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脱力を誘う「麻生の選挙逃げ」と「小沢の討論逃げ」

2009年1月19日 フォーサイト
 特に気に留めていなかった発言が、あとから思い返してみると重要な意味を持っていたことに気付かされるというのは、よくあることだ。
 十月十四日夜、東京・虎ノ門の「虎ノ門パストラルホテル」で開かれた自民党町村派の若手、西村康稔衆院議員のパーティーでの同派最高顧問、森喜朗元首相のあいさつもそうだった。森氏の前に壇上であいさつしたのは細田博之幹事長だったが、森氏は細田氏の方をチラリと見ながら、こう言った。
「細田さんは先週、麻生太郎首相と会われているはずです。なかなか、この幹事長はしぶといですからね」
 集まった一般参加者も取材のために会場入りしていた政治部記者たちも、その時点ではこの発言の重要性に気付かなかった。
 それよりも、森、細田両氏をはじめ、町村信孝前官房長官、安倍晋三元首相ら居並ぶ町村派幹部たちが次々と早期解散の可能性に言及したことが印象的だった。それが、選挙基盤の弱い若手議員を多く抱える町村派が解散風をあおっているのだろうという報道につながっていった。
 森氏が、麻生―細田会談があったと指摘した「先週」というのは、十月五日から十一日までの一週間のことだ。この期間の麻生首相の動向を調べてみると、どの新聞の「首相動静」欄にも、麻生首相が細田氏と会ったという記述はない。
 しかし、実際には、十月十日夜、細田氏は東京・虎ノ門の「ホテルオークラ」で麻生首相と会っていたことが、後に明らかになった。首相動静欄では、麻生首相は同ホテル内の日本料理店「山里」とバー「オーキッドバー」を、松本純官房副長官とともにはしご酒したことになっている。だが実際には、そこに細田氏もいたのだ。

ゴーサインは出されたが……

 それ以降の細田氏は、政治家のパーティーに出席するたびに早期解散に関する発言をエスカレートさせていった。
 十月十四日のパーティーでは、「私の地元に選挙事務所を開設しました」と言っていたのが、十五日の別のパーティーでは、「もうごくわずかの間に総選挙があるのではないかと思っている」とトーンを高め、さらに十六日には、「解散風を大いに吹かしている細田です」と自己紹介した後、「パーティーに出るたびに、私の(早期解散の)話が堅固になり、新聞記者が喜んでいる……。もうじき、そういうチャンスがまいります」と早期解散を明言した。
 細田氏はもとから早期解散論者ではある。だが、まるで解散時期を確信しているかのような細田氏の一連の発言は尋常ではなく、何を根拠にそう言っているのかは謎だった。
 ようやく十月末になって、森氏の言う十月十日の麻生―細田会談で、麻生首相が細田氏に十一月中に衆議院を解散し、総選挙を断行する意思を伝えていたことが露見。森氏の発言の意味と細田氏や町村派幹部が早期解散論を強めていた謎が解けた。
 その会談以前から、麻生首相は側近議員や選対幹部に非公式には早期解散の意向を伝えてはいた。だが、細田氏への指示は重みが違う。麻生首相(自民党総裁)と細田氏(党幹事長)は自民党の正式な指揮命令系統のライン上にあり、麻生首相が公式ルートで選挙準備を命じたという意味を持つからだ。
 この日を境に、自民党は十一月三十日投票に向けて一斉に走り始めることになった。
 一方、そうした動きとは別の理由で、自民党国会対策関係者の間では、以前から早期解散論が幅を利かせていた。昨年から今年にかけての国会での与野党攻防の教訓から、国会を長期間開いたままでいれば、国会の衆参ねじれ状況を利用して野党が攻勢を強めてくるのは必至だとみたからだ。
「ねじれ国会の下では、与党が反転攻勢を仕掛けようという試みはずっと失敗に終わってきた。むしろ、長引けば長引くほど、与党は守勢に回るんだ」(自民党国対幹部)。これが一般的な国対関係者の認識だった。
 十月十六日午後の参院本会議で、自公民各党の賛成多数で補正予算案が可決、成立した。野党である民主党が賛成に回ったのは、早期解散を促すためである。ようやく解散総選挙への環境が整ったかにみえた。成立を前にしたこの日の朝、自民党国対正副委員長会議で、大島理森国対委員長は居並ぶ副委員長たちを見渡して選挙戦突入を宣言した。
「まだ総理から、行くぞとか、行かないぞとかの言質はない。だが、どうぞ皆さん走り出してください」
 しかし、米国発の金融危機の影響で、株価は乱高下を続けていた。世論調査では、自民党の予想獲得議席がさらに低下。内閣支持率も期待ほどには上向かない。衆院選を断行するには、自民党にとって悪い条件ばかりがそろっていた。
 この日の夜に東京・赤坂の「ANAインターコンチネンタルホテル東京」内にある中国料理店「花梨」で麻生首相と会談した菅義偉選対副委員長、中川昭一財務・金融担当相らは異口同音に十一月中の解散総選挙を思いとどまるよう説得。ついに首相が折れた。その後、株価がさらに暴落して緊急経済対策の必要性が高まり、十一月総選挙の可能性は小さくなっていった。

いずれにしても「立ち枯れ」に?

