豚肉・鶏肉・ラム肉料理、各種魚料理、スープの他、デザートに至るまで、美しい写真とともに丁寧に紹介されています。





ミセスのお料理連載シリーズ / 私の保存食ノートより / 佐藤雅子

ミセス1972年9月号掲載 「家事暦 九月 私の保存食作り」 より

当時、「私の保存食ノートより」というタイトルで、春夏秋冬と季節に応じた保存食作りを連載されていた佐藤雅子さんが、九月の保存食についてお話しされています。
夏の終わり頃から出始める黒いぶどうのキャンベルを使ったジュースやゼリー、ピクルスのつけ込みなど。
また、ミセス誌上で、洋風家庭料理のレシピも紹介されており、「私の保存食ノート」 と 「私の洋風料理ノート」は、読者の要望により復刊され、ともに2008年7月現在、新刊で購入可能です。




ミセスのお料理連載シリーズ / 福知千代


福知千代さんは、禅宗料理を中心に京料理の修行を約10年間続け、その後、京料理の店「雲月」を開店。また、1967年より「ミセス」誌上にてお料理連載がスタート。京都ならではの四季折々の美しい日本料理を紹介されています。
写真は、ミセス1971年10月号に掲載された 「秋色遊山」。
「京都の秋は、丹波のほうからいちはやく訪れる。人々は、そのたよりを聞くと、馳走を詰めたお重や、なべ、かまどなどを携えて山にはいり秋の一日をのんびりと楽しむ。」(秋色遊山本文・著者のことばより抜粋)
「秋色遊山」の献立は、枝豆・おひたし・すき焼き・まつたけご飯・どびん蒸し・おはぎ・焼きぐりなど。
京都の秋を楽しみながら味わう「秋色遊山」は、心も身体も満足のお料理です。

※ミセス編集部刊 「和食シリーズ」 の福知千代さんの本、「ご飯」 「煮たきもの・あえもの」 「つけもの・常備菜」 は、ホームページで販売しておりましたが、すべて売り切れとなっております。




1967年〜1972年までの広告いろいろ









すべてを紹介しきれませんでしたが、各界の著名な方々が数多く執筆されていました。
詳しくは、各ミセスの個別ページをご覧ください。
特集「ミセス」のページはこちらです。