活発な活動を続ける熊本県の阿蘇火山で謎とされる中岳第一火口の「湯だまり」について、湯水が枯れずに維持されているのは、地下で作用している水供給の仕組みと火口の規模による‐とする研究結果を、京都大学火山研究センター非常勤研究員の寺田暁彦さん(34)=火山物理学=がまとめた。日常的な火山性微動など阿蘇特有の現象解明にもつながる研究として注目される。
寺田さんは阿蘇火山の活動を探る一環で、世界的にも特異な高温(60‐70度)の火口湖である湯だまりに注目。独自に開発したカメラで水位の計測や克明な湯温観測、湖底泥の採取など、湯だまりと地下構造を探る基礎データを集め、水位の変動をコンピューターで再現できる数値モデルを開発した。
これによって、湯だまりの水の移動(年間)について(1)湖水量60万トン(2)降水流入量40万トン(3)湖底漏水量90万トン(4)湖面からの蒸発量340万トン‐という結果を得た。この結果に従えば、湯だまりから外に出る量((3)+(4))は、維持する水の量((1)+(2))の4倍を超えている。
湯だまりが枯れないためには、その差の330万トンの水が必要になるが、その供給源となっているのがマグマから噴出する火山ガスだ。約800度の火山ガスに含まれる水蒸気が従来、考えられていた以上に、湯だまりを維持するのに重要な役割を担っていることが分かった。
この成果から、寺田さんは「直径約200メートルある湯だまりの大きさと火山ガスの噴出量とが絶妙のバランスを保っており、これが湯だまりの維持に役立っている。ガスの増減はその均衡に影響を及ぼす」と判断した。
研究は火口直下100‐200メートルに、火山ガス、地下水、湯だまりからの浸透水が混ざり合った地帯(熱水系)が存在することも指摘。湖底から湯だまりに噴出する火山ガスなども、この熱水系を介している可能性があるとしている。
この研究成果は、科学誌「月刊 地球」(海洋出版)に掲載された。これを前提にすれば、火口に噴出する物質を監視することで地下の変動が把握でき、今後の阿蘇火山研究に寄与することになるという。
●数値で説明は初
▼阿蘇火山に詳しい須藤靖明・阿蘇火山博物館学術顧問の話 湯だまりがマグマから上がってくる火山ガスで維持されることを、数値的に明らかにしたのは初めて。妥当性があり、評価できる。
=2009/01/16付 西日本新聞朝刊=