「コロンブスの卵」と言えばいいだろうか。「環境」と「エネルギー」に「雇用」をからめ、まとめて解決するオバマ氏の「グリーン・ニューディール」政策だ。
化石燃料に支えられた経済を守ろうとブッシュ政権は温暖化対策に背を向けてきた。にもかかわらず、別の理由で経済危機に陥ったのだから皮肉な話だ。
結局のところ経済は「生き物」である。多様な要素が絡み合う複雑系で、「脱温暖化は経済に悪い」といった単純な方程式は成立しない。それだけにオバマ政策の成否も未知数だが、現時点で大事なのは「環境も経済も」という明確なビジョンだ。
米国の温暖化対策の国際交渉への復帰も待ち望んでいたものだ。京都議定書以降の国際的枠組みを構築するまでに、あと1年もない。米国と、中国やインドなど主要途上国が「相手の削減が先だ」とけん制しあう不毛な議論はもう終わりにしたい。オバマ氏は温室効果ガス削減の中・長期目標も示している。中期目標の数値は「甘い」が、けなすより、中国やインドを引き込む交渉に使った方がいい。
国内排出量取引の行方も見逃せない。オバマ氏は、企業などが排出できる枠を事前に買い取る「オークション方式」を提案している。ここから得られる収益を、再生可能エネルギー、省エネ、エコカーの開発などに投じる。そこから500万人の雇用を作り出し、エネルギーの安全保障にもつなげる。反発はあるだろうが、財源に踏み込んだ総合戦略には説得力がある。
日本はオバマ氏のリーダーシップをうらやんだり、さめた目で見ている場合ではない。世界の変化に対応できなければ、取り残されてしまう。
米国だけでなく、他の先進国が環境政策をエネルギーなど他の政策と統合してきているのに、日本はバラバラだ。しかも、温暖化対策と経済対策が対立し、国として勢いのある総合戦略を打ち出すことができずにいる。温室効果ガス削減の中期目標さえめどがたたない。
日本版グリーン・ニューディールの策定を政府が打ち出したのはいいが、言葉の響きの良さにつられているだけではだめだ。環境省は政策アイデアを公募しているが、本来なら日本の独自性や海外の動向をきちんと分析した上で、官邸主導で具体策を示すべきだろう。
日本には、太陽光発電や省エネなど米国も注目する環境関連技術がある。これを宝の持ち腐れにしてはいけない。オバマ氏の就任を目覚まし時計とし、戦略的政策を進める時だ。
毎日新聞 2009年1月20日 東京朝刊