 しかし、それ以降も、早期解散論は自民党内にくすぶっている。細田氏もその一人だ。細田氏は、故竹下登元首相に「私の次に選挙に詳しい」と言わしめたほどの選挙通として知られ、「選挙博士」の異名をとる。
 麻生首相の側近たちは世論調査の結果から悲観的な結論を導き出したが、細田氏は違った。十月下旬に親しい関係者らと懇談した際、細田氏は、わずかな手勢を率いた織田信長が今川義元の大軍を撃破した桶狭間の戦いの故事を引いて悔しがった。
「桶狭間は土砂降りの雨……それでも相手の首を取りに行くのか。それとも……勝負をかけずに尾張まで攻め込まれて、結局、自分の首を取られてしまうのか。私は早い方がいいと言っている」
 逆境とはいえ、大勝負に打って出る絶好機を、麻生首相は逸した――。細田氏はそう感じたのだった。
 細田氏だけではない。中川秀直元幹事長は十月二十五、二十六日の週末に中国・上海を訪問した。森ビルが建設した地上百一階、高さ四百九十二メートルを誇る超高層複合施設「上海環球金融中心」(通称・上海ヒルズ)のオープンを祝うセレモニーに出席するためだった。
 横浜市の中田宏市長も、上海市との友好都市提携三十五周年記念行事に出席するために上海を訪問していた。現地でばったり出会った二人。中田氏は中川氏に話しかけた。
「一日たつごとに、民主党政権に近づいていきますよねえ」
 中川氏も同じ思いだった。このころ、知人に「今は解散するには厳しい。株価が下がっている。だけど、来年になると金融だけではなく、実体経済がさらに悪くなる。麻生政権をめぐる情勢はさらに厳しくなるだろう」との分析を披露している。
 十月二十三日、町村派の派閥総会であいさつに立った同派代表世話人の一人、谷川秀善参院議員は衆院選を農作業になぞらえてこう言った。
「子供の時分、家が百姓をしておりまして、大体、今ごろからぼちぼち稲刈りをいつやるかっちゅうことを、みんなで相談する。稲刈りには時期ってもんがあって、タイミングをはずすと、収穫量に差が出る。判断を誤ると、立ち枯れってのもある」
 今秋の解散を要望していた公明党は十月二十六日と二十八日、最後の勝負に出た。太田昭宏代表が二度にわたって麻生首相との直談判に及んだのだ。二十六日の会談場所は東京・紀尾井町の「グランドプリンスホテル赤坂」の一室。余談だが、この会合も新聞の「首相動静」欄には掲載されていない。
 この会談内容について、共同通信は、太田氏が「一体、誰のおかげで総理になれたと思っているんだ」と麻生首相に迫り、「二人の怒号が飛び交った」と報じている。しかし、公明党と自民党は、そのような事実はなかったと抗議し、記事の訂正を要求する事態に発展した。
 本当にこれほどの激しいやりとりがあったかは不明だが、公明党関係者によると、太田氏がかなり粘ったことは事実だという。しかし、麻生首相を翻意させることはできなかった。今や公明党はあきらめの境地にあり、十一月上旬、支持母体である創価学会は衆院選に向けた臨戦態勢をいったん解除した。
 もちろん、早期解散で与党が勝利できた保証はない。だが、安倍、福田両政権を支えた経験のある町村派の細田、中川、谷川の各氏は、政権発足直後に高率だった内閣支持率が日を追うごとに低下して追い詰められていった悪夢を忘れられない。麻生首相が同じ失敗を繰り返そうとしているように思えるのだ。
 前政権でも国会運営の責任者だった大島氏も、ねじれ国会の下では政権は追い詰められていくものだと分析していた。
 こうした人々にとっては、衆院選で現有議席を大幅に減らすことになったとしても、かろうじて自公両党で過半数を維持できるなら、選挙は早ければ早いほどよかった。遅くなれば政権維持の可能性は徐々にしぼんでくると読んでいるのだ。
 これに対して、麻生首相と側近議員たちは現在の危機的な状況の方を重くみた。今、戦っても勝ち目がないし、場合によっては過半数維持も困難だ。「待てば海路の日和あり」という言葉もある。時がたてば事態が好転するかもしれない可能性に賭けたわけだ。
 麻生首相は「今の状況は政局より政策」だとしており、首相側近たちは、政治的空白を生じさせないために解散先送りを選択した、と解説する。
 たしかに世界的金融危機の中、日本経済を立て直す必要があるのは事実だ。だが、麻生首相が十一月の衆院選を避けた理由としては、経済対策の必要性以上に、今、衆院選を実施するのは不利だと判断したことの方が大きいのだろう。
 仮に、世論調査で自民党にかなり有利な選挙結果が予測できたとしたら、麻生首相はそれでも「政局より政策」を優先して、衆院選を先送りしただろうか。その場合は、やはり解散に踏み切ったのではないか。

