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社説2 試練が続く10歳のユーロ(1/20)

 欧州単一通貨ユーロが導入から10年の節目を迎えた。スロバキアも加えた16カ国の通貨圏に拡大し、合計の人口は3億2000万人と米国を抜く。新通貨は域内に効率と安定をもたらしたが、最近の世界金融危機はユーロが直面する数々の試練を改めてあぶり出している。

 ユーロは1999年1月1日、ドイツなど11カ国が自国通貨との交換相場を固定し、決済通貨として始動した。2002年にはユーロの現金流通が始まった。欧州中央銀行(ECB)によると1日時点でユーロの現金流通額は約7660億ユーロ(約1兆ドル)と1年で13%増えた。米ドル現金の流通量は約8800億ドルで、ユーロが大きく上回る。

 世界の外貨準備のうちユーロは約4分の1を占め、ドルに次ぐ第二の通貨としての地位を固めた。域内では通貨の両替が不要になり、人やモノの交流が拡大した。一つの物差しでコストが比べられるため、法人税率引き下げなどの競争も促した。

 導入時に1ユーロ=約1.18ドルだったユーロ相場は当初3年は1ユーロ=1ドルの等価水準を割り込むなど低迷したが、景気復調を受けて上向き、08年夏には対ドル、対円で1ユーロがそれぞれ1.6ドル、170円に迫る最高値に達した。ところが昨年秋以降に金融危機が欧州に広がってから、ユーロ相場は再び弱含んでいる。

 ECBが適用するユーロ圏共通の政策金利は導入時のドイツの低金利を引き継いでいる。このため、もともと高金利だったスペインでは不動産バブルが膨らみ、今その反動に苦しむ。ユーロ圏は初の景気後退に陥ったが、財政は各国の所管で、経済対策の足並みもそろっていない。

 ユーロ圏各国が金融危機のなかでも市場混乱の直撃を免れたのは単一通貨の傘のおかげだった。だが、最近はギリシャやポルトガルなど財政赤字比率の比較的高い国と、最大の経済国であるドイツとの間で国債の利回りの差が広がりつつある。域内の国債市場が混乱すれば、単一通貨の安定にも悪影響が及ぶ。

 課題は多いが、ここまでユーロを育てた欧州の努力は評価したい。ユーロを参考に、東アジアでも日中韓を軸に域内の通貨協力を着実に深めていくべきだ。

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