東京で昨年10月に妊婦が周産期母子医療センターなど8つの病院に受け入れを断られ、脳内出血で死亡した。これを受け、周産期医療と救急医療の確保と連携の検討を進めてきた厚生労働省の懇談会は、同センターでは産科と新生児医療以外の救急体制が十分に整備されていなかったとして、周産期医療対策事業の見直しを求める報告書の案を示した。1月中にも報告書を取りまとめる。
具体的には産科、小児科(新生児)、麻酔科、救急科などの診療科があり、救急救命センターも併設する大規模施設を、地域の要望に応じて整備する。妊婦の受け入れを拒否した主因が「新生児集中治療室(NICU)の満床」だったことから、必要NICU数を今の出生1万人当たり20床から同25〜30床を目標に増やすなどだ。
懇談会では、委員から「周産期の妊婦の死因は脳卒中が多い。それに対応できないセンターを平気で指定している」と批判が出た。周産期医療は少子化対策の観点からも体制整備が急がれる。安心して子どもを産み、育てられるよう、早急に対策を講じるべきだ。
周産期は、妊娠28週か胎児が体重1000グラムに達した時から、出生後1週間までの期間を指す。周産期医療は、周産期の母子に起こる突発的な疾患に対応する医療のことだ。周産期母子医療センターの整備は、1996年から、国の事業で都道府県が進めてきた。脳神経外科などがない施設もあるという。これには「産科および小児科(母体・胎児集中治療管理室やNICUを有する)、麻酔科を有する」との限定的な基準で同センターの整備を急いできた経緯がある。さらに、胎児・新生児救急に対応できる医療システムを構築するのが一番の目的だったことから、母体への対応が遅れたという現実もある。
周産期の救急体制をしっかりさせるには一般救急との連携が鍵だが、産科と救急医療には“縦割り”というものがあるという。委員の一人は「それが、母体救命救急の対策を不十分にしている元ではないか」と指摘した。救急にかかわる診療科との垣根を低くする必要がある。
NICUは、絶対的に足りない状況が放置されてきただけに、整備は不可欠だ。しかし、同センターには医師や看護師の欠員が多いという問題がある。既存のNICUをすべて稼働できない所もある。周産期医療は勤務が過酷だ。それを、解決できなければ欠員が続き、導入したNICUも単なる“箱”にすぎなくなる。
報告書案では「政府として万全の体制を整備していくという意志を表明し、国民の安心の確保を最優先することが国の責務」とした。周産期医療の問題一つを挙げても、国は医療費削減の方針を転換すべき時期にきている。