都合の良い「風邪」の利用法

 一方、十一月選挙の可能性が小さくなったことで、民主党は肩すかしをくった。いったん選挙に向けて走り始めてしまった民主党議員たちは戸惑いを隠せない。
 多くの議員がすでに臨時の選挙用事務所を借りたり、空き地にプレハブ事務所を建てたりしているが、選挙がないのに月額数十万円の家賃や借地料を払い続けるのは資金的に厳しい。
 とりわけ、民主党候補は自民党候補ほど資金が潤沢ではない場合が多い。基盤が安定していない若手議員や新人候補はなおさら深刻だ。アルバイトを解雇し、事務所の賃貸契約を解除する候補者も多い。ただ、九月上旬の福田康夫前首相の辞任をきっかけに二カ月、三カ月契約で事務所を借りたため、すぐには契約を解除できないケースも多いという。
 衆院解散先送りが、国会の審議にも大きな影響を及ぼしている。
 早期解散を求める民主党は当初、麻生首相が解散しやすい環境をつくるために、補正予算の早期成立に協力し、麻生首相が臨時国会後半戦の最重要テーマに掲げている金融機能強化法改正案や新テロ対策特別措置法改正案のスピード審議にも、できるかぎり応じてきた。
 だが、麻生首相が早期に解散する気がなさそうだとみて、方針を転換せざるを得なくなった。平田健二・民主党参院幹事長は十月二十八日の記者会見で「解散が先送りになれば、通常の国会運営に戻らざるを得ない」と話した。民主党の言う「通常の国会運営」とは、政府・与党の提出法案の成立に抵抗するという意味である。
 ただ、金融機能強化法改正案は、経済への影響も考慮すると、あまり理不尽な抵抗戦術をとれば、かえって批判されることになる。
 また、海上自衛隊のインド洋への派遣の根拠法である新テロ対策特別措置法の延長でも、民主党は難しい立場にある。現行法の期限切れが来年一月だからだ。昨年の臨時国会では、民主党の抵抗でテロ特措法の審議が遅れて十一月一日に同法の期限が切れ、民主党の狙いどおりに、海上自衛隊は一時撤退を余儀なくされた。
 だが、今回は期限切れが一月中旬までで先が長く、民主党がどんなに抵抗しても自衛隊を撤退させることは難しい。つまり、民主党の同法案への抵抗は実質的な意味をもたず、無駄に審議を長引かせれば、これもまた国民の批判を招く可能性がある。
 また、民主党の小沢一郎代表が逃げ回り続けている党首討論も、同党にとっては頭の痛い問題だ。
 十月十六日、党首討論を開くための国家基本政策委員会の理事懇談会が国会内で行なわれた。十月二十二日の開催を求める自民党に対して、民主党は「小沢氏はのどが痛い」として開催延期を申し出た。小沢氏が風邪気味だったのは事実ではある。だが、かつて福田前首相との党首討論で反撃をくらった経験から、討論下手の小沢氏が出席を避けているふしもある。
 翌日の自民党国対正副委員長会議で、業を煮やした大島国対委員長はこう声を張り上げた。
「二十二日と言えば六日後だな。そのときまでのどが痛いっていうのが、どうして今から分かるんだ?」
 そんな大島氏の怒りを知ってか知らずか、小沢氏は十九日にタレントの上原さくらさんとインターネット番組で対談し、「めったにこんなにかわいい人とねえ……」とでれでれ。大島氏は「変な番組に出て、そんなに声が出るのなら、二十二日に党首討論をやるように、何度も民主党と交渉しろ。いつ申し入れて、いつ拒否されたかすべて記録に残しておけ」と担当者に指示した。
 小沢氏は二十三日、来日したインドのシン首相との会談を体調不良を理由にキャンセルしたが、翌日には選挙運動の一環で青森県を訪問した。大島氏は「外国首脳との会談を取りやめるほどのお体が、わずか一日で回復して青森に行けたのか」と批判。個人的な体調の問題だから、とやかく言えないが、大島氏の指摘どおり、小沢氏の風邪は、都合の良いときに回復して、都合の良くないときは悪化するかのような不自然さがある。
 民主党の他の幹部も、そのことには首をかしげながらも、やむを得ないと感じているようだ。というのも、口下手な小沢氏では、口八丁の麻生首相に党首討論で太刀打ちできないだろうとみているからだ。
 臨戦態勢が続く中、自民党も民主党も政局優先に傾いている。特に民主党にとっては、悲願だった政権奪取が現実味を帯びており、国会対策も政策も、しょせん目的達成のための道具でしかない。自分たちに有利なことは何でも利用するが、党首討論という不利な舞台であえて戦いたくはないのだ。
フォーサイト2008年12月号「深層レポート・日本の政治」189より
より
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。

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