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NIKKEI NET

社説1 「停戦」を中東和平交渉の復活につなげよ(1/20)

 イスラエルがパレスチナ自治区のガザに対する攻撃を停止し、ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスも戦闘停止を発表した。「停戦」は双方の合意によるものではなく、ともに一方的決定だが、とりあえず戦闘は終息に向かっている。

 12月27日のイスラエル軍による攻撃開始以来、パレスチナ側の死者は1300人を超え、その3分の2は子供を含む一般住民だ。負傷者も5300人に達し、多くの人が家を失った。イスラエルはガザからのロケット弾攻撃には反撃するとし、ハマスは1週間以内のイスラエル軍撤退とガザ封鎖の解除を要求している。火種は残るが、双方とも自制し、戦闘停止を停戦継続に結びつけることが、まず重要である。

 イスラエルは「ハマスの軍事能力と統治基盤に重大な打撃を与えた」と成果を誇示。ハマスはイスラエル軍の撤退開始はパレスチナ人民の勝利と宣言した。だが、多数の一般住民が犠牲になった現実を、双方とも政治的勝利と呼ぶべきではない。

 ガザでは失業率が40%に達し、住民の大半が貧困に苦しむ。その窮状はイスラエルが経済封鎖を続けてきたせいであり、ハマスなどの武力闘争は抑圧された民族の抵抗だと多くのアラブの人は言う。一方、イスラエルでは国民の9割がガザ攻撃を自衛行動として支持し、国際社会は周辺からの脅威を受けているイスラエルの状況に無理解だと主張する。

 こうした政治環境が続き、今回さらに憎悪の連鎖が広がったこと自体が、中東の政治の悲劇である。

 イスラエルとパレスチナ自治政府の直接交渉や、トルコを仲介者とするイスラエル・シリアの間接交渉などは昨年末から凍結状態に陥った。国際社会はガザでの停戦を持続させると同時に、さまざまな道筋での中東和平プロセスの復活を全力をあげて進めなければならない。

 パレスチナは内部分裂し、自治政府はガザを掌握していない。ガザの封鎖解除の前提となる境界の国際監視体制構築にも難題が多い。だが、そうした問題を克服して和平交渉を軌道に乗せ、将来の平和共存に向けた前向きの機運を早急に醸成することが国際社会の急務だ。

 和平交渉での譲歩に消極的な右派野党の優勢が伝えられるイスラエル総選挙も3週間後に迫っている。きょうの就任式を前に、米国のオバマ新大統領は「すぐに和平に向けた取り組みができるよう最善のチームを結成している」と語った。米新政権は中東和平外交に取り組む熱意を、政権発足の初日から問われる。

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